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リガル・アランテの真意 その11

「やめておけ。いまさら誰を斬ろうと傷まぬ心だが、殺戮者にまでなり下がったつもりはない。お前の傷もすぐに手当をすれば間に合うかもしれない。邪魔をしなければ見逃してやるぞ?」


 それでも微動だにしない私に、リガルは小さくため息をついた。


「……無駄死にだ。その行為になんの意味がある?」


「はぁ……はぁ……意味? そう……だね。生きてるあなたに……うっ……シスタが再会できる……。それだけ、かな……え、へへ……」


 リガルが目を細める。


「それは叶わぬ夢だ」


 一瞬、リガルは私から視線を逸らした。


「……やっぱりだね。あなたは……はぁ……はぁ……全ての罪をひとりで背負って……うぅ……王城で王家に討たれるつもり……なんだ」


 きっとこの場に集めた500人の野盗は、リガルがキューチェガルのためにならないと判断した根っからの悪人なんだろう。


 そういう者達をこの機に一掃するつもりなんだ。


 殺すのが目的なら使い捨ても頷ける。


「何故そうなる? 俺は……っ」


 王様には出来ないやり方に可能性を見出したリガルは、王様が失敗していれば革命を起こして王位簒奪を実行していたはずだ。


 だからこそ行動を起こす判断をギリギリまで待った所に、リガルの心の葛藤が垣間見える。


 そしてシグマーが失脚した今、一刻も早い組織の解体と、国の浄化というもう1つの計画へと舵を切ったんだね。


 リガル・アランテは変わっていなかった。


 王様が言っていた通りの、キューチェガルの未来を心から憂う男だったんだ。


「そうか、依頼主から余計な話を聞いたのか」


 私は沈黙で肯定した。


「黒薔薇盗賊団は大きく育ちすぎた。だがいまの黒薔薇盗賊団は統領の俺が在ってこそ成り立っている。そういう組織作りをしてきた。俺が倒れれば組織は崩壊するだろう。俺は始めた事の落とし前をつけなければならない」


 黒薔薇盗賊団の成長は、言い換えれば王様が時間をかけ過ぎた結果でもある。


 でもたぶん、リガルは計画を立てた時点からこうする事を決めていたんじゃないのかな。


 それは組織の規模に関係なく、邪道に進むことを決断した自分を律する楔として。


「なんとなく……わかるんだ……。私もきっと……同じように思うと思うから」


 私はロンブルク王国で生まれて育ってきたからよく知っている。


 私の国の貴族達が自分を律することができているのは、天魔戦争による教訓があるからだ。


 民を虐げて来た領主は、天魔戦争が起きた時その報いを受ける――。


 リガルがシャンダサーラで民を巻き込んで起こそうとしていることは、きっと平民を見下している貴族達に衝撃を与えるだろう。


 自分たちの地位が何によって成り立っているのか、理解して心を入れ替えてくれる貴族もいるかもしれない。


 だけどそれには多くの民の血を捧げなければならない。


「あなたは本当は今も迷ってる……でももう……自分では止まれないんだ」


「決断は済ませた。そして行動も起こした。いまさら迷うことなど許されない」


「そうだね、過ぎた事はもうどうにもならない……でもまだ手遅れじゃない事も……あるよ。えへへ……もう1つ意味が出来たよ。あなたのためにも……私があなたを止めてあげる!」


「俺のため、だと?」


 リガルの目が怒りの炎に包まれていく。


「立っているのもやっとなお前に何が出来る! この俺の覚悟を軽々しい言葉で侮辱するというなら、容赦せぬぞッ!!」


「すぅ……はぁ。私の言葉が軽いかどうか、その2本の剣で確かめてみればいいよ」


 リガルのこの怒りこそが、私の想像が正しかったと教えてくれている。


 だったらもう言葉はいらない。


 私はただ、彼を止めるだけだ――!


「いいだろう。この俺の覚悟に土足で踏み入った事、命を以って贖わせてくれるッ!」


 リガルが筋力強化の魔力図に魔力を注ぎ込んだ。


 身体強化された動きで、一足飛びに私の眼前へと迫る。


 放たれた連撃を、私は『威力を消す超つるつるの魔法』を使って防いでいく。


「く……ぅッ」


 杖を持つ腕を動かすだけでも傷口に響く。


 激痛が走るたびに筋肉が萎縮する。


 血を失う心配はなくなったけど、この痛みはなんとかならないものか。


「やはり魔力を感じない。だが魔法ならいずれ魔力が底をつくはず。その時がお前の最後だッ」


 リガルの嵐のような連撃が止まらない。


 確かにこのまま魔法頼りで防いでいてはジリ貧だ。


 でもいまの私は足運びすら覚束ない。


 『威力を消す超つるつるの魔法』なしでは、一撃だって受けられやしない。


 何か反撃の手を考えなくては……!


 ただ仮にリガルに隙があったとしても、踏み込んで反撃できるのは精々1回か……たぶんその後は無茶をした反動と激痛で意識を保てない気がする。


 リガルを殺さずに意識を刈り取れる一撃。


 我ながら無理難題が過ぎるけど、大言壮語を吐いてしまった以上なんとかするしかない。


「ッ!? また手応えが変わったな。何をしている?」


「はぁ……はぁ……」


 リガルの剣撃を受けるたびに、その衝撃で私の足元が小刻みに揺れる。


 杖を持つ手に衝撃はない。


 試したのは『威力を消す超つるつるの魔法』の真逆、『威力を受け流す(・・・・)超つるつるの魔法』。


 ヒントは私が肘打ちを決めたときの大地との一体感だ。


 あのとき、私はただ衝撃を通すだけの媒体のようだった。


 リガルを吹っ飛ばしたのは、衝撃を受け止めた大地の抗力によるものだ。


 あれを再現できないかと思ったんだけど、まだ何かが足りない。


「はぁ……はぁッ……!」


「何故だ。何故そうも必死になる? 悪人の俺が死ぬだけのことではないか。それで全てが丸く収まるというのに!」


「誰かを殺して解決する? はぁ……はぁッ……あなただけじゃない。王様もシスタも、生かして解決することを諦めてる。はぁ……ッ、はぁッ……私はそれが嫌だったんだ!」


 立場は違っても、みんなキューチェガルのことを思って行動していた。


 やり方の是非はあっても、志は清廉(せいれん)なものだったんだ。


 死でしか贖えない罪もあると思う。


 だけど私は、死からは死以上のものを見出せない。


 生きていればこそ出来る償いだってあるはずだ。


「私にはあなたの罪の重さは測れない。でも私は、はぁッ、はぁ……ッ、あなたは生きて償うべき人だと思うからッ」


 生きていなければ出来ない事は沢山ある。


 そうだよ。私が本当の両親と再会できる可能性だって、お互いに生きていてこそだもん……!


「だから死なせたくないんだ!」


 リガルの剣撃を潜り抜けて懐へ飛び込む。


 踏み込んだ足から伝わる衝撃が全身に激痛を走らせる。


 眩暈で急速に視界が狭まった。


 もう少しだけもって、私の意識――!


 伸ばした左手の平がリガルの胸に触れた。


「最後の賭けにでたのか? だが反撃する力はなかったらしい。終わりだ」


 リガルが右手のファルシオンを掲げ上げる。


「えっへへ……全部返すね」


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