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Aランク昇級試験 その2

「いきなり大きな声を出して、どうしたんですか?」


「え! えーっと、なんでもないよ。あはは……」


 今日試験で模擬戦闘するだなんて言ったら、また彼女に小言を言われかねない。


 というか、きっと止められる。


 ううん、絶対止められる!


 私は硬いパンに思い切りかじりつくと口を塞いだ。


「あー、さーせん」


 軽い感じのひとりの若い男性騎士が私達のテーブルの側にやってくる。


「失礼っすけど、あんたティアズ・S・オピカトーラ殿っすか?」


「もぐもぐ……ほふぬふぬ、ふむ? もぐもぐ」


 頬張り過ぎた。「そうだけど、なに?」と答えたつもりだけど、自分でも難解な感じになってしまった。


 でもどうやら伝わったらしい。


 若い男性騎士がほっとしたような顔をみせる。


「探したっすよ。国王陛下がお待ちっす。謁見の間までついて来てもらえるっすか?」


「ごくん。王様が? わかった。急いで食べちゃうからちょっと待ってね」


 私はお皿を手に持った。


「待ってください。それ、ひょっとして一気に掻き込もうとしてますか?」


 白メイドが私の手元を指差す。


「え、えーっと……」


「せめてゆっくり食べてくださいと、私言いましたよね?」


 うぅ、言葉や口調は静かでも、私を見つめる彼女の目の圧が強い。


「で、でも王様をあまり待たせる訳にもいかないし?」


「それなら謁見の後で食べれば問題ないですよね?」


「むぅ、それじゃせっかくの料理が冷めちゃうっていうか……」


「釜戸で温め直してもらえば済みますよね?」


「うぅ……」


 私の胃袋は久しぶりの食事にすっかり活性化しているというのに。


「はぁ……。私はあなたの身体を心配して言っているのですよ?」


 そう言われると言い返す言葉が出てこない。


「もう~、わかったよ。後でゆっくり食べればいいんでしょう?」


「わかればいいのです」


 白メイドが微笑む。


「ほんとに大丈夫なのにぃ」


 名残惜しみつつ、まだ少ししか手を付けていない料理を白メイドに預けると、私は若い男性騎士と共に謁見の間へ向かった――。




「よくぞ参った」


 玉座に鎮座する王様の両隣には、既に顔見知った騎士団長と魔術団長が立っている。


「はぁ。それで私に用ってなんでしょうか?」


「なんだ、機嫌が悪そうだな? 宮廷医師の報告では驚異的な回復を見せていると聞いたが、まだ体調が優れなかったか?」


 機嫌が悪いのは肩透かしのお預けをくらった私のお腹の方だ。


「ううん、体調は悪くないよ。あ、です」


「そうか。宮廷内を元気に歩き回っていると聞いたのでな。そのまま旅立たれてしまう前に報酬の件で話がしたかったのだ」


「報酬? 依頼の報酬なら、既にサイン入りの依頼書をもらってるけ……ますけど」


 王様が苦笑いする。


「話し難そうだな?」


「うぅ、ごめんなさい」


「くっくっく。よい。其方は我が国の、そして私個人においても恩人だ。公の場だが気楽に話す事を許そう」


「あ、ありがと」


 うぅ、恥ずかしい。


 いい加減、言葉遣いを覚えないとね。


「報酬というのは他でもない。其方の最初の働きに対するものだ」


 最初っていうと奴隷台帳と手書きのメモの件かな?


「それなら魔法の羅針盤を貰ってるよ」


「私を見くびらないで欲しいな。魔法の羅針盤は手段であって目的ではない。私の本意は其方にとって価値のある褒美を与えることだったのだ。だが修復不可能な壊れた魔法の羅針盤では意味を成さぬであろう?」


「それは……まぁ」


「そこでだ。其方の旧王都を目指す旅へ我が騎士団を随伴させようと思うのだが」


「え!」


「なんだ、不服か?」


「いえ! そうじゃなくて。……実は旧王都は私の見立てが間違っていたみたいで、行く必要がなくなったんです」


「ふむ……そうなのか? では代わる望みの物を申すがよい」


 いきなり望みの物と言われても……う~ん。


 お腹が空きすぎて食べ物の事しか思い浮かばない。


 でも例えそれが今一番に欲しい物だったとしても、こんな場でご飯はないよねぇ。


 う~~~ん……あ。そうだ。


「もし叶うなら……地下に保管されている2人の男女が描かれた絵が欲しいです」


 考える王様に魔術師団長が耳打ちする。


「あぁあの肖像画か。ふむ……」


「逸話を知らぬ者にとってはただの絵にしか見えますまい。それに彼女は全て承知しております故。託しても問題ないかと」


「そうだな。役割を終えた今、所縁(ゆかり)ある者の手に渡るのも運命かもしれん。いいだろう。其方にあの絵を贈ろう。だが決して小さくはない肖像画だ。其方の旅の荷物になるのではないか?」


「うん。だから全部終わった後で取りに来るよ。それまで預かっていてもらえるかな?」


 微笑みながら王様が頷く。


「ならば丁度良い。もう1つ私から其方に贈りたい物があるのだ」


 王様が騎士団長に目配せする。


「はッ」


 小箱の載った盆を持って、騎士団長が私の前へ立つ。


 開かれた小箱の中には1つの装飾品が納められていた。


 赤色で縁取りが黄色のリボンを留める銀製の装飾部分は、三日月と満月が横並びになっていて、それぞれの月に重なるように薔薇のような花が付いている。


「これは……勲章?」


砂薔薇双月章すなばらそうげつしょう。我がキューチェガルの勲章だ。其方の持つ菊花双星章(きっかそうせいしょう)と同程度の勲章だと思えばよい。それがあれば今後はキューチェガルへの入国は自由だ。そして王城への立ち入りも許される。私と……いや、シエスターとの謁見もしやすくなるぞ?」


 なるほど。それはありがたい。


「謹んで頂戴します! えへへ」


 私は勲章の入った小箱を受け取った。


「さて。私の用は以上だが、其方は何かあるか?」


 王様に聞きたい事なら1つある。


「あの……リガルは今後どうなるのかな」


「近々裁判が執り行われる予定だ」


「死刑になったり……しないよね?」


 王様は目を伏せると静かに言った。


「其方に誤魔化しはしたくないからな。正直に言うと臣下の間では意見が割れている。いま行われているシグマーの裁判では極刑が濃厚なんだが、シグマーを極刑に処すならばリガルを生かす道理が立たないという意見が多いのだ」


「だってそれは――!」


 リガルはシグマーとは違うじゃない!


 私は最後の言葉を必死に飲み込んだ。


 これは私が口出しすべき事じゃない。


「私も其方と同じ思いだ。だが私は立場上、多くの意見を無視してまで感情に走る訳にはいかぬのだよ」


 そんな寂しそうな顔を見せられたら……そうだよね。王様の方が私よりもずっと辛いよね。




 複雑な気分で謁見の間を出た私は、預けていた荷物と杖を若い男性騎士から受け取った。


「では急ぎましょう。外に馬車を待たせてあるっす!」


 その若い男性騎士が突然そんなことを言う。


「へ?」


「あれ? 看護の子から聞いてないっすか? 1週間くらい前に冒険者ギルドから王城に連絡があったらしいっすよ。で、今日のあんたの試験は街の外で行われるらしいっす。現地集合なんで、あんたが試験を受けるつもりなら会場までお連れしろって騎士団長から命令されてるんすよ。いや~、やっぱAランクへの昇級試験ともなると街中じゃ狭すぎるんすかね~」


 なにそれ聞いてないよ!!


 さてはあの白メイド、隠してたな~~~っ。


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