とある親父の帰還事情
「やっと帰れるなあ・・・・・・」
俺は馬車の荷台で揺られながら、思わずそう呟いていた。
ワイトと死闘を繰り広げたあの日から、既に三日が経過している。
「そうですねえ・・・・・・」
俺の独り言のような呟きに思わず反応してしまったのか、ボルクは相槌を返す。
ここ数日の出来事が波瀾万丈すぎて、こうしてのんびりと馬車に揺られていると余計に反動が出るのか、体だけでは無く精神まで弛緩してしまう気がした。
そして、そのこと事態は俺だけの話では無く、ほぼメンバー全員が同じような状態にあり、擬音で表せば全員が“グテ~”となっていたのだった。
そんな状態に陥りながら、俺はぼんやりと数日前の出来事を振り返っていた。
あの日、ダンジョンの偵察を終えた俺は、ガンズ老を初めとするドワーフ達に状況を説明し、協力を依頼した。
聖女アマ―リアの聖壁を塞ぎ、俺の魔術で『施錠』をすれば、少なくとも残るワイトの脅威からは逃れられる可能性が高い事を説明する。死者の王復活という、最悪のシナリオは回避された事に全員が安堵し、ドワーフ達は協力を快く承諾し、早速封鎖の準備にかかった。
まずは聖壁の塞ぎ方を検討する。ガンズ老の質問に俺が答える形で現在の状況を説明していく。
俺としては、聖壁の扉を閉め魔法で『施錠』すれば問題ないと考えていたが、それだけでは心もとないと言った意見が出て、壁の奥の通路を物理的に閉鎖する案が採用される事になった。
ドワーフ達が木材や石を使って、通路を埋めるための準備にその日一日を費やし、翌日、日も昇らぬ早朝から俺たちは遺跡に向かって出発した。
遺跡に向かうドワーフの一団は総勢が百名もいるのだが、移動に際して例の騒音をまき散らしながら向かうとしたので、俺は仰天して敵を刺激しかねないとの理由で何とか止めてもらった。――ちなみに楽隊の皆さんからは、大いに不満をぶつけられた。
行軍距離は半日程度――一日に行軍出来る距離の半分――の予定であったが、思った以上にまともな道が付いておらず、多数による行軍だった事も有り、獣道をたどりつつ場合によっては森を切り開いて進む必要があった。結局、たどり着いた時には午後三時をを軽く回っていた。
焦った俺たちは、そのまま休憩も取らずに遺跡に乗り込み、メンバーを選別して聖廟の中に偵察隊を送り込む。これまでの行軍過程でも、遺跡周辺でも不死者の姿は確認されておらず、ここさえ乗り切れば戦闘にならずにすむ事になる。
やがて、偵察隊が聖廟の周辺と中の偵察を完了させる。どうやら問題無さそうな事が確認できたので、いよいよ聖壁の下部に開いた、奥へと続く扉へと向かう。
この時、俺はありったけの『魔法の矢』を発動待機状態にして、聖廟の入口で様子を見守っていた。俺のすぐ脇をボルク達が固め、その前にはドワーフの重装歩兵達が盾を並べて、壁を作っている。異変が起きないか固唾を飲んで見守る中、ドワーフ達は偵察を済ませ無事に戻ってきて、首を縦に振る。安全を確認した合図である。
すぐに包囲の壁が二つに分かれ、聖廟の外から資材を背負ったドワーフたちが奥に運び込んでいく。
聖壁から入って三メートル位の地点に土嚢と岩で壁を作り、さらには丸太を組んで並べて行く。それを幾度か繰り返し、通路を完全に塞ぐことに成功する。
(どうやら奥の部屋を守っているだけで、出入口の事には頓着していないようだ。本来、外部への敵意は持っていないと考える方が自然か)
作業が無事完了したことに安堵し、俺はそう考えた。
ドワーフ達は続いて、聖壁の扉を閉めるために仕掛けを調べている。
実はこの建物も、この仕掛け付の聖壁も、元を辿ればドワーフたちの祖先が建築に携わっているものなのだそうで、仕掛けを動かす方法を調べるのは難しくないとの事だった。
やがてドワーフの一人が合図を送り、他の人々を下がらせた。それから仕掛けを動かす音がして、重い駆動音と共に扉が閉まっていく。最後にはガチッと何かが嵌まり込む様な音を立てて止まり、扉は完全に閉まる。
完全に閉まった扉を近くで見てみたが、周りの彫刻に完全に調和し、パッと見ただけでは壁に彫られたレリーフにしか見えない。素晴らしい出来であった。
それから俺が扉に『施錠』の魔術を使用して、扉に魔法の鍵をかける。以後は魔術師がいなければ、この扉を開けることは出来なくなったのだった。
封鎖が完了したことにより、俺達の間にもドワーフ達の間にも同じように大きな安堵が広がる。これ以後、ドワーフ達はこの地を禁忌の地として扱い、立ち入りをしないように周知してくれることになった。
ひとまず、これ以上の危機が訪れることは無くなったのだった。
それらの記憶をぼんやりと反芻しながら、今のうちにボルク達に色々とお願いしておくべき事があると気が付いた。彼らにとっては不満かもしれないが、今回の出来事を広められるのは色々と拙いのだった。
「ボルク、それにみんなも聞いてくれ、他でもない今回の事についてなんだが」
俺は全員を見渡して、俺の言葉が届いていることを確認する。
「君たちには承服しがたい話かもしれないが、今回の事は一切表沙汰にしないと誓ってほしいんだ」
俺の言葉に、ボルク達は困惑の表情を浮かべて互いに視線を交わしている。これだけの事件を解決した一員であったという事は、彼らの名声を高めるだろうし、彼らにとっての名声とはそれが即ち自身の価値でもある。それは仕事量及び報酬額の増加に直結しているのだから、容易く承服できる話でないのは俺にも解る。俺はその補填として、報酬の上積みをするつもりだった。
「ウートさんはそれでいいんですか? 今回の件は、殆どお一人で解決したようなものです。ご自身の名声に興味はないのですか?」
アウグスティアが困惑にたまりかねたように発言し、レオーレも同意するかのように頷いている。
彼らにとって、自らの名声を高めることが自分の価値そのものを高めることに繋がっているので、それに反する行動をとる俺が奇異に見えるのも致し方ないだろう。だが、俺にとって名声に意味は無く、目立つ事はかえって相手に警戒されたり、目を付けられたりするデメリットしかない気がするのだ。
「俺は目立ちたくない。今回の件も、こんなに大事になるなら来たりしなかったさ。魔術だって護身用に覚えただけだし、これからは大人しく街で酒場の親父をやるつもりなんだ」
俺の話にボルクは天を仰ぎ、他のメンバーもそれぞれ考え込んでいる様子だ。俺の発言が彼らを傷つけたりすることは望んでいないが、この事は俺にとって譲れない事だけに、何とか理解して貰いたいところだ。
「今回、我々はウートさんを後少しで死なせてしまう所でした。正直に言って任務に成功したとは言い難いですし、依頼主であるウートさんがそれを望まれるのであれば、それに従います」
ボルクはしばらく考え込んだ後、やがて吹っ切るかのように結論を出してくれた。それは俺が望むものだったので、肩の荷が下りた心地がする。
「今回の仕事が失敗だったなんてことは無いさ、君らがいなければ確実に死んでいただろう。逆に、危険な任務に巻き込んで悪かったと思っているんだ。危険手当と口止め料も兼ねて、特別報酬を出させてもらうよ」
労いの言葉と報酬アップの言葉に、やっと彼らの顔にも笑顔が戻る。俺はもう一つ、彼らにお願いをすることにした。彼らと共に行動したことで、彼らに対する信頼を新たにし、出来れば協力者として近くで活動して欲しいという思いを抱いていたからだ。
「俺としては、君らにはぜひメセルブルグを拠点に活動して欲しいと思っているんだ。街にいる間の住居と食費については保障するし、仕事については相談しなければならないが、是非検討してくれないだろうか?」
俺の新たな提案に、ボルク達はまたも顔を見合わせる。俺としては、今後様々な事業を展開する中で護衛が必要となる場面も増えるだろうし、不安定な冒険者という職業について色々と思う所もある。彼らをモデルケースに、自分に出来ることを模索してみたいとの思いもあった。何より俺は彼らを気に入っており、出来る事なら成功して幸福になってもらいたいと思っていた。
「俺自身は、ありがたい申し出だと思います。ですが、こればかりは俺だけの問題ではありませんので、すぐには返事出来かねます」
ボルクの答えは俺が予想していたものだったので、俺は鷹揚に頷いた。いきなり「人生の大決断をしろ」と言っているようなものである自覚も、多少はある。
「もちろん、良く考えて話し合ってくれていい。契約の形態だって相談に乗るし、条件があるなら言ってくれ。これからメセルブルグでは、様々な特産品を作って王都に売り込んで行くつもりだ。中には高額の製品もあるし、護衛の仕事は増えるだろう。将来性を買ってくれると嬉しい」
俺の勧誘を彼らは黙って聞いている。彼らがどんな結論を出すのか解らないが、悔いの無いように考えて欲しいと俺は思うのだった。
その後も、馬車はメセルブルグの街に向けて軽快に走っていた。
この馬車は俺たちが街から乗ってきたもので、ドワーフ達に車輪を交換して貰ったり、破損箇所を修理して貰ったものだ。逃がしてしまった馬の変わりも彼らから借りている。
ちなみに逃がしてしまった馬については心配していたのだが、不死者は動物を余り襲わないとの事で、周辺でも死体等は見つからなかった事から、街に自分で戻っているのでは無いかと予測されている。
もし、戻っていなかったら馬車と合わせて弁償するつもりではあったが、それよりなにより馬が無事であることを願っていた。
馬車が森の中の道を抜け、視界にはもうすでに懐かしさすら感じる、俺にとっての第二の故郷、メセルブルグの街が見えてくる。思えば二日間の予定の調査が、五日間もの長期になってしまった。
(みんな、心配しているかなあ。それとも全然心配してなかったりして・・・・・・。そうだとしたら、本気でへこむわあ)
俺がそんな馬鹿な事を考えている内に馬車は街に入り、暫くして懐かしの酒場『ジルとハンナ』の看板が見えてくる。
この数日間の体験が、あわや死にかけた事も含めて思い出され、前回ルーデンブルグへ旅行した時とは比べものにならない程、長い時間が経過したように感じられた。
店の前に馬車を止めるやいなや、俺は真っ先に飛び降りて店の中に入った。
「ただいま、帰ったぞグフッ――」
視界に入ったユーリエやハンナに挨拶をしようとした瞬間、突如鳩尾に衝撃を受けて声を詰まらせた。
たまらずに尻餅をつき、衝撃の正体を確認しようと下を見るとクラリッサが小さな手を俺の腰に回してしがみついていた。
「クラリッサ急に飛びかかってきたら、危ないじゃないか」
俺はクラリッサを引き離そうとするが、縋り付いて離そうとせず、イヤイヤと首を振っている。俺はその時、クラリッサが泣いているのに気が付いた。
「どうしたんだ、クラリッサ? どこか痛くしたか?」
泣いている理由がわからず、俺は優しくクラリッサに問いかけるが、益々泣きじゃくるだけだ。俺は助けを探すために周囲を見渡し、ユーリエと目が合う。
助けてくれるのかと思ったが、ユーリエ自身も泣き出しそうな顔をしており、ミリィを抱えてオロオロしている。
仕方が無いので、クラリッサを抱えたまま立ち上がり、腰にぶら下げたままユーリエの傍に近づく。
「どうしたんだユーリエ、久し振りに帰ってきたんだからもっと嬉しそうな顔をしてくれると嬉しいんだが・・・・・・」
俺がユーリエの顔を覗き込もうとすると、ユーリエはミリィを抱えたまま俺の胸に飛び込んで来て、俺は抱き留める格好になる。ミリィが驚いたのか盛大に泣き出し、クラリッサも釣られたように大きな声で泣き始めた。
ユーリエすら声を出さずに泣いている様子なのを知り、俺は困惑に包まれる。
(なに、なに、なんだ? 何が起こっているんだ? さすがにこのシチュエーションは、居たたまれない事、この上ない)
狼狽する俺を、ハンナがヤレヤレという風に首を振りつつ、溜息をつきながら見ている。
「ホントにみんなどうしたんだいったい、解るように説明してくれ」
「そんなの、あんたが何日も連絡も寄越さず、フラフラしてたからに決まってるだろう。馬鹿だね」
ハンナが見かねたように教えてくれるが、さすがにそこまで心配を掛けていたとは思ってもいなかった俺は、申し訳ない気持ちになった。
「ごめん、俺もこんなに遅くなるとは思ってもいなくて、もう大丈夫だから、心配しないで泣き止んでくれ、ほらユーリエ、ミリィ貸して」
俺は、ユーリエの手からミリィを抱き上げ、泣き止まないミリィを優しく抱き上げてあやし始める。親戚の子供をあやしたこともあるし、ミリィだってしょっちゅうあやしている俺にとって、この程度は楽勝だ。ミリィもすぐに泣き止んで、俺の顔を不思議そうに見つめている。
ミリィが泣き止んだので、ユーリエは自分も目元の涙を拭って笑おうとしたが、すぐに表情が曇り、俺の右頬に走る傷跡にそっと細長い指を添わせた。それで思い出したのだが、ワイトに切られた傷跡は『エリクシール』によって塞がったが、無理矢理細胞が盛り上がるような形で塞がったため、大きな傷跡として残ってしまっている。俺は優男というわけでは無いので別に気にもしていなかったが、強面に拍車がかかるのは否めない。
(怖がられるのかな、今更顔で俺を選んだはずは無いから平気だと思っていたんだが)
俺は内心ドキドキしていたが、ユーリエは指を離すと拳を作り、コツンと俺の胸を叩く。
「もう、心配したんですから。無茶はしないで下さい」
そう言いながらやっと笑顔を見せてくれる。俺も安心して笑顔になったが、二人の間に漂いかけた甘い空気を敏感に察したのか、クラリッサが強引に割り込みを掛けてくる。
「クラリッサも、クラリッサも心配してたんですぅ。ご主人様が居なくなったらどうしたらいいのか解らなくて、胸が張り裂けそうでしたぁ」
「そうか、心配かけてすまなかったなクラリッサ、心配してくれてありがとう」
クラリッサは、既に元気いっぱいに自己主張しているが、最初に飛びかかってきたときの肩の小さな震えは本物だろうと思えた。
クラリッサは、つい最近大事な人と離れ離れになったばかりだ、その事が余計に不安を増大させたことは否めないだろう。俺は頭を優しく撫でてやり、クラリッサは撫でられて嬉しそうに目を細めていた。
それが済むと、俺はやっと解放され酒場の中で寛ぐことを許される。ギリドとボルク達も同様で、俺達は酒場のテーブルに落ち着き、久しぶりのエールで喉を潤した。
今日の営業は、仕入れも仕込みもしていないので料理の提供は無理だったが、それでも酒を飲みに来る酒好きの人間や、常連である『町会』のメンバーはやってくる。
俺自身も空腹だったので、ストックされている乾燥パスタを大量に茹でて、具がほとんどないペペロンチーノ風にして出し、とりあえず全員の空腹を満たす。
それから俺は、集まったメンバーにここ数日の出来事を掻い摘んで説明していく。
話す内容で端折ったのは、俺の魔法に関する事と、不死者の発生原因等である。――不死者の発生原因については明確な証拠は無く、ドワーフの若者達がグールになった事と、ドワーフの村を襲ったという状況証拠しかないので慎重に取り扱う必要があり、俺は原因不明と説明してグールの事も伏せておいた。これは、ドワーフ達に最大限の配慮を行う為である。
この事は、ドワーフ族の長老であるガンズ老との間で綿密に打ち合わせをしており、俺の意志として、今後もドワーフ族とは良好な関係を構築したいことを伝えている。ガンズ老からは「ドワーフ族は今回の友情に対し、感謝と親愛を持って答えるだろう」との力強い返事を貰っているので、今後様々な場面で彼らと友好的な関係を構築できそうなのだった。
この事は、なんの報酬も得られなかった今回の事件において最大の収穫と言ってよく、俺にとっては千金にも代えがたい成果である。そのおかげで、命の危機に瀕した割には俺の心は晴れやかなのだった。
(さてと、今回の費用を精算しておくか)
俺は一旦部屋に帰り、チェストから皮袋を取り出す。費用のうち通常の経費に掛かる分は後で『町会』へ請求するつもりだが、口止め料は自分で払う必要があるので、その分と合わせて立て替えで払うつもりだった。俺は皮袋を手に部屋を出た。
「ボルク、報酬を払うからちょっと二階へ来てくれないか」
俺は、歓談中だったボルクを誘って、二階にある事務室へ向かう。事務室には簡易的な応接セットが用意してあって、簡単な商談ならできるようになっており、俺はボルクを向かいに座らせ、自分も席に着いた。
「さて、今回の報酬を清算しようか」
「お願いします」
俺は机の上で皮袋を開いて、机の上に銀貨を五枚ずつ積み上げ五つ分の山を作る。次に五枚の山を四つ作り、ボルクの方へ滑らせた。
「一日当たり、銀貨五枚の五日分で二五枚、戦闘が二日で危険手当として二十枚、これが規定の料金だったな」
俺は、ボルクの目を見ながら間違い無いことを確認する。ボルクが頷いたのを確認して、俺は続いて銀貨五枚の山を十個作る。
「これは今回の仕事の成功報酬だ。今回の仕事が、これほど難易度の高い任務だとは思わなかったが、全て丸く収まったからな。その報酬と負傷手当も含んでいるつもりだ、配分は相談してくれ」
俺は、さらに百枚分の銀貨を積み上げていき、皮袋には銀貨五枚が残される。一袋に銀貨二百枚入っていたから、丁度百九十五枚が積まれていることになる。
「そしてこれが、今回の件に関する口止め料だ。君たちの名声が上がることに伴う報酬の上昇分や新たな仕事の機会に見合うかはわからないが、その部分についてはこれからも仕事があれば君たちを優先して依頼することで埋め合わせできればと思っている」
俺は袋に残った銀貨五枚を掴んでポケットにねじ込むと、空になった革袋をボルクに渡した。
ボルクはそれを受け取りつつ、何処か釈然といかない様な、煮え切らない表情を浮かべている。
「この金額じゃ不満か?」
俺は話の端緒として、端的に聞いてみる。ボルクはゆっくりと首を振りながら答えた。
「まさか、俺たちの一月分の稼ぎを優に上回る額ですよ、不満なんてあるはずがありません。しかし、自分たちがこの金額に見合う力を示せたかと思うと、それも疑問なんです」
俺は、逡巡を示すボルクをじっと眺め、どう説得すべきかしばし考え込んだ。俺が彼らを気に入っているのは、リーダーであるボルクの実直さが信用に値するからだし、パーティー内の規律や信頼関係も、一緒に行動する中で得難いものだと見極めることが出来ていた。
そんな彼らをこの街に留めておけることは、必ずこの街にとってメリットとなるとの確信がある。後は、彼らにとってのこの街に止まるメリットを、いかに提供出来るかどうかが問われていると思えた。
「ボルク、最初からワイトと戦うと解っていても、この金額でこの仕事を受けたか?」
ボルクはしばし考えてから、首を振りつつ答えた。
「いいえ、俺たちには荷が重いと辞退したでしょう」
「だろう? つまりこの報酬額は、本来の危険度からすれば見合わない金額なのさ。一緒に戦った俺からすれば、申し訳ない位の安い金額なんだよ。事後払いだから、こんな金額で誤魔化そうとしているのさ」
俺はニヤリと人の悪そうな笑顔を浮かべ、悪びれずにふんぞり返った。ボルクは苦笑して、吹っ切れたようだった。
「かないませんね、ウートさんには。では、ありがたく頂く事にします」
「そうしてくれ」
ボルクが革袋に銀貨を詰め込むのを待ち、二人で部屋を出て下の階に戻ったのだった。
「はあああああああ、気持ちいい~。風呂はやっぱり最高だ、生き返るぜ~」
俺は久方ぶりの風呂に浸かって、命の洗濯をしていた。
温めのお湯に肩まで浸かり、体の力を全て解放していると、全ての疲れがお湯に溶けていくようだった。
体に手でお湯を掛けていると、ふと右胸に走る傷跡に目が行った。ワイトに切り裂かれた刀傷だ。
その場所、その長さ、その深さを考えたとき、本当に死が目前に迫っていたのだと、改めて実感出来るような気がする。
(正直に言って、まだ平和ボケしていたのかもしれない。この世界でも、これだけ命の危険があると思い知った。これからは、命を危険にさらすこと無く、最低限の調査を行う方法を考える必要があるのかもしれない。でも、戦闘力に関してはある程度自信が持てる様になった。自衛手段としては過剰かも知れないが、ある程度の相手までなら余裕を持って対処出来るだろう)
俺は、今回の事件によって命の危険を身に染みて感じ、今後の教訓として活かす為に方針を決める。今回の件では、魔法に対する過信から自身の慢心を抱いたとの自覚も有り、今後は改めていく必要を感じている。
ただ、間違いなく得たものもあり、そういう意味では得がたい経験をしたとも思っていた。
(後は、この経験をどう活かしていくかだ)
俺はそう考え、様々な方針を考えながら長風呂を楽しんだ。
この時の俺にとって、今回の事件は既に解決したものでしかなく、過去の出来事の一つに過ぎなかったのだが、それが大きな間違いであることに気が付いたのは、逃れられない“運命”に絡め取られた後になってからのことなのだった・・・・・・。




