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追放聖女は復讐したい ー(元)最強魔女に転生した俺、復讐に燃える聖女に破壊兵器として粘着されるー  作者: 白猫商工会


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第8話 滅魔の光

 首を失った竜から魔力が溢れ出す。見えない力が巨体を覆っているのが分かった。

 その力は、ミレーヌが首を斬り落とした断面へ集まり――


「……なあ、なんか再生してないか?」


 失われた頭が戻りつつある。だが、先ほどとはフォルムが違う。異様に捻れた大きなツノに、さらに太く凶悪な牙。

 その変化に、ゼファスは「うーん」と思案の声を上げた。


「あれは回復魔法ではにゃいな。おそらく召喚。トリッキーなやつだ」


 召喚魔法。


 俺の異世界知識では、モンスターを呼び出す魔法だが、この世界の魔法体系はそれとは異なる。魔力を物質に具現化する魔法だという。


「てことは、あの首は生えてきたわけじゃなくて、魔法で作られてるってわけか」


「高度な召喚魔法は、失われた臓器も具現化できるにゃ。手足を飛ばしても、新しく作られては終わりがないぞ」


 そして、パリパリと音がしたかと思ったら、ギガントレックスの体から刃が飛び出し、植物の拘束を切断していった。


 あれも召喚魔法の具現化能力――


 リズは切られる端から茨の拘束を重ねていく。今のところ一進一退。だが、腹の音が止まらない。

 俺は謎植物の種を供給するが、カロリーが明らかに不足しているようだった。

 ボリボリと音を立てて種を噛みながら、リズは呟く。


「やはり肉と脂……ガツンと効くやつが欲しいですね」


 儚げな見た目のわりに男前な発言。

 俺はゼファスに再確認した。


「魔力の供給源は、心臓って言ったよな。心臓潰せば終わりなのか?」

「そうだ。心臓を失えば、具現化するための魔力も途絶えるにゃ」


 ここに来る前に見た、あの瓜(ウリ)の弾丸なら。


「なあ……」


 俺の問いかけに、リズは腹の音で答えた。いまは新しい魔法を出す余裕はなさそうだ。


 なら……。


 俺は暴れ回るギガントレックスの足元を見る。ミレーヌが落とした短剣が転がっていた。

 その視線に気づいたゼファスが注意を飛ばしてきた。


「あんな短剣で真亜に立ち向かうのは無謀だぞ。小娘だからできる芸当にゃ」


 そんなことは分かっている。だが、他に手はないだろう。


「俺だってやりたくないっての。リズ、踏ん張ってくれよな!!」


 まだ完全に拘束が解けていないうちに対処しなくてはならなかった。

 この魔女ボディは、見た目のわりに力がある。動かない相手に短剣を突き立てるくらいなら……。

 考える前に走っていた。巨体の懐に潜りこみ、しゃがみ込んで短剣を拾う。


「お姉様、立ち上がらないで」


 ……え?


 ちらりと上目遣いで確認すると、鋭い牙がびっしりと生えた顎が、俺の頭頂部スレスレにあった。

 茨の蔓が轡のように巨大な顎へ食い込み、強引に抑え付けていた。


 俺はストンと腰を抜かす。


「あれ……」


 足に力が入らない。這ってでも逃げなくては。そう思うが、動けない。

 前脚の爪が振るわれる。尻尾が襲い来る。それらも全て茨が押し止める。


「早く、お姉様……もう……」


 その腹の音をやめてくれ。

 だんだん間隔が短くなる。死へのカウントダウンの響きが、鼓膜を震わせていた。


 ――いや、逃げてどうする。心臓、とにかく心臓だ。


 一撃決めれば勝ち。本日のMVP。分かっているが、足に力が入らないのだ。

 パリパリと、また乾いた音。召喚魔法が発動し、前脚の爪がゆっくりと伸びてきた。


「ちょっ!!」


 慌てて首を捻り、左手で顔を庇う。手のひらに熱した鉄を当てられたかのような鋭い痛みが走った。


「お姉様!!」


 リズの叫びが、一瞬飛びそうになる意識を繋ぎ止める。左の手のひらがパックリと裂け、血が溢れ出した。


 ……おい。


「主よ!! そんなものかすり傷にゃ!! 気をしっかり持て!!」


 ギガントレックスの前脚は、リズの茨がグンと後方に引き寄せた。その代わり、腹の音がさらに短い間隔で鳴り始める。


 ――死。


 顎と前脚と尻尾は、しっかり俺にロックオンされている。リズの魔法が切れた瞬間、五体のランデブーは終了だ。

 そして、そのときはもう数秒もない。腹の音が知らせていた。


「なんかないのかよ、この魔女ボディの隠し球は!!」


 最強の魔法使いなんて言っても、所詮はしがないリーマン。

 俺なんて……。諦めかけた俺の頭に声が響いた。


「お師匠さま、魔力集中ですわ」


 ミレーヌの言葉だ。実際に言葉が聞こえたわけじゃない。けれども、通じた。


「魔力、集中……」


 両手で短剣を握り締め、ギガントレックスに向ける。軽く呼吸を整えていく。

 どうせなら、やるだけやってからだ。食われる前にかすり傷でもつけてやれば、次の異世界で胸を張って生きていけるだろう。

 魔力は心臓から流れ出すという。意識を向けると、カチリと何かがはまった気がした。


 短剣が淡く光り出した。


 その光がだんだんと強くなり、切られた手のひらが熱くなる。

 淡い光は短剣の切っ先に集束し、光の筋となって射出。リズの拘束が解けたのと、光の筋がギガントレックスの心臓を貫いたのは同時だった。

 魔力で構成された竜の頭が霧散するように消え、巨体が沈む。


「……あれ?」


 光の筋は止まらない。左手から力を吸い取るように、短剣を通じて魔法が溢れ出る。


「ちょっ、止まれって!!」


 短剣を滅茶苦茶に振り回すと、光の筋がギガントレックスの巨体を切り刻んでいく。


「お姉様、そんな適当な解体を……」


 何を悠長な。短剣を離したくても、左手に吸い付いたように離れない。

 そして、何かとてつもない力が魔女ボディから引き出されようとしているのを感じた。


「主よ!! こんなところで大魔法が暴発したら生き埋めだぞ!!」

「止まんねえんだって!! なんとかできるなら、なんとかしてくれよ!!」


 左手から力が漏れ出す。だめだと思った、そのとき。

 短剣は粉々に砕け散った。同時に、俺から溢れ出した魔力がドンッと空気を震わせ、ビリビリと鉱山内が振動する。


「ひっ!!」


 情けない声を出して、手で頭を庇ってしゃがみ込んだ。だが、それ以上は何も起きない。


「助かった……のか?」


 ゼファスが俺の側にやってきて、肩にポンと前脚を置いた。


「最後は不発。小娘の短剣……魔導ギアが主の力に耐えきれなかったせいだろうが。やるなら、きちんと制御するにゃ」

「制御って言われてもな」


 思わず顔をしかめる。しかし、今の魔法は……。


「なあ……」

「光魔法にゃ。四大属性の複合……熱線に、滅魔。

使い手は世界でも数えるほどしかいない」


 光魔法――

 俺は血まみれの手のひらを見る。


「カッコいいじゃん……

正義の魔法使いっぽいな」


 厄災の魔女だけどな、とセルフツッコミを入れる。


「お師匠さま」


 ビクッと肩が跳ねた。

 しゃがみ込んだ姿勢で恐る恐る振り向くと、ミレーヌが俺の顔を覗き込んできた。


「お師匠さま、今の魔法……」

「あ、悪い。短剣壊しちゃって……」


 ずいっとルビーの瞳が接近してくる。


「光魔法なんて、伝説の域ですわ。あのアイギスの盾だって、これなら……」


 口を挟む間もなくまくし立ててくる。


「王都に審判の光が差すとき、背信の徒はその汚れし肉体を焼き尽くされ、魂は然るべき地獄へ……この神話は、私が必ず次の時代へ語り伝えますことよ。

そして、厄災の魔女ベアトリスの恐怖は永劫に人々に刻まれる……どうぞご安心なさってくださいませ」


 そのエンディングの、どの辺に安心する要素があるというのか。

 俺はそれには答えず、話題を変える。


「なあ、短剣だけど……」

「セリーナ先生からいただいたものですが、もう一本ありますし、命には代えられませんわ」


 そう言って、転がっていたもう一本の短剣を拾う。


「それよりも、まさか真亜とは不覚を取りましたわ。聖光国……やってくれましてよ」


 俺は頭に大きな疑問符を浮かべて問いかけた。


「どうして聖光国の名前が出てくるんだ?」


 ミレーヌは遺体に近寄っていく。光魔法が切断した断面に短剣の先をあてると、黒い石がポロポロとこそげ落ちてきた。

 その石を摘むと、ミレーヌは不可視の力を石に込める。


「王国産の、真竜バクナワ由来の魔石……ですわ。魔石と一口に言っても、込められた魔力に微妙な違いがありましてよ」


 ゼファスが「にゃるほど」と言葉をつなぐ。


「魔石で進化を促進したというわけか。ギガントレックスが大量の王国産の魔石を食らってるのは、不自然だにゃあ」


 王国は魔石の一大産地。そして今、その利権には聖光国が深く食い込んでいる。

 ……てことはだ。


「こいつ、聖光国の仕込みだってのか? クルセイダーとかいうやつを派遣して恩を売るために」


 なんてやつらだと思う俺だが、ミレーヌの反応は違った。口元を上げて不敵に笑う。


「通常のギガントレックスなら現地の冒険者に倒される可能性もありますが、真亜ともなれば、まず手に負えませんわ。

そこで、戦闘魔法使いの集団であるクルセイダーの出番……たいした救世主ですこと」


 短剣の切っ先で魔石を掘り出していく。


「それにしても、大盤振る舞いですわね。倒して回収するつもりだったんでしょうけど……魔石大量ゲット。ごっつぁんですわ」

「なあ、そんな呑気なこと言っていいのか? このこと、依頼主に伝えた方が……」


 俺の言葉はゼファスに遮られた。


「主よ、状況証拠を並べたところで、意味があると思うかにゃ?」


 確かに。怪しくはあるが、知らぬ存ぜぬで躱されるだけだろうな。

 そして、無用な波風を立てることになる。

 ミレーヌは、やるときは確実に急所を狙うやつだ。思想はあれだが、考えなしで噛みつく狂犬ではない。なんとなく、それは分かってきた。


「そうか、まあ俺はミレーヌの判断に任せるさ」


 断定はできないが、聖光国の仕業だとしたら、ここまで手段を選ばないやつらだとはな。

 力技で正面から押しまくる厄災の魔女が可愛く見えてくる。

 そんなことを考えていると、腹の音を鳴らしながらリズが近づいてきた。


「お姉様、手を」


 そういえば、左手。血は止まりかけていたが、ズキズキと痛む。

 リズは自分のバッグから薬液の瓶を取り出した。


「少し沁みますよ……」


 オレンジの液体を俺の手のひらにかけてくる。ほのかな柑橘系の匂い。本当に薬なのか怪しい。


 だが、痛みが嘘のように引いてきた。


「……すごいな」


 リズは包帯を巻いてくれた。腹の爆音は止まらない。

 そして、左手を見つめる俺の耳元にそっと口を近づけてきた。


「……血、でしょうか。精霊への対価は」


 魔力を対価に、精霊の力を引き出すのが魔法。俺の魔女ボディの血も、対価になり得るというのか?

 分からない。あくまでもリズの仮説だ。

 そして、出血しながら戦う魔法使いの絵面を想像してげんなりする。

 大きなため息をつきながら呟いた。


「まあ、今回はそれで助かったけどな」


 その後、魔法のバッグに真亜の遺体を放り込み、ついでにミスリル鉱石の塊も手当たり次第に拾う。


「なあ、いいのかこれ」

「討伐現場にドロップしているものは、正当な取り分でしてよ!!」


 どこまでが本当かわからない。だが、魔獣討伐のボーナスはテンションが上がる。

 俺たちはガンガン拾いまくる。

 リズには、とりあえず真亜の尻尾の先でカロリーを補給してもらうことに。尻尾の先といっても、一抱えはある肉の塊だ。

 ミレーヌはそれを切り分け、金串に通して渡してやる。リズは火を起こして炙り始めた。

 儚げなワクワク顔が炎に照らされる。軽く塩を振り、ミディアムレアの肉を咀嚼。


「ミレーヌさん……これは魔力にきますね」


 ミレーヌは、その場にあったツルハシでミスリルを掘りながら嬉しそうに声を飛ばした。


「帰ったら、焼き肉ですことよ。お師匠さまもリズさんも、たくさん召し上がってくださいませ」


 いつの間にかリズと馴染んでいる。そして、掘るのはルール違反じゃないのか。

 そんなことを思いながら、俺は現場に落ちていた冒険者の武器と鎧を回収するのだった。


***


 俺たちは街に戻ると、ちょっとした英雄だった。

 なにしろ、この領地の主要産業が停滞して経済的に大打撃を受けていたのだから当然だ。

 持ち込んだ魔獣の遺体が普通じゃないことは、見る者が見ればすぐに分かった。

 亜竜ギガントレックス自体がそこそこレアな魔獣であることに加えて、真亜ともなれば滅多に目撃されない。

 魔力を溜め込んで進化した個体の素材は高額で取り引きされるのだ。

 商会長のハント氏は、素材を全て引き取らせてくれと頭を下げてきた。俺は相場も何も分からないので、全てミレーヌに任せることに。

 リズは肉があれば鱗だの牙だのに興味がない様子だ。

 なお、真亜に加えてコリン少年に回収させていた飛竜の遺体も引き取り対象に含まれていた。

 飛竜はハント氏の商会へ卸すことに。真亜の素材の半分をハント氏へ、もう半分をダンへ卸すことをミレーヌは提案した。

 その場に居合わせていたダンは、そんな高級品は扱ったことがないと遠慮していたが、「それならこの話自体なしですわ」と言うと、ハント氏の圧に負けて渋々引き受けることに。

 ハント氏は素材の販路をダンへ紹介すると約束し、彼の商売はさらに手広いものになっていくのだった。

 ハント氏は真亜から出てきた魔石にも強い興味を示したが、ミレーヌは頑として取り引きに応じない。


「魔石は全てお師匠さまのもの。これは私との契約でしてよ」


 俺に視線が向けられたが、魔石は勘弁してくれと言うと、ハント氏は名残惜しそうな顔をしつつも最後には首を縦に振った。

 ここで機嫌を損ねるのは得策ではない、そう判断したのだろう。

 俺は、魔石を売るよりも所持しておいた方がいい。なんとなくだが、そんな気がしたのだ。

 こうして魔法使いの一行は、素材を売った金で大量の食材を仕入れ、意気揚々と我が家へと引き上げる。


 一日の疲れを癒しながら焼き肉を食っている頃、遠く離れた地では、厄災を知らせる鈴の音を巡って騒動になっていた。


 だが、それを俺たちはまだ知る由もなかった。

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