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酒場の親父は転生者  作者: 乱世の奸雄
酒場の親父は転生者 第二巻
36/51

とある死闘の決着事情

 俺が意識を取り戻したのは、激しい痛みのためか、それとも胸にこみ上げてくる違和感のためか、判別の難しいところだ。

 違和感に気が付いた途端に耐えきれなくなり、俺は喉の奥から込み上げてくるものを、ゴフッと咳をするように吐き出した。

(肺をやられたのか)

 吐き出されたものでべとつく口の周りを左手で拭き取ろうとして、それが真っ赤な鮮血だったことを知り、そんな感想を抱く。

 意識した途端に小さな咳がこみ上げ、新たな鮮血が口の周りを染め上げる。

 痛みと傷から意識を逸らすため、必死で状況を把握することに勤めようとした。

(戦闘は、どうなった?)

 耳を澄ませば、外で繰り広げられる剣戟の音や、叫び声が響いている。

 それほど長い間、気絶していたわけではないらしい。

(クソ、油断した。ヘイトを稼ぎすぎると、こういう目に遇うのはMMORPGで解っていたはずなのにな。次からは気を付けるとしよう)

 俺は死ぬつもりなど毛頭なく自分の失敗を反省すると、すぐに切り札を使う事に決めた。

 右半身の痛みがひどく、右手を動かすのがつらかったので、利き手ではない左手で腰に付けたポーチを漁る。

 焦る心を必死で(なだ)め、目的の小瓶を掴んで取り出した。非常用に所持していた『エリクシール』の小瓶だ。

 左手で掴んだ小瓶を顔の正面まで運ぶが、中身を飲むには蓋を開けなければならない事に気が付く。

 痛む右半身を必死で我慢しながら右手を小瓶の蓋にかけるが、痛みのために制御を欠いたのか、それとも血で滑ったのか、左手から小瓶が抜け落ち床に転がってしまう。

 自分で失敗した事に猛烈な怒りを覚えるが、その怒りがこみ上げる前に猛烈な貧血が襲い、気が遠くなる。

(あ~もう、面倒臭いな。もう、だめなんじゃね~かな。これ・・・・・・)

 出血で、意識が朦朧としてきたせいか、いつもは鳴りを潜めているネガティブな感情が前面に押し出されてくる。

(大体さー、なんで俺がこんなに痛い目を見なきゃならないわけ? こんなの酒場の親父の役目じゃないじゃないか。普通は貴族とか、国の偉い人の役目なんじゃないの? やつらが訳の分からんことで争った挙句、異世界に呼び出されるわ、無職になるわ、盗賊に襲われるわ、そしてこれですよ。もう、やっぱ全部「政治が悪い」んだよ)

 意識が混濁して、大分思考が支離滅裂になってきた気がしなくもない。

(やっとさあ、職を得て、魔法の道具を得て、魔法も覚えて楽しくなって来たのにさあ。それに嫁まで出来たんだぜ? しかも飛び切り可愛いんだ。俺には従順だしさあ、それに何といってもあの胸、バスト、おっぱいちゃんが最高なんだよ。ああ、もう一度、むしゃぶりつきたい・・・・・・・・・・・・。あれ? そう考えると、死んでる場合じゃないな)

 俺は大慌てで、転げ落ちた小瓶を探す。

(見えねえ! クソ! どこだ? 畜生! あった!!!)

 やっとの思いで小瓶を手繰り寄せるが、右手は動かせる気がしないし、開ける力は残っていない。

(面倒だな)

 俺は、『魔法の矢マジックミサイル』を使用し、鋭い刃をイメージして発動させ、瓶の底を切り飛ばした。

 零れ落ちる真っ赤な液体を、浴びるようにして飲む。

 飲み込んだ液体が通った場所、こぼれ落ちて皮膚に触れた場所からも、焼けつくような熱さを感じる。

だがそれは、猛烈な熱さを感じているはずなのに全く痛みを伴わず、不思議なほどの活力を伴いながら瞬く間に身体中に広がって行った。

 熱さが全身を覆うにつれて、傷口から発する痛みと交じり合い、やがて熱さが痛みを塗りつぶして痛みを消し去っていく。

 痛みを伴わない熱さは心地良さすらもたらし、湧き上がる活力とも合わさって俺を立ち上がらせる。

 ゆっくりと起き上がって、右胸の傷口を見ると、既にピンク色の肉が盛り上がり始めており、周りの血は乾き始めていた。

(あっぶね~、あと少しで死ぬところだった・・・・・・。舐めてたつもりは無いが、上級怪物モンスターの力は俺の想像を遙かに超えていたな。特にあの速度、何とか動きを止めないとあっと言う間に距離を詰められる。あとは、ゾンビやスケルトンみたいな下級怪物モンスターと違って、衝撃に強い耐性があるみたいだったな。『魔法の矢マジックミサイル』も、突き刺すイメージや切り裂くイメージに変えていかないと通用しないようだ)

 俺は作戦を練りながらも、『魔法の矢マジックミサイル』の『複写』を続けている。今度は一千二十四本分の大盤振る舞いだ。視界を埋め尽くす光は、裏返せばワイトへの恐怖の現れでもある。今度は至近距離に近づかせることなく、倒しきらねばならない。

 俺は手放していた魔術師の杖メイジスタッフを足下から拾い、立ち上がって再び外に向かって歩き出した。



 村長宅を踏み出そうとしたとき、視界に捉えたのはワイトが両手剣トゥーハンドソードを振りかざし、今正にアウグスティアを切り捨てようとする場面だった。

 俺はすぐさま『魔法の矢マジックミサイル』を発動させ、鋭利な刃をイメージしたそれを、連続で切れ間無く一直線に並べて放った。狙いはワイトの両腕である。

 ドシュッ

 鈍い音がして、ワイトの動きが一瞬止まる。

 ドサッガラガラガラン

 ワイトの両腕が、肘と手首の中間辺りで切断され、ゆっくりと腕から離れて床に落ちると、両手剣トゥーハンドソードも床に落ちて大きな音を立てる。

「ギィヤオォォォォォ」

 ワイトが両腕を失った痛みからなのか、それとも怒りからなのか、再び大音量で雄叫びを上げた。そして、全身の燐光を膨れ上がらせ、こちらにギロリと向き直ると、昏い憎悪を宿す瞳を、さらなる憎しみに滾らせるようにしてこちらへの突進を開始する。

 だが、今回はそれを予想して、次の狙いを定めている。

 すかさず二射目を発動してワイトに二歩目も踏み出させず、右足を膝の上から切断する。

動きを止めなければ、首を切断されても攻撃されるのではないかとの恐怖感があるのだ。続いて反対側の足も付け根付近を狙って切断する。

 俯せに倒れ込んだワイトの背中から、間髪入れずに全身余すことなく文字通り雨のような矢を降らせて止めを刺そうとする。

(死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、あ! 不死者アンデッドだからもう死んでるみたいなものか? じゃあ、止まれ! 止まれ! 止まれ! 止まれ! 止まれ! 止まれ! 止まれ!)

 俺が降らせた『魔法の矢マジックミサイル』は、鋭い光を発してワイトの全身を貫き、着用していたフルプレートを粉々に破壊し、全身が原形を留めない程ボロボロになるまで打ち続けられた。

それでも、俺の心は安心出来ていない。それだけの恐怖を先程味わっているからだ。

ワイトの動きが止まったかどうか解らずに、ほぼありったけの矢を降らせた後、様子を見るために攻撃を停止させた。

 そしてその間にも、『魔法の矢マジックミサイル』の『複写』を行い、本数の回復に努める。

 ワイトだったものが動きを停止しているのを見て、警戒しつつも周囲の状況を確認する余裕が生まれる。

 周囲を見渡すと、ボルクが倒れており、ギリドが二体のグールを相手に戦っている。ゲラドはあっけに取られてこちらを見ており、アウグスティアはワイトを迂回しつつレオーレの傍に駆け寄ってきた。ベッシュは小柄な敵と距離を取って戦っており、さすがにベテランらしく堅実な戦い方をしている様に見えた。

 俺は、ワイトに対する警戒は緩めず、それでも苦戦しているギリドの為に、援護の攻撃を実行する。

 狙いやすい位置にいた、鉾槍ハルバードを持つグールの首を飛ばし、念のために両腕も切り飛ばす。

 続いて、ベッシュと戦っていたグールの足を切り落とし、倒れ込んだところに更なる追撃を加えて弱らせる。後はベッシュに任せて大丈夫と判断し、残り一体の、ギリドと抗戦していたグールを見る。

 ギリドが丁度戦斧ウォーアックスを跳ね返したタイミングなのを見て、両腕を肩から切り落とす。そこにゲラドが足下を攻撃して膝を着かせ、最後は首筋に戦斧ウォーアックスを打ち込んで、首を切り落とした。

 ベッシュの方を見ると無事に止めを刺したようで、見渡す限り広場に戦える敵は残って居なかった。

 俺はそれを見届けると、ズルズルと杖に縋り付くようにして座り込み、大きく溜息をついてへたり込む。どうやら血を流しすぎたため貧血を起こしたらしく、頭がクラクラしている。

「ボルクとレオーレの状態は?」

 俺は、それだけをやっと聞いた。

「オーレは肋骨が折れて肺が傷ついていますが、治療は間に合いそうです。両腕も骨折していますが、これは後でも平気でしょう。ボルクは?」

 アウグスティアがすぐに答え、ボルクの様子を見ているゲラドに視線を送る。

「息はありますが、左腕の傷と、右肩の傷からの出血が酷い。早急な手当が必要です」

 ゲラドの声に切迫したものが籠もるが、アウグスティアは意にも介さず、

「ポーションを使えばしばらく持つわ、こっちの治療が終わるまで待って」

 と、にべもなく、ゲラドに命じた。ゲラドは慌ててポーチを探り、ポーションを傷口に注ぎかけている。

 俺が見たところボルクの方が重傷に思えるが、アウグスティアの中での優先順位は明確に決まっているらしい。

(どうやら、ボルクの思いは叶いそうにないな)

 俺はそんな感想を抱き、それでも助かりそうなことを知って安心し、息を吐いた。

 そんな中、ギリドは鋼鉄製の棒にもたれかかるように立ち、ゲラドが切り倒したグールの死体――不死者アンデッドの死体というのもおかしなものだが、他に言い様が思いつかなかった――を見下ろして、なにやら呟いていた。

 そういえば、グールが出現してから若干動きに精細を欠いていた印象が拭えない。グールに何かあるのだろうか?

俺は改めて、ギリドが見ているグールに視線を移した。そこで初めて違和感を憶え、その違和感の正体にすぐに気づいた。

広場に現れたワイトやゾンビを初めとする不死者アンデッドは、全てが元は人間、正確には種族がヒューマンだと思える体型をしていた。

しかし、最後に現れた三体のグールだけは別で、その姿はギリドと同じドワーフのものである。

(まさか、知り合いだったのか?)

 俺は迂闊にも、その時初めてその事に思い至った。

 この村の住民は襲われた形跡も無く、撤退したと思い込んでいたため犠牲者は出ていないものだと思っていた。

だがそうではなかったのだとしたら、ギリドが動揺してもおかしくはないと思われた。

(ワイトが呼び出したタイミングから見て、奴の切り札として温存されていたんだろうな。偵察で気づいていれば、何とか対処出来たのだろうか? いや、三人はすでに不死者アンデッド化していたし、いくらか動揺を防げただけだろう。これ以上考えても仕方が無い)

 俺は溜息をつくと、法術で治療を続けているアウグスティアを見た。

レオーレの顔色は大分良くなってきたように見える。どうやら実際にその通りだったようだ。

「うぅ、う~ん」

 聞きようによっては艶めかしくも感じる悩ましい声を上げて、レオーレが目を覚ました。

「ティア?」

 目の前のアウグスティアを認識したのか、弱々しい声で語りかける。だが、次の瞬間急に起き上がろうとして、骨折した両腕に痛みが走ったのだろう。大きく呻いた。

「ウ! ウゥッ・・・・・・。」

 それでも、腹筋の力を利用して無理に起き上がり、辺りを見渡す。

「ボルク!!!」

 倒れているボルクを見つけると、怪我を押して立ち上がろうとする。慌ててアウグスティアが手を貸し、二人はボルクの傍まで歩み寄った。

「ティア、お願い。早く治療を!!!」

 ボルクの蒼白な顔色を見て、レオーレは焦りの色を濃くする。アウグスティアはレオーレに促されてやっと――どことなく、渋々といった感じで、ボルクに治療を施し始めた。

(なんというか、微妙な三角関係を垣間見た気がするな。しかも、全員が一方通行という微妙なトライアングルだ。しかも、アウグスティアは真性っぽい、あんなに美人なのに、もったい無い・・・・・・。いや、逆にあれだけの美人だから“有り”なのかもしれん)

 俺がそんなどうでも良い事を考えていると、傍らにベッシュがやってきて座り込んだ。

歴戦の冒険者もさすがに疲労した様子で、槍を抱え込んで座っている。そして俺に気遣わしげな目を向けて聞いてきた。

「大丈夫ですか? 相当な深手を負ったように見えましたが」

「ああ、平気だ。ちょっと血が足りないがな」

 俺は、ベッシュに治りかけの傷口を見せながら言った。ベッシュは驚いたようにその傷口を見ながら、首を傾げている。

「どうやって・・・・・・。自己治癒、法術、ハイポーション・・・・・・」

 ベッシュは口の中で、聞き取れないような音量で呟いている。俺の傷が治ったことが腑に落ちないのだろう、様々な理由を検討しているようだ。やがて諦めたのか、潔く聞いてきた。

「あの、よろしければ教えていただきたい。どうやって傷を治したんです?」

 俺はどう答えたら良いか迷い、少しだけ考える。しかし彼らには一度『からくり箱』を見せてしまっている。隠すよりも、話した上で口止めする方が良いと考えた。

「とっておきを使ったんだ。知っているか? 『エリクシール』という薬なんだが」

「な!」

 どうやらベッシュは、その価値を正確に知っているらしい。まあ、長く冒険者をやっていれば当然の知識なのかも知れない。

「そ、そんな代物を使ってしまったんですか? 売れば途方も無い金額になる薬ですよ・・・・・・」

「使わなければ死んでいた。死んだら何にもならないだろう?」

「それはそうなんですが、俺たちが一生かかっても稼げるような金額じゃ無いと思うと、どうしてもね」

 ベッシュは、やるせなさそうに大きく溜息をついた。

「冒険者を続けるのが嫌になったのか?」

 俺はベッシュの態度が気になって、率直に聞いてみた。

「そういうわけではありませんが、今回の仕事はギリギリでした。多分ウートさんが居なかったら全滅していたでしょう。そういう仕事の後はどうしても、自分の命の価値を考えてしまうんですよ。この仕事の代価は、自分の命をかけるのに見合う正当な代価なんだろうか、とね。それでも他に出来ることはありませんし、生きるため、稼ぐために続けなくてはならないのですがね」

「冒険者というのは、もっと派手に稼いで活躍して、自由に生きているものだと思っていたよ」

「そうですね、俺もそう思ってこの稼業に入りましたし、実際そういう時代もあったみたいです。でも、今はそうじゃない。“冒険者”何て名乗っていますが、この世界にはもう冒険する場所なんて殆ど残っていないんじゃ無いかと思うことがありますよ・・・・・・。すいません、言ってもしょうが無い事でした」

 ベッシュは座ったまま、ペコリと頭を下げると、立ち上がってボルクの元に歩み寄っていった。聞けば聞くほど冒険者達の閉塞感は大きいようだ。

今のところ最低限の需要が有り冒険者になる者も多い訳だが、需給バランスは徐々に崩れつつ有る。

一攫千金の成功者がいなくなり、賃金も低いために次の人生設計もままならない。彼らは社会から余剰となった人々の受け皿で、危険な冒険による死者ですら、この社会にとっては職業人口調整としての意味合いがあったのだ。それでも人生の一発逆転を狙う人々にとっては希望の星だったに違いない。

一見して平和に思えたこの世界にも様々な問題があり、それは目に見えない形で緩やかに悪い方へ進行しているようだ。

(こう言った不満が国内に蔓延したとき、為政者は閉塞感の打破と、不満を外部に反らすために戦争を起こしたりするんだよな。そうなる前に少しでも状況の改善を図れるといいんだが)

 冒険者達と行動を共にするにつれて、彼らの抱える問題点がより身近なものに感じられる。彼らに適した仕事が有り、正当な報酬が支払われる環境があれば良いのだが、現時点では完全にノープランなのだった。

 俺が課題の解決策に思いを巡らせていると、ギリドがゆっくりと近づいてきた。その顔には憔悴の色がある。

「すまんかったな。大丈夫か?」

 そう声を掛けてくるギリドの方が、全然大丈夫そうでは無い。

「まあ、なんとか生きています。ってとこですね。そっちは大丈夫なんですか? もしや、とは思いますが、グールだったのは知り合いですか?」

「ああ、そうじゃ、この村の若者じゃ。三人ともな・・・・・・。コトルなんぞまだ十五歳じゃった。三人とも、赤子の頃から知っておる。なんで奴らがこんなことに・・・・・・」

 ギリドは右手で顔を覆い、肩をふるわせている。

 その様子を見れば、ギリドが彼らとどう向き合い、つきあってきたのか解るような気がした。俺は慰める言葉も浮かばず、沈黙を返すしか無かった。

 しばらくの間、沈黙が場を支配し、ギリドのすすり泣くような声が響いていた。



 どんなに疲労していようと、悲しみに暮れていようと、人はやがてお腹が空く生き物である。生きることは食べることで有り、食べることで人は活力を得て、再び食べるために生きていく。

 戦闘が終了したことも有り、俺は確保した食料で昼食を作っていた。

 あの後、ボルクもなんとか一命を取り留め、レオーレの両腕も治療が済んでいる。

 不死者アンデッド達の残された遺体は、アウグスティアの手によって『聖別ホーリーディバイド』を施され、再びアンデッドになることの無いよう処置されている。

 元はこの村の村人であったドワーフ達を始め、丁重に葬りたいところではあったがさすがに数が多く、激戦の後で俺たちの体力も限界に来ていたため、俺は先に休息を取ることを提案したのだった。

 俺自身も多少は血が足りない気がしていたが、さすがは『エリクシール』と言うべきか、行動に支障を感じることは無かった。

 俺はせっせと野菜を切り、鹿肉と共に煮込み、試作中のカレースパイスを使って“カレースープ”を作った。

 まだまだ試作段階だが、最低限の風味は感じられる。本当であればカレーライスを作りたいのは山々であるが、香辛料の値段を考えると簡単に破産する領域である。

 そもそも、肝心のお米が無いので、イマイチ本気で作る気にもなれないのであった。

 それならパンに合うように、又、採算が取れるようにと考えたのが、この“カレースープ”であった。まだ賄いレベルだが、仲間内なら感想も聞けると思い用意していたのだったが、カレーの独特の香りをかいでいると食欲が増進されるのを感じるし、若干沈み気味の場の雰囲気を変えてくれるのを期待していた。

 昨夜まともな食事が取れていなかったことも有り、激闘の後で腹が減っていたことも有り、食事中は誰も感想すら言わずに貪り食っていた。固くなったパンを千切り、スープに付けて食べるのだが、パンもスープも瞬く間に無くなっていた。

 ギリドすら、キッチリとおかわりを差し出したので、俺は何も言わずについでやり、少しでも元気になったら良いなと考えていた。

「これからどうしますか?」

 食事が済んだ後、満腹になった満足感に浸りながら寛いでいると、怪我をした割には元気そうなボルクが今後の方針について尋ねてきた。

 俺はちらりとギリドを見てから言った。

「異変の直接の原因はあの不死者アンデッドだったんだろうが、村人達は待避した形跡がある。こうなった経緯も知りたいし、彼らと連絡を取りたいと考えているんだが、どうしたものかな」

「この村には、他の村と連絡をするための狼煙台が設置されとるはずだ。それで山のドワーフ達に連絡が取れる。今から狼煙を上げれば、明日にはやってくるだろうから、事情を聞いておくべきだな」

「帰るにしても足が無いからな、馬車も壊れているし。ドワーフ達にお願いすれば何とかなりますかね?」

「問題無いだろう。儂から頼んでみよう」

「お願いします」

 俺の疑問にギリドが答え、今後の方針を決める。取り敢えず狼煙を上げた後は休息し、やってきたドワーフ達に馬車を借りて帰ればいいだろう。

「ギリド、狼煙は頼む。ゲラドとベッシュも手伝ってやってくれ、負傷組と魔法を使いすぎたアウグスティアは先に休ませて貰うよ」

 俺は勝手に分担を決めると、ギリド達が頷くのを確認してから睡眠を求める体の欲求に従って、客間と覚しき離れの一室を占領して倒れ込むように眠りについたのだった。


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