第6話
おれは、降り注ぐ噴石をかろうじてかわしたながら、大きな岩の陰に身を隠した。
噴石はこぶし大のものもあれば小石程度もあるし中にはボウリングの球くらいの大きさのものを降ってきた。火口から噴出される噴石のスピードはとても速くとても目で追えるような速さではなく、恐らくピストルくらいの速さはあるかもしれない。小石程度の噴石であっても、ピストルの速さで急所に当たればそれだけで致命傷だ。
こうして岩陰に隠れて噴石から免れていても、しばらくすればここにももっと濃い有毒ガスがやってくるだろう。
おれの少し前を歩いていたはずのオカルト研究会の2人は噴石を避けようともせずに、ぼう然と立ちすくんでいた。
おれは2人に声を掛けたかったが、有毒ガスが充満しつつある状況で大きな声を出してガスを大量に吸い込んでしまうことは避けたかった。
そこでオカルト研究会の2人が何か短い会話をしたと思ったら、どういうわけか2人がおれの方に向き直りこちらに向かって歩き出してきた。
どうしたのだろうか。と困惑していると、次の瞬間オカルト研究会の1人の男の顔面に拳くらいの大きさの穴が空いた。彼が倒れる瞬間確かに顔面の穴から向うの景色が見えていた。
どしゃっと倒れんだ男をもう一人のオカルト研究会の男が驚きもせずに見ていた。
彼は、倒れた男のリュックから古い本を取り出し、その本を抱えながらこちらに向かってきた。
彼はおれの目の前に来るとボソッと言った。
「まさかこんなことになるなんて思わなかった。全部僕たちがいけなかったんです」
「一体どうしたっていうんだ」
地響きと怒号が鳴り響く中の会話は聞き取りずらかったが彼が言う言葉を聞き漏らすまいと注意しながら聞いた。
「明け方くらいに僕たちは山小屋から抜け出してある場所に行ったんです」
「ある場所?」
彼は持っていた古い本を見せてきた。表紙には『恩嶽山の歴史』と書かれていた。その本をめくりながら、説明を始めた。
「この本には恩嶽山の歴史が詳しく書いてあります。その中ではるか昔、まだ化物や妖怪が信じられていた頃のこと、この地方で天災が起こると山に住む化物の怒りを鎮めるために、山のほこらに女、子どもを生贄としてを差し出すという風習が出来てしまったんです」
「そんな風習は地元に住んでいても聞いたことがないぞ」
「恐らくこの風習は闇の歴史としてずっと封印されてきたんでしょう。生贄の風習が続いている頃この山では数々の怪奇現象が現れました」
「それってまさか...泣き声とかのやつか?」
「そうです。それにこの騒ぎに乗じて山賊などが、人さらいや盗みを働くようになりさらに山は荒れ始めた。その頃からこの山を『怨嶽山』(おんたけさん)と呼ぶようになったそうです。
「それが怨から恩に塗り替えられたってことか」
「そうみたいです。それで、生贄を差し出していた祠がこの山の山頂近くにあるというので、僕たちは興味本位で行ってみたんです。場所は、あの山小屋からはさほど離れてはいませんでしたが、人目につかないような小さな祠なので恐らく地元の人でもあの祠を知っているのはごくわずかでしょう」
「おれもガイドをしているが、全く分からなかった」
「その祠は入口は小さいんですが入ってみると空洞が広がっていてなんとか立って歩けるくらいの高さもありました。その祠の中には石に名前が書かれた墓石のようなものが無数にあった。その祠の一番奥にはお地蔵様のような古い石像があったんです」
「それでどうしたんだ?」
「僕たちは興味本位でそのお地蔵様の近くまで行ってみたんです。そしたら...」
「どうしたんだ?」
「僕たちにも聞こえたんです。『オギャアオギャア』と言う。大勢の赤ん坊の声が。その声が急に聞こえたもんで僕たちは驚いてしまって祠から慌てて逃げ出す時に、お地蔵様の像や無数の名前が書かれた墓石を倒してしまったんです...」
「まさか、それが原因というのか...!?」
「信じられないかもですけど、それしか考えられません」
「そんな...」
「だから、僕はこれからその祠に行って墓石やお地蔵様の像を元通りに戻して謝ってきます」
「そんなことしたら絶対に死ぬぞ」
「僕たちが原因で登山部の人が死んでいるんです」
彼の目は怯えているものの意志の固まった目をしていた。
「わかった。一緒に行こう」
「ええっ?」
「おれなら風の流れを読んでガスの濃度がそれほど濃くないところを選んで山頂に向かえる。お前ひとりじゃこの状況で山頂の祠まで
辿り着けないだろ?」
「馬鹿ですね和泉さん...」
そういう彼の表情からは少し怯えの色が消えたようだった。
「お前もな。無事に下山できたらタダじゃすまないからな」
そう言って、彼の肩を軽く小突く。
この噴石と粉塵の中また山を登ろうとしている...。全くもって正常な判断ではないが、この時はこうすることが一番正しいのだと思っていた。
おれは少しでも多くの学生が下山できることを祈りながら、山頂にあるという祠を目指して歩き始めた。




