諸外国の皆様、いつもお世話になっております、英雄ではない間宮です。
カッカッっと音を立て廊下を進む。
外観は少し奇抜な見た目ではあったが、廊下には掲示板があり、部屋番号の書いてあるプレートが扉の上には書かれている。
内装はなんというか
「学校みたいな作りなんですね」
率直に思ったことを伝える。
「まあそうだな」
確かにと言ったような表情で大泊大臣は言葉を続ける。
「自衛隊の駐屯地や基地は国費で建設される、だからある程度仕様が決められていてな、それ通りに作ると役所や学校に似てくるんだよ」
っとわかるようなわからないような説明をしてくれる。
「ここだ」
そんな話をもう少し聞いたところで一つの部屋の前で立ち止まる。
扉の上には
「異常空間有事に関する対策室?」
「ああ」
大臣は部屋の扉をあけながら続ける。
「ここが君を英雄から引きずり下ろすための場所、異常空間有事に関する対策室」
扉が開き、そこには自衛隊の秘密基地のような場所が―
「通称窓際だ」
あるわけもなく、その部屋にあったのは1個長机とパイプ椅子が数脚、それと少しだけ豪華な椅子が一個だ。
「え?窓際?」
「ああ、そうだとも」
大臣は自分だけ少し豪華な椅子に座り、俺にも椅子へ座るように促す。
想像とのギャップに少し驚きつつもパイプ椅子へ座る。
「豊原君、俺とこいつの分、何か買ってきてくれ」
「はっ」
そう命令を受け豊原は部屋を後にする。
そして残されたのは俺と大臣の二人だけだ。
「あの―」
「さてと、だ」
俺が口を開こうとしたのを大臣は上から被せ、話を始める。
「間宮鵜城君、まず君が疑問に思っているであろうことにいくつか答えよう、質問はその後だ」
大臣は机に肘をつき、手を組み、その手で口元を隠す。
ゲンドウかお前は。
「まず君が最も気になっているであろうことに答えよう」
俺が一番気になっていること、それはもちろん―
「あのハンバーガーはまだ1辛だ」
俺は英雄ではないと証明―……
「え?」
「驚くことも無理はない、君と豊原君はかなり苦しんでいたからね、だがあれはまだ1辛、最低レベルだ」
いやそうじゃないだろ、そう思いとりあえず何か返事を
「死ね」
「え?」
「あれ?」
つい思ったことを口に出してしまった、そんなどうでもいいこと話さなくてもいいだろうと。
「いや今のはなんといいますかふと思ったことというか本音というか…」
大臣の反応はゲンドウポーズのせいでよくわからない、怒ってないといいが。
「ふっ、はははははっ、いや、いい、こちらも少々ふざけすぎた」
大臣はこちらの言葉を気にしないよう、いやむしろそれを待っていたというかのように笑う。
「すまんな、君は車内でも私に馬鹿と言っていたが、それが素の君なのだろう、であればそれでいい」
ん?っと頭にはてなが浮かぶ。
「つまりため口でもいいと?」
「ああ、年上だ、政治家だ、大臣だ、そういったレッテルで敬語で話されるのはたまらん、分かるだろ、英雄なら」
そう言われてようやく理解する、つまり大臣はあくまでも一人の人間として、英雄間宮ではなく間宮鵜城と話したいといっているのだろう。
なかなかに回りくどい人だ。
「わかりました、だがあなたとは初対面だ、ある程度の敬語は勘弁してもらえれば」
「それはもちろん、私とてこんな口調だ」
「それはどうも、で、そろそろこちらから質問しても?」
「いいや、今のはあくまでも導入だ、今から話すことを聞いてからにしてくれ」
大臣は立ち上がり、ブラインドを閉め、棚に置いてあったプロジェクターの電源を入れる。
それ物置棚じゃなくってちゃんと使えるんだ…
「さて、まずこの画像だがこれは何だかわかるか?」
壁に映し出されたのは世界地図だ、そしてそのすべてが赤く塗られている。
「いえ、全く」
わからない、まで言う必要はないだろう。
「赤で塗られている国、これは間宮鵜城、つまりは君を英雄だと信じている国だ」
「え、赤い国って…それじゃあ」
「ああ、個人個人の思想は知らないが、基本的にはすべての国が君を英雄だと思っている」
改めて画面を見るが隣国や地球の裏の国も含め、すべてが赤く染まっている。
「状況は理解できたか?」
「俺は英雄なんかじゃ…」
「だがこれが現実だ」
大臣は突き放す、というわけではないが、受け入れろと諭すように言う。
「ま、待ってください、まだ―」
「なんだ?」
まだすべての国とは限らない、この地図に載っていない国つまり
「シーランド公国はどうなんですか!」
「俺の口からあれを国と発言することはできない」
どうやら公国の国家承認はまだ先のようだ。
「もういいか?つぎに行くぞ」
「あ、はい」
そう言われ次のスライドに進む、するといくつかの国は青く染まった。
「この青くなった国は?」
「この青い国々が我々防衛省を悩ませる国だ」
「悩ませる?」
青く表示されているのはロシアや中国、アメリカに…ヨーロッパらへんか?
いわゆる大国と言われるような国々が青く染まっている。
「なぜこれらの国が?」
「そうだな、まあ簡単に言えば、これらの国は君を怖がっている」
「ん?俺を怖がる?誰が?」
「国が、だ」
俺の理解できていないという表情を見て、大臣は少しだけ面倒くさそうにする。
「まぁ、異常空間有事が騒がれた当時、君は異世界にいたからこの温度感がわからなくても仕方ないか」
「正直それがいまだによくわかってないんですよ、その異常..世界有事?」
「異常空間有事だ、1年前だというのにすでに教科書に載るレベルの出来事だ、覚えておけ」
そういい大泊は別の資料を壁に投影し始める。
何枚かのスライドをパッパッパと飛ばしているが、どれも右上には防衛機密と記載されている。
「見せていい奴なんですか、これ」
「ま、よくはないな、これだ」
良くないのかよ…
壁には一枚のスライドを表示されるが、やはりこれにもやはり防衛機密と記載されている。
「細かい説明はしない、もし知りたかったら資料を見せるから自分で見てくれ」
「わかりましたが…これは…」
それは空に浮かぶ巨大な目のような何か、それがこの世のものではないことだけは理解できる。
「一部ではアポカリプスとか言われてたな、黙示録の日だって」
それはどうでもいいんだっと前置きをして大臣は説明に入る。
「まずこの巨大な目、こいつがなんやかんやして地球を亡ぼす可能性があることが分かった、そしてこの目はお前がいた異世界につながりその世界の魔王の命とつながっていて、それを解決するために各国が―」
「んんん???ま、待ってください、長いし早いしわからないんですが…」
「義務教育受けてないのかお前は」
「この件に関しては受けてないですよ!」
そんなしょうもない言い争いをしながらなんとか読み解いた結果。
「つまり?この目玉が世界を亡ぼす、目玉は俺が転移していた異世界の魔王の命とつながってた、ここまではあってます?」
「まあ概要としてはあってるな、だが正確には異世界ではなく―」
「ああ、もうわかりましたから、いったん概要でいいんですよ」
この人細かい説明はしないといったくせに、やたらと説明してくるな…おそらく厄介オタクの素質がある。
「で、米軍や中国軍、ロシア軍が協力しても破壊できなかった、それを異世界の魔王を倒し、目玉を破壊、世界を救った英雄が俺、ってことになってるんですね」
「いや、あ、ま、まあ大体はそうだ」
おそらく何か言いたかったんだろう、だが何とか大臣は耐えてくれた。
「そこまではとりあえず理解しました、でも何度も言いますが俺は英雄なんかじゃないですから」
「それについては我々防衛省としてもそのスタンスでいてもらいたい、その理由がさっき見せた一部が青くなった地図だ」
やっと俺のターンと言わんばかりに大臣は立ち上がり、スライドを地図に戻して再度説明を始める。
「事実はどうあれ、世界中が君を英雄と思っていているわけだ」
「はい」
「米軍はあの目玉を倒せなかった」
「はい」
「中国、ロシア軍も倒せなかった」
「はい」
「そしての連合軍でも倒せなかった」
「やばいですね」
「だがある英雄は、あの目玉を一人で倒した」
「……」
俺は英雄と呼ばれるようなことは何もできなかったし何もしていない、だが世間はそう思っていない。
俺が魔王を倒し、あの目玉を倒し、世界を救った英雄だと思っている、残念ながら確かにこれは事実だ。
「そういうことだ」
「つまり、青く染まっている国は俺が異常な力を有していると思っている、と」
「簡潔に言えばそうだな」
そんなことになっているとは思いもしなかった。
現実へ帰ってきてからしばらくの間、いや今もある英雄として祭り上げられている感じ、それが嫌でテレビやネットでもニュースを見ていなかったが。
「そんな情勢になっていたんですね」
「本当に何も知らなかったんだな…」
そんなほめるなよ~っという表情をしていると大臣はなんだこいつという表情でこちらを見ていた。
「とりあえずそんな状況だが、現実はもう少し深刻だ」
「何がです?」
少しだけ大臣の纏う空気が変わったのを察知し、耳を傾ける。
「この青い国だ、この国々からは我々日本政府に対し」
少し顔を上げこちらを真剣なまなざしで見つめる。
「間宮鵜城、君の身柄を引き渡すようにと要請が入っている」
ガチャっという音が響き部屋に誰かが入ってくる。
びくっとし振り返ると―
「戻りました~」
共に買い出しに出ていた豊原さんが戻ってきた。
「少し話つかれたな、お茶にしよう」
大臣はそういうとブラインドを開ける。
どれほど話したのだろうか、体感久しぶりに見る空は、雲が厚くなり、どんよりと暗くなっていた。




