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Aランク昇級試験 その1

「ふぁ~~~~~~……ぁ。あふぅ~」


 目を覚ました私は両手を大きく広げると、伸びながら大口を開けてあくびした。


 まだ少し頭がぼーっとする。


 どうやら今回も良く寝たらしい。


 ここは王宮の医務室だ。


 タイガの封印を解いた私は、病室へ戻ってくるなりいつもの深い眠りに落ちた。


 また丸2日くらい寝ていたのかな。


 首筋へ伸ばした右手が肌に直に触れた。


 私の(・・)ロングヘアー(・・・・・・)がない。


「タイガ~?」


 寝ぼけ眼で辺りを見回すも、タイガの姿は見えない。


 ベッドの下かな?


 う~ん、でも普通の猫なら似合う場所だけど大魔王には似つかわしくない。


 確認するだけ無駄な気がした。


 それよりは取り戻した力を試したくて、手ごろな相手を探しにひとりで城を抜け出したってところじゃないかな。


 いくら王城の厳重な警備といっても、Aランク級の魔物に勝てるような、すばしっこくて空まで飛べる小さな黒猫の脱走は止めようがないだろうしね。


 まぁそのうち戻ってくるでしょう。


 頭を切り替えた私は、そっと胸に手を当てた。


「うん。もう殆ど痛くない」


 包帯を解いてみると、表面上の傷は塞がっていて傷痕も消え始めている。


 深い部分の傷が少し残っているようだけど特に問題はなさそうだ。


 いままで気にしたこともなかったけれど、この回復力も天使の血のおかげなのかな。


「うぅ、それにしてもお腹空いた……そうだ。鞄の中に何か食べる物が残ってるかも!」


 私は机の横に置かれていた肩掛け鞄を手に取ると、ごそごそと中を探ってみた。


「……なんにもない」


 まぁそりゃそうだよね。ほんとはわかってた。


 1泊程度の通りすがりなら兎も角、しばらく街に滞在するなら悪くなってしまう保存食から優先的に食べる。


 だって捨てることになったら勿体ないもん。


 そして次の補充は街を出る直前というのがいつもの流れだ。


 シャンダサーラには随分長い事滞在しているんだから、保存食が残っていると考える方がおかしい。


 ただ期待というのは、可能性の高さよりも願望の強さによって希望を見るものらしい。


 小さくため息をついた私は、代わりに鞄から下着を取り出した。


 いつまでも上半身裸のままじゃいられない。


 私は下着を身に着けると、いつものワンピースに着替えた。


 杖を腰のホルダーに差し込んでから鞄を肩に掛ける。


「よし」


 扉を開けて部屋を出る。


「目を覚ました途端、また脱走ですか?」


 声のした方へ振り向くと、少し離れた廊下に白いメイド服の女性が両手を腰にあてて私を睨んでいた。


 彼女は私がここへ運ばれて以来、ずっと看病してくれている人だ。


「あ、あはは……。もう大丈夫だから」


「何が大丈夫ですか。魔術師団長様から話は聞いてるんです。そうやって無茶して病室を抜け出した結果どうなりましたか?」


 スタスタと距離を詰めてきた白メイドの女性が、ずずいと顔を近づけてくる。


「また悪化して寝込むつもりですか?」


「うぅ」


 これは自業自得だ。


 そう。タイガの躯体の封印を解いた私は、流れ込んでくる魔力に耐えきれずにその場にうずくまった。


 そして駆け寄ってきた魔術師団長を誤魔化すために、歩き回ったせいか傷口が痛みだしたと私は嘘をついた。


 彼女はそれを聞いたに違いない。


「え、えーっと……そう! 私って寝溜めするタイプっていうか。たま~~~に丸2日くらい寝ちゃうのはいつものことなんだよ。今回のはそれだから心配しなくても平気だよ。えへへ」


「丸2日? 何を言ってるんですか。あなたが寝ていたのは丸3日です!」


「え……」


 実感がなかったわけじゃない。


 でも前回に続いての今回ともなれば間違いないね。


 やっぱりタイガの躯体の封印を解除した際の、私の体への負担が増えてるんだ。


「わかったら病室に戻って大人しくしていましょう」


「あっ、ちょっと!」


 私の両肩を掴んだ彼女は、くるりと私の向きを変えると背中を押しはじめる。


「本当に大丈夫だってばっ」


「そんなはずがありません! あなたはほんの数日前に重傷で担ぎ込まれたんですよ?」


 このまま病室へ押し込まれたら、むしろ空腹で死んでしまいそうだ。


 仕方がない。


 私は彼女の手と足に指向性のある『つるつるの魔法』をかけると、振り返りながらやさしく彼女の足を刈りあげた。


「きゃっ!?」


 仰向けに宙返りした彼女を両手で抱きとめる。


「えへへ。こんなこともできるくらいには回復してるんだよ。でもお腹が空いちゃってさ、背中とくっつきそうなの。食事に行かせてくれないかな」


 女性の顔がみるみる赤く染まっていく。


「わっ、わかりましたから下ろしてください!」




 私は彼女の案内で、城内の兵士達が利用している食堂へ移動した。


 適当に注文した肉料理をテーブルに置いて席につく。


 香ばしく焼けた肉とソースの香りが食欲をさらに掻き立てる! ……のに。


「あの。そんな不機嫌そうな顔で前に座られると、食べづらいんだけど」


「あなたの看病は先生から仰せつかった私の大切な仕事なんです。病室の外で倒れられては事ですからね。しっかりと見張らないといけません」


「むー。だったらせめてもう少し機嫌を直してよ」


「それは無理です。あなたが私の助言を聞かず、そんな重い食事を摂ろうとするのですから」


「だってお腹ぺこぺこなんだもん。がっつりしたものが食べたい気分なの」


 私はよくソースの絡んだお肉を野菜ごとスプーンで掬い取ると、ぱくりと口に入れた。


 空腹で敏感になっている私の舌が、素材の旨味を限界まで感じ取る。


 深みのある甘辛いソースがお肉の旨味と野菜の旨味を更に高いステージへと誘う。


 口の中いっぱいに歓喜の刺激が広がった。


「くぅ~~~~……おいしいっ!」


 私はすぐにふた口目を頬張った。


「せめてもう少しゆっくりと時間をかけて食べてください。飢餓状態で食事をすると死ぬ事もあるんですからね」


「もぐもぐ……そうなの? 胃がびっくりしちゃうとか?」


「そうではありません。栄養不足の体にいきなり沢山の栄養が入ると、呼吸や心臓などなど身体中に問題が起きる場合があるんです。あなたは昏睡状態が続いていたせいで食事をあまり摂っていなかったでしょう? 本来ならもっと胃にやさしい食事を体に慣らすように少しずつ時間をかけて摂るのが理想なんです」


「ふぅん。でも私は大丈夫だよ。いつも寝込んだ後は気にせず食べてたし。はむっ」


 呆れた顔で彼女が私を見る。


「はぁ……。まぁ確かに今更ですね。あれだけの大怪我をしておきながら、たった1週間でこんなに元気になってしまうんですから」


「そうそう。一週か……ん? あああああああああっ!!!!」


 今日って1ヵ月前に予約したAランク昇級試験の日じゃないか!


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