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オーダー -封印の鳥篭-  作者: 朧塚
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#002・5 『呪詛の回想』

「私は『商品』にならないものを売っている、と言っていいのかもしれないな」


 デス・ウィングは、酷薄な微笑を浮かべ、嘲笑的に言う。

 店に入ってきた人物は、彼女の友人だった。

「商品は人間の欲望によって動いていく。私はそんな人間の欲望がどんな風に動いていくのかが興味があるが。ただ、私の商品は大抵の場合、『消費』する事が出来ないんだ」

 その人物は、彼女の言葉を興味深そうに聞いていた。

「消費出来ない商品ってのは何か? それは不幸を与える事なんじゃないかって私は考えているんだ。欲望の充足だけでは終わらないもの。その時、その時に人間ってのは、自らの欲望を満たす為の商品を探すんだけど、それは芸術品の形を取っている場合も多いんだ」

 デス・ウィングは、沢山の毒薬や拷問道具などを取り出して、ビロードの布が敷かれた台の上に並べる。

「処でアートってのは資本を回す為の商品の形なのだけど、アーティストってのは、そういう視点を嫌う者は多いと思うんだ。そして私は思うんだ。究極的な反資本主義的な、反商業主義的なアートってのは、殺人とかテロとかなんじゃないかってな」

 彼女は、布の上に並べた道具の中から、一本のナイフを取り出して、そのナイフに刻まれた刃こぼれを愛おしそうに指で触れていた。

「もしくは、強姦とか、災害によるPTSDだとか。そういったものは残り続ける呪いになるんじゃないかってな。もし、消費されないアートがあるのだとすれば、それは人間の心を破壊するものでなければならないと思うんだ。商品の概念が発明されてから、そもそも、人間の命自体が国家や資本を回していく為のリソースだと言われてきたけれども、そもそも、人間存在自体が商品でしかないのなら、人間の作り出すものなんて、全てが商品でしかないよな?」

 彼女の言葉は、ますます熱を帯びていった。

「なあ、高度な資本主義社会、消費社会において、金によって交換不可能な商品で無いアートなんてあるのかな? 作品の聖性だとか、美のイデアだとか、文化の意味だとか、心の滋養だとか、色々言われているけれど、金と交換不可能なアートなんてあるのかな?」

 デス・ウィングは、空ろな瞳で、韜晦(とうかい)を込めるように話を続けていく。

「私は人間の命や文明や、国家の領土や、あらゆる生命も、民族も、人権概念も、そんなものは金で買える商品であり、資源であり、市場であり、消費可能なものであり、交換可能なものであり、着せ替え可能で、改竄可能で、複製可能で、使い捨て可能で、ゴミのように扱う事が可能で、廃棄可能で、略奪可能で、凌辱可能で、無価値なものだと認定可能なものだと見ているのだけど、金や貨幣以上に価値のあるものなんてあるのかな?」

 彼女の友人は、彼女の疑問に対して、返答に詰まる。

 正直、理解しきれない言葉の数々だった。

「まあ、これは経済の視点の話だよ。別に私の本意じゃない。前に核兵器をあらゆる国に売って、一大ビジネスにしている男と経済的取引をした時に、その男の理屈を話してみただけなんだ」

 そして、彼女は爆弾の設計図などを取り出して、眼の前の人物に見せた。

「商品に良い悪いなどの善悪は無いな。ただ、それは人間に階級を作り、支配者と被支配者を作り、命をより低い価値に、あるいは他の思想や美学や信仰をより低い価値のものへと変化させていくという側面がある、ってだけだよ」

 どうやら、戦闘機や戦車の設計図も所有しているみたいだった。死の商人から、もう旧型のものなのでいらない、と、タダ同然で貰ったものらしい。

「私は彼とは違った意味で、死をビジネスにしているんだ。だからこそ思うんだ、私の意志は、この世界を覆う金と資本が巡っていく構造よりも、強いかってな」

 どうやら、核や原子力プラントの設計図も混ざっているみたいだった。緻密に描かれたそれは、市場流通している図鑑の絵ではなく、国によっては、喉から手が出る程、欲しがりそうなものに見えた。

「ふふっ、貨幣は信仰みたいなんだ。人間が発明した狂信なんだ。でも、それはとても根強くて、根源的な意味で否定する事が難しいんだ。私が愛して止まない、死や無が絶対的なものであるようにな」

 そして、ふと、デス・ウィングは、眼の前にいる人物が、この店に来たであろう目的を思い出したみたいだった。

「処で何か買っていかないか? 私の『商品』を……。消費させない自信はあるんだけどな…………」

 店に来た人物の方も、此処に来た用事を思い出し、店の中を物色する事に決めた。


 きっと、これが彼女なりのビジネス・トークなのだろう……。


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