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リガル・アランテの真意 その8

「はあああああ~~~ッ!!」


 『すべらない魔法』をかけて後ろに残してきた軸足と、全力で1歩踏み込んだ右足で大地を貫く。


 固めた下半身から腰、背中、肩、そして腕へと繋げて、私はリガルのみぞおちに全体重を載せた肘打ちを放った!


「ぐッ!? がああああッ!!」


 私よりもずっと体格の大きなリガルが吹っ飛んだ。


 くの字に折れたリガルの体が4mほど先にあった大岩に激突する。


「うそ……え?」


 思いっきりやったけど、流石にこんな威力は想像もしていなかった。


 不思議な手応えが全身に残ってる。


 打撃の瞬間、リガルの体から私の肘に返って来た衝撃が瞬間的に私の全身を駆け抜けた後、大質量の大地にそっくりそのまま押し返されて再びリガルの体へと逆流したような……。


 まるで自分が巨大な大地の一部になったみたいだった。


「う……ぐぼッ」


 瓦礫から起き上がったリガルが、逆流した胃の物を吐き出す。


「はぁッ……はぁ……体格差で圧倒的に勝るこの俺が吹き飛ばされるだと!? ぐぐ……っ、何かの魔法か、それとも技術なのか? いや、魔力は感じなかった。ということは技か。まったくお前は見た目といい、手にした武器といい。何1つ当てにならない。嘘ばかりだな」


「私にそんなつもりはないけれど、幻影魔法を剣技に取り込んでいるあなたがそれを言うの?」


 初めて入ったダメージらしいダメージだ。


 おしゃべりで休ませはしない!


 今度は私から間合いを詰める。


 私の追撃を、リガルは2本のファルシオンで防御した。


「お前は侮れない相手だ。悪いが今度こそ全力で行かせてもらう!」


 リガルの両肩の筋肉が膨れ上がった。


 力任せに私を押しのけて、リガルが2本のファルシオンを逆手に持ち替える。


 あれでは剣というより短剣の持ち方だ。


「おおおおおおッ!」


 リガルが踊る様に回転しながら剣撃を放つ。


「この動きは……!」


 前にシスタが私に見せた剣技とよく似ている。


 ただ1刀で繰り出されたあの時と違って隙が無い。


 こちらがオリジナルで完成系ってことか!


「くぅっ!」


 荒れ狂う竜巻のような連撃に、杖での受け流しが間に合わない。


 後退する私に、リガルは手が届く程の超近距離でピッタリと張り付いてくる。


 ううん、張り付かないとならないんだ。


 ファルシオンを逆手に持つのって、剣の”長さ”という利点を捨てているようなものだもの。


 突きも出せないし、間合いは短剣並なのに短剣よりも重い。


 相手が剣なら手や腕を切られるリスクもあがる。


 はっきり言って間違った道具の使い方だ。


 それなのに――!


「く……っ!」


 剣先が走っているせいか、明らかに剣撃が重くなってる。


 突き出された手や腕、振り切った後の肩や背中を狙おうにも、リガルの剣の扱いが上手すぎる。


 剣の柄や長い刃をまるで盾のようにして防がれてしまう。


 そして次の瞬間には二刀目の剣撃が飛んでくる。


 てこを利用しようと剣の先端を狙って刃を止めてみても、剣の峰を直接腕で押されてこちらが押し負ける。


 何よりも剣を引く動作を必要としない分、手数の多さが際立って息をつく暇を与えてくれない。


「はぁ……ッ! はぁ……ッ!」


「そろそろ息があがってきたか?」


 反撃の糸口が見えない。


 同じ剣術でも一刀のシスタとは比べるべくもない。


 流れるような逆手持ちのリガルの二刀流は隙がなさすぎる――!


 私の手足に出来た新たな切り傷から血が流れる。


 下手に反撃しようものなら、このざまだ。


 あやうく四肢を飛ばされるところだったのだから、この程度の傷で済んで御の字だったと言えなくもないけれど、打開策も見えないままでじわじわと切り刻まれていくのは全くいい気がしない。


「くっ、はぁ……ッ、はぁ……ッ。どうしてそこまでする必要があるの? シグマーはもう終わりだよ。今更王様の命を取って玉座を手に入れることに何の意味があるの? それとも苦しめられている人のためといいながら、最初からそれが目的だったの?」


「玉座など俺にとっては窮屈でしかない場所だ。進んで座りたいものか。逆に問うが、シグマーとその取り巻きが裁かれたら奴隷制度はもう悪用されないと、お前は本気でそう思っているのか?」


「思ってるよ。はぁ……っ、はぁ……っ、少なくとも王様は二度と繰り返されないように法の不備を正してくれると信じてるっ!」


「純真だな。貴族共の権力欲はお前が想像する100倍はドス黒い。法が変わったなら変わったで、新たな網の目を突くだけの話だ。そんなことで奴らの欲求を止めることなどできはしない。しばらくは大人しくしているだろうが、いずれまた権力欲に目が眩んだ者がレギマンと手を組み、同じ過ちを繰り返すだけだ!」


 リガルも疲労が溜まってきているはずなのに、表情はおろか動きにもまるで淀みが見えない。


 底の知れない体力だ。


 このままだと押し負けるのも時間の問題か……。


「はぁ……ッ、はぁ……ッ、だからあなた達が彼等にとって代わるっていうの? でもあなた達だって権力欲に溺れないとは限らないじゃない。盗賊やってた人間の方がよっぽど信用できないよ!」


 もうあれをやるしかない……!


「確かにあいつらは根っからの野盗だ。スカウトのためにロンブルク王国へ向かわせたというのに、半年足らずで役目を放棄して盗賊家業に勤しみだすような、な。予想通り冒険者の返り討ちにあって全員死んだと報告を受けている。今の黒薔薇盗賊団に黒薔薇の刺青を持つ者はひとりもいない」


 予想通り? ひょっとしてリガルは元黒薔薇盗賊団のカシラと団員を切り捨てるつもりで、まとめてロンブルク王国へ送った?


「答えになってない!」


 リガルの剣撃に『威力を消す(・・・・・)超つるつるの魔法』をかけて杖で弾き飛ばす!


「なにっ!?」


 剣の流れを無理やり止められたリガルが一瞬隙をみせる。


 飛び上がった私は、そのままリガルの顎を膝で蹴り上げた。


「がふっ!」


「そんなの、あなた達なら大丈夫だって理由にはなってないよ!」


 仰け反って後退するリガルに杖の追撃を放つ!


 その追撃をリガルは慎重に2本のファルシオンで受け止めた。


「また何かおかしなことをしたな?」


「さあ? 何の事かなっ!」


 杖で責め立てる私に対して、リガルが一変して様子を見るように防御に回る。


 元Aランク冒険者というだけあって慎重な男だ。


 あまりあの魔法を見せるのは控えた方がいいかもしれない。


 尤も『つるつるの魔法』よりも1回で沢山の神力をもっていかれるから、考えなしに使いまくれる魔法じゃないのだけど。


「世の中に不変なものなどない。だが俺達は権力を私物化した者がどういう末路を迎えることになるか、よおく理解している」


「だから少しはマシだって? たったそれだけの違いのために、王様の命を奪おうっていうの!?」


「違うな。簒奪によって王が変われば、他国と交わされた過去の約定に縛られることもなくなる。国内に於いても抜本的な法の改革が可能となるだろう。権力者による不正がまかり通らない新しい国造りも捗るというものだ!」


 リガルの肩口から青い光が漏れ出る。


 あれは魔法発動の光!?


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