リガル・アランテの真意 その9
「相手の実力を測る目には自信があったんだが、お前のような違和感だらけの者は初めてだ。だがそろそろ終わりにしよう。最後の仕上げをしに、俺は王城へ向かわねばならないんでな」
リガルが再び攻勢にでた。
「はやっ……くぅっ!」
剣撃を受け流したはずが杖を手放しそうになる。
速さも重さも格段にあがっている!?
使ったのは筋力強化の魔法か!
「おおおおおおッ!!」
体勢を崩している私にリガルが容赦のない追撃の雨を打ち付ける。
出し惜しみをしている場合じゃない。
このままじゃやられる!
「くッ!」
『威力を消す超つるつるの魔法』を使ってリガルの猛攻を片手持ちの杖で弾いていく!
「ぬぅ! 片手だと!? それに膂力が消え失せたかのようなこの手応え……! 断言できる。これは決して技などではないっ。物理法則を覆せるとすれば魔法だが、しかし魔力が全く感じられないのは何故だ? お前は一体、何者だッ!」
私が何者かだなんて、私にだってわからないよ!
「そんなの今はどうだっていい! 私にはあなたの言っていることは理屈に聞こえる。だったら革命の準備が出来た時点でどうしてすぐに行動を起こさなかったの? 本当は王様がシグマーをどうにかしてくれるのを期待して、ずっと待っていたんでしょう? それが叶ったというのに、なんでいま行動を起こすの! やっぱりあなたは何かを誤魔化している!」
リガルの言う事は一見すると筋が通っているようにも思える。
でもやってることはどう?
最初から違和感があった。
この場にいる野盗は一体どういう人達なんだろうって。
黒薔薇盗賊団の現在の推定規模からすれば、500人は明らかに数が少ないと騎士団長も言っていた。
仮にリガルの言う通り囮だとするなら、それはそれで新たな疑問が沸いてくる。
だって魔物は兎も角、それって仲間のはずの団員までもここで使い捨てにするということじゃない?
しかもリガルはここでの足止めは全く重要じゃない口ぶりだった。
旧黒薔薇盗賊団の処遇を知った今は、規模を10倍にしただけで同じことをしようとしているように思えてくる。
そう――現黒薔薇盗賊団に不要な異分子の排除だ。
それでもリガルが王になったあとの事ならまだわからなくもない。
リガルの思想に合わない者を、新しい国造りの邪魔になる者を、利用した後で捨てる、と。
でもこれから国とやり合おうって人が、貴重な戦力を無駄に使い捨てるのは明らかに矛盾してる。
リガルの目的が見えない。
「俺は何も誤魔化してなどいない。正道の限界に見切りをつけ、邪道を選んだ時から俺の両手は血でべっとりと染まったのだ。俺達の活動によって多くの者が職や生活、命すら失っている。それが直接的な関わりでなかったとしても同じことだ。あの親友の娘のように、俺が始めた事に巻き込まれた結果なんだからな。だが俺はそれをわかった上で始めたんだ。自ら進んで邪道に落ちた俺には引き返す道などありはしない。流れた血が俺に途中下車を許さないというだけのことだ!」
ここまで見せなかったほどの厳しい表情――リガルの本音が含まれている?
「だったら……っ、わかっていたのならどうして手を打たなかったの!」
「何度も言わせるな。他に手がなかったと言っただろうッ!!」
リガルの感情が上乗せされたように、連撃の激しさが増した。
「くっ……!」
手数が多すぎて『威力を消す超つるつるの魔法』が追いつかない。
攻めを控えて、体捌きと受け流しで防御へ回るしかない。
「お前は成し遂げなければならない目的があると言っていたな。それはお前にとって命を懸けるに値するほどのものか? だとして、やり遂げるために悪魔に魂を売るしか手がないとしたらお前はどうする?」
「それは――っ」
私はエンリを助けるために、彼女を悲しませるような手段は絶対に取らないと決めている。
だけどもしそれしか手段がないとなったなら……?
わからない。
すぐに答えがでるような問題じゃない。
だけど……考えたくもないけれど、正直な気持ちを言えばこの誓いを絶対に守れるだなんて自信は持てない。
いっぱい揺れて揺れて、何日も何日も眠れないくらい悩むに決まってる。
そうして悩み抜いた末に、私がそれを選ばないと断言はできない。
例えエンリと笑って話せなくなってしまうとしても、一生嫌われてしまうのだとしても……、彼女を助けられるのなら、私はどんなに汚くて小さい可能性であっても、全てをかけてしまうかもしれない。
だって、だってそうしなかったら。
それでエンリを失うことになったりしたら――。
「自分を許せるか?」
「――ッ!!」
「尽くせる手があると分かっていたのに、例えそれが邪道だとしても何もせずに黙って見過ごした結果、大切な物を失う事になったなら! お前はどうだッ!」
リガルの剣撃がまた重くなる。
「く……ッ!」
「お前なら許せるか? 俺は……俺を許せなかったッ!!」
私に右手のファルシオンを弾かれたリガルが、その反動を利用して逆回転する。
その意図を瞬時に理解した私は、慌てて身を屈めた。
裏拳のように放たれたリガルの左手のファルシオンの突きが頭上を走り抜ける。
そうだ。
私もきっとそう思う。
あの時あぁすればよかったと、やらなかった自分を責めて一生後悔すると思う。
だって手を尽くしてさえ、もしも駄目だったなら小さなことまで振り返って後悔しそうだもの……。
一周回ってきたリガルの右手のファルシオンが、下から抉る様に切り上がった。
「は……っ、しま――!」
こんな時に一瞬とはいえ思考に惚けてしまうなんて!
杖の防御――駄目っ、間に合わない!
なら立ち上がりながら後ろに飛びのいて……!
「ぁッ――!」
右脇腹から入った冷たい刃が、一気に左肩へと走り抜けた。
切り裂かれた断熱のケープが空に舞う中、胸元から神の一滴の涙が飛び出す。
「ぁ……あ……っ」
斬ら……れた……!
真っ白な私のワンピースが鮮血に染まっていく。
刃が通ったところが燃えるように熱い。
「うッ……く……うぅッ!」
遅れて激痛が襲ってきた。
どくどくと流れる血に乗って、体力と体温が失われていく。
「は……ッ、はぁ……ッ」
痛みとショックで呼吸がうまくできない。
「瞬間的に飛びのいて致命を避けたか。だが意味のないことだ」
もう、立って……いられない……。
「俺は既に失ってしまった後だが、もう二度と同じ過ちは繰り返さない。失われたものを取り戻せなくとも、この痛みを無意味なものにだけはしないと友に誓ったのだ」
膝まづく私に、リガルが剣を掲げ上げた。
「はぁッ……はぁッ……死……ぬの……?」
視界には眩しいくらいに沢山の神力の光の粒が舞っている。
まるで宿主の私の最後を見届けようとしているみたいだ。
私は馬鹿だね。
余計なことに首を突っ込んだりするから、一番大切なものを守れなくなる。
わかっていたのに、本当に馬鹿だ。
でも私はシスタの事を見過ごせなかったんだもん。
シスタは例えその手でリガルを殺せても、逆にリガルの手で殺される事になっても、どっちにしても深く悲しむはずだから。
私はそんなシスタの顔を見たくなかったんだ。
「ごめん……エンリ……ごめん……シスタ……リガルを……止められなか……っ」
「終わりだ」




