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リガル・アランテの真意 その7

「確かに少し甘く見ていたようだ。だが俺の信念と覚悟の重さが、お前に劣る道理はない!」


 リガルが杖を止めたファルシオンを握る右腕に力を籠める。


「ぬぅッ!」


「くっ!」


 片腕の力だけで、強引に押しのけられた。


 リガルが踏み込みながら私の顔に左手に握ったファルシオンで突きを放つ。


 眉間に迫るその切っ先の側面を、よろめいていた私は杖の持ち手で突いて辛うじて軌道を逸らした。


()ぅ……っ!」


 かすめた頬を少し斬られた。


 けど痛みに怯んでここで足を止めたらやられる!


 私はそのまま身をひるがえしながらリガルの右手へ回り込んだ。


 そこへまるで待ち受けていたかのように、脇を締めたリガルの右手のファルシオンが真横に閃く。


「が……ぁッ!」


 強烈な衝撃がお腹から背中へ突き抜ける。


 まるでブラッドベアーに殴られたかのような一撃!


 私の体が5mは軽く吹き飛ばされた。


 さっきまではリガルも本気じゃなかったんだ。


 これがリガルの本当の力……!


 辛うじて両足から着地した私は、腹部の痛みにその場で膝を折った。


「防がれたか。並の杖ならもろとも胴体を真っ二つにしていたものを。怖ろしく硬い杖だな。軽そうに見えるが実は金属製なのか?」


「はぁ……っ、はぁ……っ!」


 今のは危なかった……!


 首筋を流れる冷や汗が止まらない。


 心臓が破裂しそうなほどバクバクいってる。


 呼吸が乱れる……っ。


 杖を握る両手もまだ痺れてる。


「まあいい。斬れぬほど硬いなら、次はお前だけを斬ればいいだけの話だ」


 2本のファルシオンで風を切りながら、リガルが間合いを詰めてくる。


 休ませてくれるわけないか。


 私は震える膝を無理やり伸ばした。


 右から左から、逃げる私を追いつめるようにリガルの刃が降り注ぐ。


「く……っ!」


 全身の筋肉が強張って思う様に体が動かない。


 連なって放たれるリガルの二刀を、後ろに下がりながら辛うじて受け流す。


 新たな衝撃に手のしびれがなかなか治まらない。


 二刀流なのに、リガルの一刀一刀はなんて重いの!


「どうした? まるで鋭さが消えたようだぞ。まさか死の恐怖で踏み込めなくなったか?」


 死の恐怖? 私が?


「はぁ……っ、はぁ……っ!」


 ……そうかもしれない。


 確かにリガルは私が思っていた通り、私が知る最強の男――エルガンと肩を並べそうな実力者だ。


 でもエルガンとの模擬戦闘ではこんな状態を味わったことはない。


 その理由は明らかだ。


 リガルの剣には高い実力に裏付けされた鋭さだけでなく、私への明確な殺意がある――!


「図星か。だがお前のように若くして高ランクへと登り詰めた者にはありがちな話だ。地面に置いた縄の上なら誰でも歩けるが、崖に張られた縄の上を歩ける者は少ない。挫折を知らない者は前しか見てこない。だから自分が立っている場所のことに気づけない」


 リガルの剣筋が大振りへと変わっていく。


 決死の覚悟で踏み込んでこない私の反撃など、恐れるに値しないと判断したんだ。


 言葉に出来ない悔しさが沸いてくる。


「己よりも強い者と対峙し、命の危機が迫って初めて戦闘というものの現実を正しく理解し、精神鍛錬の未熟さを理解するんだ。今際(いまわ)(きわ)にな。そういう若い冒険者を俺は何人も知っている」


 受けに回ると良くわかる。


 リガルの剣術はエルガンと同じで無駄がない。


 まるで理詰めをするように数手先の致命の一撃へ向けて、避けづらい体勢へと私を誘導していく。


 なんとか捕まらずにもってるのは私が逃げと守りに徹してるからだ。


 尤もそれも長くは続かない。


 組み立てられた緻密な誘導から私が逃れるたびに、リガルはその経験を次の誘導に加えていくからだ。


 さっきから足元に散らばる大きな石を踏みそうになったり、身を隠せるほどの岩に進路を阻まれたりすることが増えてきている。


 これは偶然なんかじゃない。


「く……っ! はぁ……っ、はぁ……っ!」


 死を怖くないと思った事なんて一度もない。


 それが未熟だという事なら、私の精神は弱いのかもしれない。


 でも死ぬよりも怖いことだってある。


「はぁ……っ、はぁ……」


 エンリのために何も成せないまま、こんなところで倒れてたまるか!


「ふぅ……。……っ!」


 覚悟を決めて、私は前へ踏み出した。


 リガルの剣撃を潜り抜ける。


 虚を突いた私の杖の先端が、リガルのみぞおちへ突き刺さる。


「ぬぅ!」


 次の瞬間、背中に衝撃が走った。


「がはっ」


 リガルの肘打ち!


 べたりと地面へ叩きつけられた私は、追撃の刃が降り注ぐ前に身を転がせて起き上がった。


「は……っ!」


 顔を上げた私の目の前に、薙ぎ払われたファルシオンの刃が迫る。


 反射的に体が動いた。


 杖でガードするのと同時に、自分の足に『つるつるの魔法』をかける。


 リガルの剣の威力を利用して間合いを取りながら、改めて確認した。


 砂地のここでは、やっぱり『つるつるの魔法』は威力が半減以下だ。


「驚いたな。この短い間に、実戦の中で死の恐怖を克服したのか?」


 リガルは休む様子も見せずに向かってくる。


 厚い鉄板を突いたような感触がまだ手に残っている。


 あの程度の打撃じゃリガルの足は止まらない。


「はぁ……っ、はぁ……っ、ふぅ……。克服? さあね。私は何も変わってないよっ!」


 リガルの二刀を杖で弾いて、避けて、決死の間合いへと足を踏み入れる。


 死への緊張感が首筋にチリチリと纏わりつく。


「私は死ぬのが怖い。じゃああなたはどうなの?」


 『すべらない魔法』を使った私の渾身の一撃を、リガルがこの戦闘で初めて身を引いて躱した。


 杖の先端がリガルの胴をかすめる。


「俺は死など恐れない。そんな覚悟など、とうの昔に済ませている!」


 降り注ぐ2本の刃を杖と体捌きで受け流す。


 ここまで相手の動きを観察してきたのはリガルだけじゃない。


 リガルの剣は合理性の塊だ。


 淡々と相手を追いつめ、実力を出させず、自分のペースで戦闘を支配する!


 でもそれは逆を言えば、リガルが手の内を晒すたびに私も彼の剣筋の予測を立てやすくなるということでもあるんだ。


 そしてもう1つ。


 リガルの二刀流には致命的な弱点がある!


 掲げ上げられたリガルの左手に握られたファルシオンにタイミングを合わせる。


「はああああッ!!」


 振り下ろされたファルシオンを、私は渾身の力を籠めて杖で弾き飛ばした。


「ぐっ!?」


 その弱点とは、リガルは片手では私の渾身の打撃を受けきれないという事だ!


「腕が上がるほどの衝撃を受けながら、剣を手放さなかったのは流石だね」


 でも私の狙いはリガルの体勢を崩して重心をずらす事!


 片手に持ち替えた杖で右手のファルシオンを跳ね除ける。


 体格差があろうとも、揺らいでいる軸が相手なら負けやしない。


 2枚の厄介な刃を取り除いた事で、この瞬間リガルの正面が大きく開いた。


 ここだ。もう1歩、さらに深く懐へ!


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