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怨嶽山  作者: 都山 夕
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最終話

おれたちは舞い落ちる粉塵やガスを吸い込まないようにハンカチや布を何枚も重ねたものを口元に当てながら岩場を登る。


落下してくる噴石からは、岩場の隙間などに身を隠しながらかわしていた。


しかし、岩場を抜けると身を隠しきれなくなるので、リュックを片方の手で頭上まで持ち上げて頭部を守りながら歩いた。


この作戦はなかなか良かった。幸いリュックの中にステンレスの水筒や手鍋が入っていたので、小石程度の大きさの噴石ならなんとか凌ぐことができた。


オカルト研究会の男の名前は佐藤と言った。


佐藤はおれの後ろをなんとかついてくる。恐らくすでに体力の限界なのだろう。


噴石や風向きを気にしながらの登山は困難を極めた。


普段の倍以上の時間をかけながらやっと山頂付近まで到着した。


「はあ、はあ、一体そのほこらってのはどこなんだ?」


佐藤が200mほど先を指さして答える。


「あの岩の陰に茂みがあるでしょう。あの茂みに覆われて祠の入り口があるんです」


そこは普段山頂に行くルートではないし、茂みの中にまさか祠があるなんて全く知らなかった。


山頂に近くと粉塵は地面に積もり、すでに灰色に覆われていた。


ガスの濃度もかなり上がっている。ここで深呼吸でもしたら倒れてしまうだろう。


おれたちは残っている気力を振り絞り祠をめがけて進む。


噴石から身を守るために持っていたリュックはすでに原型をとどめていなかった。無数の噴石により穴だらけになり、リュックで守り切れなかった噴石がおれの右腕に当たりさきほどからものすごい痛みを感じる。


佐藤も腕や足の噴石が当たり怪我をしているが、致命傷の傷は負っていない。


祠があと数十mの所で、あれは後ろを振り向き佐藤を見た。


「ほら、あと少しだ!」


その時おれの真横からこぶし大の噴石が飛んできた。


「危ない!!」


佐藤はとっさに走ってきておれに体当たりをしてきた。


佐藤に突き飛ばされたおれにはどうやら噴石は当たらなかったらしい。


「ありがとう。助かったよ」


そう言って佐藤に近づくと佐藤の背中から血が噴き出していた。


「おい!大丈夫か!!」


おれがガスのことも忘れて声を掛ける。


「ああ、まだ死ぬわけには...」


おれは、佐藤を肩に担ぎ最後の力を振り絞って祠へと向かった。


佐藤の体からはおびただしいほどの出血をしていた。


祠が隠されている茂みにたどり着き、やみくもに茂みをかき回して祠を探す。


すると、佐藤が震える指で茂みを指さした。


「あそこなんだな!」


佐藤を担ぎながら、指さした茂みをかき分けると、大人がしゃがんでやっと入れるほどの大きさの洞くつの入り口があったあ。


「この中だな!」


先におれが祠に入り佐藤を後から引きずり込んだ。


とりあえずこれで噴石からは身が守れるだろう。


「とにかく止血しないと....」


「うっ僕のことはいいから墓石と像を...」


「そんなことできない...」


「僕はもう助からない。でも、し、死ぬ前に謝りたいんだ...」


「...わかった。」


おれは、佐藤をその場に横たわらせた。


祠の中は入口は狭かったものの、入ってみると立っていられるほどの高さだった。


持っていた懐中電灯で祠の中を照らすと、無数の墓石が散乱していた。


おれは、その墓石をひとつひとつ丁寧に並び直していると、祠の中を埋め尽くすような赤ん坊の泣き声が聞こえてきた。


『オギャーオギャー』


「そんなに怒らないでくれ、佐藤も反省しているんだ」


耳をつんざくような泣き叫ぶ声におかしくなりそうになりながらも墓石をひとつひとつ並べていく。


最後に無残に倒れていたお地蔵様の像を立たせる。


大きさはそれほどないが、傷ついた腕で像を起こすのはかなり手こずった。


おれは、意識がもうろうとしている佐藤のもとに行き、お地蔵様の像まで担いだ。


そして、2人で両手を合わせた。


『本当に申し訳ないことをしたごめんなさい』


その途端、今までの泣き叫ぶ声がおさまった。


「おい!これって許してくれたってことかな?」


佐藤を見やると、佐藤はすでに絶命していた...。


おれはお地蔵様の隣に佐藤を横たわらせて、手を合わせた。


洞くつの外を見やると、次第に噴石も弱まっているようだった。


しかし、この辺りはすでに有毒ガスが充満していてとてもじゃないがここから出ることはできない。


救助を待つにしても、救助隊は果たしてこの祠を見つけ出せるのだろうか...。


おれは、絶望と有毒ガスのせいで意識がもうろうとし壁にもたれたまましゃがみ込んだ。


『おれはこのまま死ぬのか...』


そんなことを思っていると、急に首を締め付けられる感覚があった。


「うっ苦しい...」


姿は見えないがおれの首を締め付けている手の感触は女の手のようだった...。


『返せ...返せ...あたしの赤ん坊...返せ....返せ!!』


これは、生贄とされた赤ん坊の母親の怨念なのか...?


首を締め付ける力がさらに強くなる。





おれは、学生たちがひとりでも下山してくれることを願った。


そして、誰かに伝えてもらいたい。


決してこの『怨嶽山』には誰も登ってはいけないということを...。









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