#003 水色の墓標 1
軍隊生活は長かったが、挫折した。
そのコンプレックスが、ゴードロックという男を突き動かしていた。
上官の命令に従って、突撃隊に参加した。
仲間を守り、戦争で沢山の敵兵を殺した。
しかし、途中で、戦争が終わり、自分が軍人であるという事の行き場が無くなってしまった。その戦争は敗戦に近いものだった。
グダグダな人生を送っていた時だった、メビウスに出会って、彼女の勅命の下に、特別任務を行う栄光の(・オブ・)手という存在を教えられたのは。
ハンド・オブ・グローリーのメンバーは、それぞれ、何かしらの人生の挫折や喪失を持っているに違いない、彼は漠然とそんな確信をしていた。他のメンバーと、深く話し込んだ事は無いが。
かつて、軍人をやっていた時よりも充実している。
今や忠誠を尽くすべき相手はメビウス・リングなのだが、あの球体関節人形は、決して規律立った命令を行わない。彼は規律が欲しかった、軍隊における美しい全体主義の中にずっと溶け込んでいたかった。規律を失ってからの彼は、放蕩に耽っていた。ギャンブルや女漁り、酒浸りになった。
泥沼の生活から引き出してくれたのが、メビウスだった。
彼女の為になら、死ねると思う。
……お前の可能性に、価値を感じる。
そう告げられた時、ゴードロックは無情の喜びを感じていた。
†
「まさか、俺が逃げる事になるとはな」
ベレトは、よろめきながら、階段を下りていく。
敵二人に追いつかれるのは、時間の問題だろう。
敵の戦力を見誤った。自分の慢心が招いたのが悪いのだ。
次こそは、念入りに警戒して、しっかりと殺さなければならない……。
「おい、お前、何でそんな処にいるんだよ……」
彼の顔は、蒼白になる。
黒いシャギーの髪型の女が、階段の下に立っていた。
ベレトは、思わず、ナイフを振り翳す。
彼は腕が動かせなくなる。
「…………? 何でだよ…………?」
すぐに、彼は、今、起こっている事態に気付いたみたいだった。
「ああ、畜生。そこをどけよ。ふざけやがって」
女は唇を震わせながら、ベレトを凝視していた。
「……私、その……貴方を倒しに来ました。……その…………」
……このままだと、全身を、固められるな。
ベレトは、一瞬にして、決断する。
彼は左腕で、腰に差したナイフを取り出すと。
一瞬にして、自らの右腕を切り落とす。
女は、それを見て、酷く驚いたみたいだった。
少しの間、宙に腕が静止していたが、すぐにそれが落下する。
ベレトは左手のナイフを放り出して、自らの右手をつかむと、切断箇所へと接合する。そして、元来た場所へと引き返していく。
女は狼狽しているみたいだった。それが彼にとっての好機だった。
おそらく、彼女から追撃される事は無いだろう。
元来た部屋まで戻る。
窓を開く。
そこは絶壁になっており、海が広がっていた。彼は身を乗り出す。空中を歩く。……。
†
花鬱とゴードロックが扉を蹴破って、中に入った後、カナリーと鉢合わせになって、三人とも驚愕していた。
「おい、お前、奴を見かけなかったか?」
「……いいえ……、お二人の来た場所に逃げたものだと…………」
ゴードロックは、部屋の中を漁っていた。隠れられそうな棚などを開いていく。
花鬱はふと、窓枠を見ていた。
「何かしら? あの血の痕……」
窓に、少しだけ血がこびり付いていた。
ベレトは、空気を固めて、空中を歩く事が出来る。
ゴードロックは、勢いよく窓を開く。
「畜生っ! 外は海だ。きっと、あの海の中へと逃げ込んだんだっ!」
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