<間話>とある死闘の混乱事情
「ウートさん!」
アウグスティアの悲痛な叫びが響き、中央で起こった激しい爆発の後、ギリドやボルク達が引いた前線の内側にワイトが立ち上がる。
メンバーの殆どが背を晒すような格好で戦っており、後ろから襲われては一溜まりも無い状況が生じている。
そしてそれだけでは無く、後衛として守らなければならないアウグスティアが無防備な状態に置かれており、彼女が倒されれば回復役を失うという、最悪の状況を覚悟せねばならなくなっている。
「クソッ、ティア!」
ボルクがワイトに立ち向かおうとするが、グールが鉾槍を振るってそれを阻止する。
グールはゾンビなどとは比べものにならないほど動きが速く、力も強い。怪物としては中級クラスに該当し、隙を見せればボルクといえども軽傷では済まないダメージを負う相手である。
しかも、このグール達は銘々が武器を所持しており、それを容赦なく振るってくる。放置して仲間の救出に向かう余裕は無かった。
立ち上がったワイトは、先程の叫び声に反応したのかそれとも神官の放つ気配を嫌ったのか、真っ直ぐアウグスティアに向き直る。しかし、ワイトがアウグスティアに向かう前に、この場で唯一敵と交戦状態に無かったゲラドが、戦斧を振るってワイトに打ちかかった。
ワイトは、ゲラド渾身の打ち込みを、右手一本でかざした両手剣で軽々と受け止めると、そのまま煩わしげに振り払う。ゲラドはたたらを踏みつつ必死で体制を整えると、再度ワイトに立ち向かった。
ゲラドは経験が浅く、ただ力任せに戦斧を振るばかりで、ワイトに当たる気配すら無い。だが必死でワイトを引きつけ、アウグスティアが狙われないように何度も何度も戦斧を振るっている。
ワイトが攻撃に出ようとすると素早く下がり、見事に自分に引きつける事に成功している。
一方、本来ワイトの相手を務めるはずだったギリドは、グールの猛攻に終始押され、今もじりじりと後退を余儀なくされている。
「なぜだ、なぜお前達が・・・・・・」
ギリドはブツブツと呟きながら、グールの振るう戦斧を辛うじて打ち払っている。
グール達の攻撃は苛烈さを増しており、全員が辛うじて防いでいる状態である。どこかで誰かが倒れた瞬間に、一気に全体が崩壊するのは疑いようが無い状況である。
この状況に一番危機感を抱いたのは、冒険者パーティのリーダーであるボルクだった。
「レオーレ、ゲラドの援護に回ってくれ! ベッシュは倒せなくてもいいから何とか持たせてくれ。ティア! 一瞬で良い、こいつの動きを止めてくれ!」
ボルクの指示を受けて、冒険者達は訓練された動きを見せる。
先ずは、レオーレがワイトの後ろに回り込み、二本のダガーで切りつける。フルプレートを着込むワイトには全くダメージが入らないが、レオーレの目的は陽動である。ワイトは振り返り様に両手剣を振り払うが、レオーレは素早く安全圏に逃れている。こうやって前後で挟み込み、ワイトの狙いを分散させることで一人当たりのリスクを低減するのが狙いだ。
「『聖光』」
アウグスティアは、ボルクの後ろに回り込むと、ボルクが相手をするグールへと法術を放つ。『聖光』は不死者のみに効果があり、ダメージはさほど大きくないが、この光に焼かれた不死者は感知器官を狂わされ、しばらく盲目のような状態になる。
この時もまともに食らったグールは苦しむようなしぐさを見せ、大きな隙を見せた相手にボルクが盾ごとチャージをかける。衝撃を受けたグールが大きく後退して転倒するのを見てから、ボルクはギリドが相手をするグールに対し、背後から攻撃を仕掛けた。
ザシュッ!!!
背の低いグールの、肩を狙った攻撃がまともに決まり、肩から背中にかけて袈裟状に切り裂かれる。赤黒い体液が飛び散り、強烈な腐臭が漂い、切り裂かれたグールが怒りの雄叫びをあげてボルグに振り向いた。
「ギリドさん撤退しなければ全滅します!」
ボルクの必死の呼びかけに、ギリドはハッとしたようだった。
苦渋の表情を滲ませつつ、自分に背を向けていたグールを、手にした鋼鉄製の棒で打ち付ける。
しかしその攻撃には、先刻まで感じられていた強力無比な威力は見られず、グールの被っていた鉄製のヘルムを弾き飛ばしただけだった。
「ボルク危ない!」
「グアァッ!」
アウグスティアの注意喚起は一歩遅く、いつの間にか起き上がり飛び掛かってきたグールの鉾槍が、振り向こうとしたボルグの左腕に突き立った。
グールは傷口を広げるかのように鉾槍を捻り、ボルクは思わず左手に持つ盾を取り落す。
さらに、ギリドに殴られたことをものともしなかったのか、ボルクをもう一体のグールが持つ戦斧の一撃が襲い、手に持った短剣で必死に防ごうとするが、強力な攻撃を受け止めきれずに打ち倒された。
「ボルク!!!」
ボルクが打ち倒されたことを見たレオーレが、思わず足を止めてボルクに注意を向ける。だが、レオーレが相対している相手は、そんな隙を見逃すような甘い相手ではなかった。
ワイトは、ゲラドの必死の打ち込みを剣で振り払うようにいなすと、棒立ちになったレオーレに強烈な回し蹴りを見舞う。咄嗟にダガーを持つ手をクロスし蹴りを受け止めようとするが、その蹴りの威力は凄まじく、レオーレの体は軽々と宙に浮き、二メートル以上も吹き飛ばされて村長宅の外壁に叩きつけられた。
レオーレは短剣を取り落し、そのままズルズルと崩れ落ちた。
「オーレ!!!」
アウグスティアが、レオーレの元に駆け寄ろうとするが、その事が逆にワイトの標的に選ばれる結果となってしまう。
ワイトが進路方向に割り込んで立ち塞がり、両手剣を高々と掲げてから自らに振り下ろす光景を、アウグスティアは呆然と見つめるのだった。




