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Aランク昇級試験 その3

 若い男性騎士に案内されて早歩きで馬車の元へ向かう。


「急いで乗ってください。結構ギリギリかもしれないっす」


「うん」


「ティア!」


 馬車に乗りかけていた私は足を止めた。


「シスタ?」


 侍女に支えられながら歩くシスタの元へ、私は駆け寄った。


「驚いたわ。大袈裟な比喩かと思っていたけれど、本当に走れるくらい元気なのね」


「私は怪我には慣れてるから……それよりシスタの方こそ大丈夫なの?」


「ええ。貴女と比べたら浅い傷だもの。でもまだ歩くと少し辛いわ」


「だったら無理しちゃ……」


 私の心配を他所にシスタが微笑む。


「ちょっとくらい無理だってするわ。だって貴女は私にお礼も言わせてくれずに行ってしまうつもりなんでしょう?」


「う……私もシスタとは話をしたかったんだよ? ただタイミングが……」


「ここで見つけられてよかった」


 侍女から離れてシスタが私の手を取る。


「ありがとうティア。全部貴女のおかげだわ」


「そんなこと……それにリガルは……」


 なんとか生かしたままで捕まえることは出来た。


 でもその命はいま、危ういところに立たされている。


「貴女に出会えなければ、私は彼の思いにも、覚悟にも気づけないままだったわ。彼はお父様が言った通りの、憂国と信念を持った男だった。……いいえ。私は彼のそういう所に惹かれたはずだったのに……」


「シスタ……」


「でも罪は罪だわ。秩序を守るためにもそれは償わせなくてはならない。彼も覚悟の上だったはずよ」


「シスタ……? まさかあなたはリガルの命をもう諦めてしまっているの?」


 顔を上げてシスタが挑戦的な笑顔を見せる。


「それこそまさかだわ! 例えシグマーを生かすことになったとしても、私は絶対に彼を死なせやしない。彼はキューチェガルにとって必要な人だもの!」


 うん。真っすぐ前を向いて輝く、その瞳こそシスタらしい。


「幸いこの国にはどんな重罪も生かして償わせる法があるわ。お父様は立場上、口を(はさ)めない事もあるでしょうけれど、第二王女の私なら権威はなくてもしがらみに捕らわれずに意見を出せる。今度の事は貴族全員がこれまでの自身の行いを振り返るべきなのよ。それが出来なければこの国に未来はないわ。私は彼の命も、彼がしたかった事も、何1つ捨てるつもりはないの! 神の御使いの貴女は応援してくれるかしら?」


「うん……! もちろんだよ!」


「ありがとう……貴女ならそう言ってくれると思ったわ」


 シスタがうれしそうな笑顔を見せる。


 この笑顔が見れたなら寄り道のし甲斐はあったよ。


 シスタなら持ち前の行動力で有言実行するはずだ。


 きっとリガルの命と意思を守り通すに違いないよね。


「あの~。そろそろマジ遅刻っすよ?」


 御者台に座った若い男性騎士が、困り果てた様子で言った。


「あ、うん。名残惜しいけれどもう行かなきゃ」


「ティア……!」


 シスタが掴んでいた私の手を強く握りしめる。


「神器『砂漠の蜃気楼(デザートミラージュ)』はその役目を終えたわ。これからの私は冒険者シスタの仮面を捨てて王女シエスターとして生きていく事になる。貴女とはこれが最後なのね……」


「そんなことないよ。えへへ、また会いに来る、し、わぷっ」


 いきなりシスタが私に抱き付いた。


「絶対よ!」


「……うん。約束だよ」


 必ず全てを上手くやり遂げて、私は笑顔でシスタと再会してみせる。




「――おいおい。昇級試験に遅刻してくるとは随分余裕じゃねぇか。あぁん?」


 いかにもヤンチャな風体の冒険者が私にガンを飛ばす。


「ガッシュ、お前ももう三十路なんだ。子供みたいな口調はやめろ。あとその髪型もな」


 そう言ったのは年配の落ち着いた雰囲気の男だ。


 服の上からでもわかる鍛えられた肉体と腰に下げた剣から察するに、2人とも剣士かな?


「てめぇレグランッ。三十路じゃねえ、お前と違って俺はまだ29歳だ! それにこの髪型は俺の魂の形なんだぜ。死ぬまで変えるつもりはねえよ」


「ウニみたいな頭して。大体29と30なんて、同じようなもんじゃない」


 若い女の冒険者が呆れたように言った。


 彼女は杖を手にしている。


 魔法使いかな。


「なんだとこのアマッ!」


「あのっ、折角私の試験の依頼を受けてくれたのに、待たせちゃってごめんなさい」


 私は3人の冒険者に頭を下げた。


「気にするな。依頼(しごと)で命を落として試験日に来られない冒険者だっている」


 レグランと呼ばれていた男が言った。


「そーそー。冒険者なんて先の見えない職業なんだから。そこはお互い様でしょ? 私はカリーナ。彼はレグランね。それとこっちのツンツンしてるウニ頭はガッシュ。私達はフレイディールを拠点にしてる冒険者パーティなんだけど、たまたま仕事でシャンダサーラに逗留(とうりゅう)することになってね。ギルドに頼まれて仕事の合間に試験官を引き受けたんだ。今日はよろしくね!」


 私は差し出されたカリーナの手を握った。


「こちらこそ。あ、私は……」


「知ってる。あなたはティアズさんでしょう? ねーねー、あの元Aランク冒険者リガル・アランテに勝ったってホント?」


「噂を鵜呑みにするんじゃねえよ、カリーナ。それと慣れ合いはやめろ。これはAランク昇級試験なんだぜ」


「別にいいじゃない。女の子の高ランク冒険者って、それでなくても少ないんだから。私は貴重な出会いを大事にしたいの」


 ガッシュを睨みながらカリーナが口を尖らせる。


「けっ」


 慣れ合い、か。


 私はどちらかというとカリーナの考えに近いけれど。


「でもそうだね。冒険者ギルドが昇級試験で実力を測るのは受験者のためだもん。私も手は抜いてほしくないと思ってるよ」


「……言うじゃねえか。だがな、俺はてめぇみたいな弱っちそうな魔法使いが、あのリガルに実力で勝っただなんてこれっぽっちも信じちゃいねえんだ! どうせ不意打ちの魔法で取った卑怯な勝利だろうぜ」


「悪いなティアズ。ガッシュは俺達が止めなければ黒薔薇盗賊団に入団していたくらい、リガルに憧れてたんだ。だから認めたくないんだろう」


「てめっ、この、レグラン!」


 ガッシュのこの感じ。昔のカブトにいちゃんにちょっと似てる。


 なんだか懐かしいな。


「この野郎、何を笑ってやがる!」


「私は別にリガルに勝ってなんかないよ」


 あれはどう贔屓目に見ても引き分けが精々だもんね。


 個人的な命の獲り合いという意味では、リガルがその気なら私の負けだった。


 私はギリギリのところでタイガに助けられたんだ。


「でも……。もう一度やったなら、今度は負けない自信があるけどね」


 リガルが双剣で繰り出す乱舞は瞼に焼き付いている。


 今の私(・・・)なら、もっと上手く対処して反撃の隙を作れるはずだ。


「吹くじゃねえか……。いいぜ。てめぇの化けの皮、この俺が剥いでやる!」


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