とある聖女の観劇事情
次の日は前日の疲れもあり、何より買い物に行く予定も無かったので自然とゆっくりとした起床になった。出来ればもっと寝ていたかったが、メルケル一家の若手メンバーであるハッセが俺を揺さぶって起こしに来た。
「ウートさん、すいません。表が大変なことになっていまして」
そう言われてみると、何やら騒がしい気もしてくる。
急いでテントの外に飛び出すと、店の前にはすでに行列が出来はじめている。
「なんだこれは」
「どうも、昨日ですでに評判が知れ渡ったようで、既に百人位並んでます。ハンナさんが急いで準備した方がいいと」
「そうだな。そうしよう」
俺は慌ててエプロンを取りに戻り、準備を開始した。
(ったく、携帯もスマホも無いのに、この情報伝達の速さは相変わらず異常だな)
準備の手を休みなく動かしながら、俺は心の中でそう毒づいている。
道具に頼らない分、近距離においての情報伝達力は、コミュニケーション能力がより一層発達しているのかもしれない。噂話の伝達力が、俺から言わせれば常軌を逸しているのだ。
慌ただしく準備を完了して、早速焼き始めた。
それから数時間、必死に焼き続けたのだが、客の列は少なくなるどころか長くなっている。どうやら一度買ったにもかかわらず、再度並んでいるリピーターがいるらしく、一向に減る様子がない。
ほとんどこの店に並んでいるだけで、せっかくの祭りの時間が終わってしまうのではないかと心配になるが、祭りは明日まであるので今日のうちに味わっておきたいのかもしれない。実際に材料は明日までもたないので正しい判断なのだが、告知しているわけでもないのに予測しているかの如く行動しているところが恐ろしい。
時折交代してもらいながら食事を取ったりしつつ、結局夕方近くに材料の残りを使い切る。列は五十人位に縮まっていたものの、最後まで行き渡るか解らない微妙なラインとなる。最後尾にこれ以上人が並ばないように止めてもらい、残りの列を何とか捌いた。終わったときは日が暮れかけていた。
「おつかれさんでした」
俺が全員を労って歩き、メンバーもほっとした表情を見せている。材料の関係で一日早く終了した格好だが、労働的には十分すぎるだろう。ちなみに肝心の街の宣伝は、マルセロとメルケルが、客の待ち時間にそつなくこなしている。主に料理の自慢話ばかりのような気がしなくもなかったが、新たな移住者が来てくれるのを願うのみである。
(明日は、祭りを見物してから帰ればいいな。若いメンバーには、先に今回の給与を払ってやれば喜ぶだろう、俺にも一日フリーの時間が出来たわけだ)
別に狙っていたわけではないが、そのこと自体はラッキーだと思っていたので、さっそく全員に方針を話すことに決めた。
「おい、ウート」
マルセロがテントに入ろうとした俺を呼び止めたので、俺は立ち止まって振り返った。
俺を呼び止めたマルセロの隣には、短髪白髪頭のかなり年配に見える痩身の男性が立っている。身長は百四十センチ位しかないのだが、漂わせている雰囲気は桁違いに鋭く、下手な扱いをすればどうなるか嫌でも解ってしまう。
(小人族ってやつか)
俺はそう思いながら、二人に近づいていく。なんとなく、昨日話に出ていたギッチェ親分かなと思う。この人物なら、彼らが恐れていたのも頷けるだけの迫力がある。
「こちらは、ギッチェ親分だ。挨拶しとけ」
マルセロに促され、自分の予想が正しかったことを知る。
「はじめまして、ウート・ヴォージオンと言います。メセルブルグの酒場『ジル&ハンナ』で雇われ店員をやっています。どうかお見知りおきください」
ギッチェ親分は、俺の全身を鋭い目で一瞥してから強い眼光で睨んできた。
(オイオイオイ。なんだこの迫力は、こんなの俺の知ってる“爺さん”とかいう存在じゃねえぞ)
俺は、睨み付けてくるギッチェ親分の眼光を受け止めながら、驚きと共に感心したように彼を観察していた。
フン、彼は鼻を鳴らし、ニヒルな笑いを浮かべる。
「なるほどなあ、コイツは普通じゃねえわ」
ギッチェ親分は、マルセロにそう話しかけ、俺の方を向いた。
「この街の裏の顔役、ギッチェだ。奴らの話を聞いて、どんな馬鹿野郎かと思ったんだが、大した大馬鹿野郎だわ」
あまりにも酷い言いようだが、俺としては苦笑するしか無い。
「そうだろう? だがまあ、実際大した奴なんだぜ、こう見えてもな」
マルセロがフォローにならないようなフォローを入れる。さすがに老人達にいじられる趣味は無いので、その場を去ろうとしかけた。
「おう、今からメルケルも一緒に飲みに行ってくるわ」
「解りました。どうせ材料無くなりましたんで、明日は一日フリーにしようかと思っていたところです。かまいませんよね?」
「そううだな、そうしようや。皆も最終日をゆっくり楽しみたいだろうからな」
俺たちは、短く打ち合わせして方針を決定する。そこにギッチェ親分が、思いついたような表情で割り込んできた。
「なんだ、せっかく稼ぎに来たのに、明日は休みにするのか?」
「ええ、残念ですが、もう材料を全部使い切ってしまったんで」
「なら明日は暇なんだな、それなら観劇に興味は無いか? 円形劇場でやってる、聖女アマ―リアの叙事伝の最終公演の入場券がまわせるぜ」
「ホントですか?」
ギッチェ親分からの突然の申し出に驚くが、入手を諦めていた観劇の入場券が手に入ればハンナが喜ぶだろう。俺も見てみたい気持ちがある。
「ああ、一人銀貨一枚かかるがな」
「では、十四枚お願いします。それと、観劇中の荷物と馬を見張る人を二人ほどお借り出来ないでしょうか、勿論代金はお支払いします」
俺は全員分の入場券を依頼し、鑑賞中に荷物と馬の面倒を見てくれる人員もお願いしてみる。
「わかった、入場券は明日の朝一番に届けさせるから、代金はそいつに渡してくれ。公園の時間は夕方からだ。それと見張りは、開園二時間前にはよこしてやる」
「わかりました。ありがとうございます」
マルセロとメルケル、ギッチェ親分が連れだって飲みに行くのを見送った後、俺は嬉々として全員に知らせに行った。特に女性陣からは喜びの歓声が上がる。
「明日は、一日完全フリーにして遊びましょう。今から全員に帰る日までの賃金を精算するから、取りに来て欲しい」
そう告げると、若手メンバーの間から再度歓声が上がる。初日に買い物日を設定したため、手持ちが少ない者も居るだろうから、喜ばれるだろうと予測はしていた。俺が用意した革袋を次々に手渡して行くと、案の定彼らは喜んでいて、次々にお礼を言われたのだった。
「明日は、朝から撤収準備を実施してから夕方までのんびりして、夕方から観劇に向かいましょう」
俺はそう宣言し、その日は疲れていたので、夕食後少しのんびりとしてから早めに就寝したのだった。
翌朝俺たちは、比較的ゆっくりと目を覚まし、のんびりと朝食を取った後、屋台の解体に取りかかることにした。
ホットプレートを解体し、溜まった灰を用意していた樽に入れて処分する。
時折、前日の情報を聞きつけた客が様子を見に来ていたが、あからさまな解体風景を見て、残念そうに諦めて帰って行く姿が見られた。
それ程急いで作業した訳では無いが、二時間かからずに作業は完了してしまう。
「それじゃあ、夕方までフリーの時間とします」
俺もユーリエとミリィを連れだって、バザーを見て回る。特に何かを探すためでは無く、のんびりとした散歩のようなものだ。時間を掛けて様々に見て回り、その他にも大道芸を見たりして祭りを楽しみ、頃合いを見てテントに戻った。
俺たちが戻ったときには、全員のメンバーが既にテントに戻り、夕食の準備が終わっていた。
ユーリエが先に授乳をするというのでそれに付き添い、授乳が済んだ後は、ミリィがゲップするまでユーリエの代わりに背中を優しくトントン叩きながら抱いてやった。
その後俺たちも夕食を済ませて、荷物の見張りをギッチェ親分がよこしてくれた男に任せ、俺たちは全員で円形劇場に向かった。
ルーデンブルグ最大の施設と言って良い円形劇場は、街の中心部からやや南東方向の一角に有り、簡単に言えば石材をすり鉢状に積んで設置した設備である。
外苑部には、中に入るための階段が、外壁に沿ってすり付くように設置されており、それを登り切ると劇場の最上段外周部分にたどり着く。
劇場内は石積みで段となった座席が有り、俺たちは中段より少し上目に二段に別れて場所を取った。指定席など無いから、場所取りは早い者勝ちである。
「ここなら全体が見渡せて良い席だね。早めに来た甲斐があったよ」
ハンナは観劇を見に何度か来たことがあるらしく、この聖女アマ―リアの叙事伝も二度目なのだそうだ。場所についても「物語をじっくりと楽しみたいなら中段より後ろ、特定の役者を近くで見たいなら前の方に行くんだよ」とアドバイスしてくれた。殆ど全員が初めてと言うことも有り、今回は物語を楽しむための位置取りをしたのである。
場所に着いた俺たちは、持ち込んだ敷物やクッションを並べて座る場所を確保すると、俺が若手の男性陣を指揮して女性陣のための果実水とエールを買いに走る。このような場所へ来るのは、映画館ぐらいの経験しかなかった俺は、ついつい、いつもの癖でポップコーンが売っていないかと探してみたが、残念ながら売っていなかった。それどころか、そもそも「とうもろこし」自体見ていない事を今更思い出したのだった。
(作物として存在しないのかこの辺りに無いだけなのか、調査してみる価値はあるな)
俺は、機会があれば調査してみることを記憶の片隅に留め、確保した席に戻った。
エールを飲みながら、改めて円形劇場の全域を見渡す。ほぼ真円に近い形状の円形劇場には、三百六十度全域に席が有り、俺たちのように早めに席を取りに来た観客で埋まりつつある。
すり鉢状をした円形劇場の底辺部分には、一メートルぐらいせり上げた形で円形の舞台が有り、東側と西側に地下から上がってくる階段が設置されている。ただ、この階段の周囲には、視界を遮るための壁が絶妙な配置で取り付けられており、演技を見るのに支障はないが、階段の奥を視る事は遮る工夫が成されている。
舞台は三百六十度全域から見る事を考え、舞台装置の類いを使用する気配が無い。演技と演出を三百六十度全てに向けて実施せねばならず、舞台装置も無いとすれば、演技者の技量だけが、否が応にも物語への没入感を決めることだろう。
やがて日が暮れると共に、舞台と観客席との間に設けられた空間に篝火が焚かれ始める。その他にも外苑部の通路等に篝火が置かれているが、辛うじて通路とか、隣の人の顔を見ることが可能なくらいの明るさである。特に舞台の上は、せり上がっていることも有り、明かりが十分に届いていない。この明かりで舞台が見えるのか、不安になる程の暗さである。
だが、そんな疑問は、舞台が始まった途端に霧散することになる。突如舞台の上が明るくなり、そこだけ昼間のように照らし出される。だが、周囲を見渡しても光源は見当たらないとなれば、魔法による明かりなのだろうと推測できる。
(こんな使い方をしているなんて、なかなか贅沢だな)
俺がそんな感想を抱く中、舞台は開始された。
先ずは物語の冒頭、聖女アマ―リアが生まれるシーンからだ。両親役と覚しき役者が、誕生を喜び、神に感謝する演技をしている。着ている衣装や、彼らの語りから聖女アマ―リアが貧しい農家の生まれであったことを知る。
とても美しく、愛らしい少女だったらしい。聖女アマ―リア役の子役の女の子が、なかなか可愛くて演技も上手い。彼女は周囲の人々に愛されながら、育ったようだ。そして、十歳になった頃、名主の息子に見初められ、婚約者になることが決まる。
両親役も聖女アマ―リア役の女の子も、それを喜ばしい事と表現しているが、そこに少し違和感を感じないでは無かった。十歳の女の子が、ほぼ断りようのない縁談を伝えられて喜ぶものだろうか? そう伝わっているのだとしたら、聖女アマ―リアは周囲の期待を裏切ることが出来ない、よく言えば空気を読む性格だったのかも知れない。
だが物語はすぐに変遷を見せる。聖女アマ―リアが十一歳の時、住んでいた地域を戦乱が襲ったのだ。
戦乱の最中、両親も婚約者も故郷をも失い、彼女は戦争孤児になった。
だが、身を寄せた施設を訪れた教会の関係者に才能を見出され、すぐに引き取られることになる。
教会に引き取られることになった彼女は、生来の才能を直ぐに開花させ、僅か三年で中級クラスの神官となり、その後二年で上級神官にまで上り詰めたと語られる。
舞台の上では、中級神官から上級神官へと転換する場面で、配役の交代も行われており、新たに聖女アマ―リア役を演じるのは、十五歳くらいの勝ち気そうな美少女である。
教会は年功序列的な組織では無く、実力本位の組織となっているようで、十五歳で上級神官に上り詰めた彼女は、ある都市の司祭として赴任することになる。
そして、それからの彼女の活躍は、正に聖女の名に相応しいものだった。
赴任した街にはびこっていた不思議な奇病の原因を突き止め根絶に成功したとか、何人もの幼子の命を蘇生したとか、飢饉に際して国から多大な援助を取り付けたとか、暴利を貪っていた商人を改心させ慈善事業家に転身させただとか、その威徳と理知により様々な偉業を成し遂げている。この頃の彼女は、その温和な気性と慈愛溢れる笑顔から、既に聖女と呼ばれ始めていたらしい。
そして、隣国との戦闘の脅威が目前に迫ると、今度は自ら先頭に立って義勇兵を組織し、果敢に敵を撃退していった。
この時既に、最高級の法術を修めた神官となっていた彼女が率いる義勇軍は、どんな魔法も通用せず、傷はたちまち完治して、祝福により常人の数倍の能力を有する無敵の集団であった。
この時彼女に従った人々が、後に彼女の親衛隊的組織となる神聖騎士団の中核を成していくというのも頷ける話であった。
彼女の活躍によって――この部分は演出上の脚色に感じるが――、ついに隣国との戦争に勝利し、聖女アマ―リアは王都に凱旋を果たすことになる。
ここで、舞台では再び配役の入れ替わりが行われる。前二人がそれなりに容姿の整った役者だったし、俺には自分が買った聖女アマ―リア像という強烈なイメージがある。年齢が二十五歳ぐらいの設定だし、あの象に似た超絶スタイルの美人を期待し胸が高鳴る。
そして現れたのは、豊満な胸、豊満な腹、豊満な尻をした四十代ぐらいのおばさんだった。
(いや、何かの間違いだろう)
そう思った俺を、どうか責めないでやって欲しい・・・・・・。
俺の願い虚しく、どうやら彼女が主役で間違いないようであった。そのおばさん女優は舞台の中央に立ち、臆すること無く聖女アマ―リアを演じていく。
主役だからだろうか、中央から殆ど動くことは無く彼女の演技に合わせるかのように周囲の役者が位置を調整――今までより移動が格段に多くなり、ばたばたとした演技になる――しているのが解る。
厚手の化粧が、まるでお面を被っているかのようで、殆ど顔の筋肉を動かしていないのもあって、無表情に見える。とてもじゃないが、温和とか慈愛とかを感じ取ることは出来ない。ついでに言うと、若さとか生気とは無縁の存在である。
(ふざけんじゃねー! 金返せやゴラァ!!!)
そう叫び出さなかったのは、全ての精神力をつぎ込み、俺の堪忍袋が千切れるのを必死に繋ぎ止めることに成功したからで、奇跡に近い。
俺は聖女アマ―リアに対するこれ以上のイメージ崩壊に耐えられず、脳内で強制的におばさん女優を聖女アマ―リア像に置き換え、舞台は見ないようにしながら話の筋だけ聞くことにした。
王都に凱旋した聖女アマ―リアは、恩賞として領地を得て、貴族位を得ることになった。それだけでは無く、彼女が所属する教会におけるナンバースリーの地位に就くことにもなった。また、彼女に従った義勇兵達も同じく恩賞として領地を得て、その後は神聖騎士団として活動していくことになる。
この時既に、実力的には彼女を凌ぐ存在は教会にいなかったようだが、実力本位の教会にしても、さすがにいきなりトップには立てなかったようである。ただ、トップは高齢で有り、次期トップと目されていた司教より、実力も人望も上回っていたから、次期トップは約束されたようなものだったらしい。
しかし、すぐに交代すると目されていたトップは五年経っても居座り続け、教会内での順位も変動すること無く、聖女アマ―リアは二十九歳になっていた。これは彼女自身が教会内での地位に固執しておらず、自らの領地経営に専心していたからだと思われる。
そして、ある事件がおこる。
ある迷宮を支配していた魔術師が、|自らを不死者となす邪悪な魔法に成功したのだ。
特段被害があった訳では無いようなのだが、最高位の不死者の出現に人々は怯え、教会に救いを求めた。この事態に聖女アマ―リアは、自らに従う神聖騎士団を率いて討伐に向かうことになる。
彼女が討伐に向かった経緯については諸説あるらしいが、今日の舞台で演じられていたのは、その中で最も信憑性が高いと言われる教会のナンバーツーによる陰謀論である。
そんな経緯はともかくとして、聖女アマ―リアは迷宮に挑み、神聖騎士団の仲間達の大半を失いながら、迷宮の最深部にたどり着く。そこでの死者の王と化した魔術師との闘いは熾烈を極め、聖女アマ―リアの元に残っていた神聖騎士団の最精鋭達も傷つき倒れていく。
だが、それでも聖女アマ―リアは闘いを続け、ついに死者の王と化した魔術師を打倒するに至る。
闘いは終わったかに見えたが、死者の王と化した魔術師最後の抵抗により迷宮が崩壊し始める。彼女は持てる最後の力を振り絞って生き残った神聖騎士団を強制転移させ、自らは迷宮に埋もれて帰らぬ人となったのだった。
生き残った僅かな神聖騎士団の話により、このことを知った人々は嘆き悲しみ、聖女アマ―リアの功績をたたえ、叙事伝を語り継いだり、石像を建立したり、祭りを開催したりして今に至る。
知れば知るほど、正に聖女と呼ばれるに相応しい、輝かしい実績を残した存在だ。
(これでもし、あのナイスバディがご本人の写し身だったとしたら、正に完璧超人だな。俺なんか、見ただけでひれ伏してしまいかねんな)
そんな感慨を抱く。
舞台は出演者全員が並んで挨拶を行い、観客からは歓声が起こっているが、最後の配役に納得のいかない俺はそんな気分にはなれなかった。
周囲の喧噪に驚いて、寝ていたミリィが起きて泣き出したので、俺とユーリエは慌てて円形劇場を後にした。
「ユーリエ、観劇を見た感想はどうだった?」
俺はぐずるミリィをあやしながら、すぐ横を歩くユーリエに聞いてみた。あの配役が気になったのは俺だけなんだろうか。
「そうですね、素晴らしかったと思います。初めてでしたが、聖女様の最後の場面なんて涙で潤んでしまって」
「そ、そうなんだ」
(俺以外には、あの配役に違和感を感じ無いとは。やはり俺の中のイメージが強すぎるのか?)
俺はテクテク歩きつつ、泣き止みつつあるミリィの背中を優しくトントンしてやりながら考える。
(取りあえず、批判的な意見は言わない方が良いらしい。せっかく楽しんでいる人に水を差すような真似はしない方が良いからな)
俺はそう決めて、観劇の不満のことを頭から消し去ることにした。
(さあ、明日はメセルブルグに帰還だ。多分七日も店を開けてないから、帰っても休む暇は無いんだろうな)
そんな予感を覚えながら、テントに戻っていったのであった。




