表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オーダー -封印の鳥篭-  作者: 朧塚
PR
10/24

#002 ベレトの塔 3

 巨大な鉄のような甲殻を持つ、カマキリの化け物の首を落とす。しばらく動いて、二つの鎌を振るっていたが、それに銃弾を撃ち込んでいく。昆虫の怪物は腹を見せる、更に、そこに銃弾が撃ち込まれていく。……。

「どうにか、倒せたな」

 ゴードロックと花鬱の二人は、互いの健闘をたたえ合う。

 怪物達をようやく、退ける事が出来た。

 塔の中は迷宮になっていて、複雑な構造をしていた。

 洞窟のような場所もあれば、城塞の内部のような場所もあった。地底湖も通り抜けた。カナリーと、ミキシングとは離れ離れになってしまった。

「さて、どうする? 花鬱よぉ」

「そうねぇ。このまま進んでもジリ貧だわねえ」

 ゴードロックは少しだけ焦っていた。

 弾切れが近付いている。後に残っている武器は、銃剣だけだ。それで直接、敵を突き殺すしかない。

 二人はそれなりに戦闘経験を積んでいた。

 なので、持久戦にも慣れていた。

だが、先程のような、大きな怪物がまだ何体も残っていれば、それを倒すだけの余力は、もう無いかもしれない。

「一度、撤退するか?」

「仲間達を残してきたからねぇ。拾っていかないと」

 これまで通ってきた道は覚えている。

「すまんな。俺の『リトル・プリンス』は拳銃や機関銃、弾丸を縮小して、ポケットの中に大量に納めていく能力だ、お前の無限に刀が出てくる『邪魅曼荼羅』とは違う……」

「いえ、あたしも……、体力の消耗が、そのまま集中力の消耗に近付いているわ……。身体の方が疲弊してしまえば、刀を上手く操れない……」

 どうやら、地上六階まである部屋はフェイクで、地下深くに道がある。そう二人は判断した。地下奥深くを、敵は住み家にしている。

「なあ、花鬱、こんな場所を見つけたんだが」

 大柄の男は、地面を蹴る。

 それは、地面に付けられた扉だった。ゴードロックはそれを銃剣で突く。すると、中から地下階段へと続く通路が見つかった。

「此処、行ってみるか?」

 花鬱は、浮遊している刀を、通路の奥へと進めていく。

 ゴードロックも、いつでも、戦闘態勢になれるように務めていた。

 階段の途中には、通路には、何も無かった。

 地下三階分、下った頃だろうか。階段は終わった。

 それは、少し大き目の部屋だった。

 二人は息を飲む。

 見せ付ける為だったのだろうか。

 鎖によって、その物体は天井から吊るされていた。

 胴に鎖が幾重にも巻き付き、口の部分からは、二つのフックが二本の牙のように伸びていた。

 眼球をえぐられ、頬の肉を削がれて、唇を切り取られ、両手両足の肉という肉を切り離されて、腹を裂かれて、胸肉を剥がされ、極限まで全身の肉や臓器を剥離されて、なお、彼は生きていた。

 ちろちろと、赤い舌が揺れている。

 剥き出しの心臓が鳴っていた。

 痛々しいくらいに、健康的な色をしていた。

「ミキシング……か、…………?」

 体格を考えると、そうだろう。

 陰惨な血溜まりと、肉塊になっている。

 二人と分断され、短時間のうちに、彼は変わり果てた姿に変えられていたのだ。

「おい、どうする……、まだ生きているぞ…………」

「助けられないわね。苦しみを長引かせるだけね」

 着物の女は、すぐに判断を下した。

 花鬱は、刀剣を浮遊させて、ミキシングの首を一刀両断に断ち切る。続いて、身体を支えている鎖も切断していく。彼の巨体は地面にごろり、と、落ちる。

 ぶらり、ぶらり、と、骸骨の顔となった男は、首と銅が離れても、未だ生きているみたいだった。口から伸びた鳥類の爪のような二つのフックが、ゆらりゆらりと揺れている。後頭部に孔を開けられて、フックを通されているのだ。

「何故、……死なないんだ……?」

 ゴードロックは、歯をかちかちと鳴らす。花鬱も心なしか震えていた。

 部屋の奥から、人影が近付いてくる。

「ようやく、他の客人も、俺の下に辿り着いたか。待ち疲れていたぞ」

 透き通るような長い金髪に、ウェディングドレスのようなデザインの、真っ白なドレスを靡かせて、魔人ベレトが姿を現す。彼の右手には、刃の長い血塗りの肉切り包丁が握られていた。

「今日は絶頂な気分だ。加工するのは、一時間と掛からなかった。それにしても、随分と、俺の家で、迷ったみたいだな」

 彼は皮肉めいた口調で言う。

「この男を処理するのに、たっぷりと、服を着替え、入浴する時間まで戴いた。お前達が悪いんだぞ? 彼を一人にしたからな」

 彼は挑発するような物言いだった。

 花鬱はキセルを口にくわえて、紫煙を吐く。

「それで、あたし達を挑発しているのかしらね? ねぇ、何故、彼は首だけになっても、まだ生きられるのかしらね?」

 ベレトは、不敵に笑う。

「俺の『マスター・ウィザード』は、命を固定する力へと変わりつつある。彼は死なない、不死なる存在へと固定されているのだからな」

「どうすれば、彼は死ぬのかしら?」

 花鬱は、彼を憎しみの籠もる瞳で睨み付けていた。

 ベレトは、天井から二つのフックによって吊り下げられた頭に向けて、肉切り包丁を伸ばす。包丁の刃先が触れる。すると、その物体は舌を動かすのを止めた。

「俺が命令するんだ。俺が死ねと命ずれば、そいつは死ぬ。俺が固定を止めなければ、そいつは不死なる者となる。俺の意のままなんだ」

 突然、彼は鼻歌を歌い出した。口ずさんでいるのは、グリーンスリーブスだ。ものかなしげな音色を、少し音を外しながら奏でている。部屋の中に不協和音は広がっていく。

 ゴードロックは、後ずさりを始めた。彼は怯え始める。

 対して、花鬱は、強くベレトを睨んでいた。

「あんたがやりたい事は分かるわ。どうせ、沢山、創りたいんでしょう?」

「そうだ。俺は執行者にして、祭儀の神官なんだ」

「『邪魅曼荼羅』。それがあたしの力の名前、覚えておけ」

 花鬱の背後から、何本もの刀が出現する。

 ベレトは哄笑していた。

 数秒後。

 二人は、互いに刃を交わしていた。

 花鬱の頬が切り裂かれる。彼女が飛ばした鮮血が、空中で静止していた。

 ベレトの周辺に、まるでゴム状の膜でもあるかのように、無数の刀が弾き飛ばされていく。

 彼は、肉切り包丁を、まるで指揮棒のように振るっていた。

「お前も永遠の命にしてやるよっ!」

 ベレトの刃が、花鬱の胸元へと向かっていった。

 瞬間。

 ベレトの手にした包丁が、弾け飛んでいく。

 そして。

 彼の全身は、機関銃の掃射を受ける事になった。

「この俺を忘れるんじゃないっ!」

 ゴードロックは、機関銃を手にして叫んでいた。

 ベレトは、大気を固定してクッションを創り出す事が出来るみたいだった。だが、それには耐久力が存在するみたいだった。彼は衝撃で壁に打ち付けられる。

「やったか?」

「いえ…………」

 花鬱は頬の血を拭う。

 こいつは、自分達を舐め過ぎだ。……そして、人間が時として発揮される怒りによる、能力の上昇を。

 ベレトは立ち上がる。

「痛ぇ…………。てめぇら、よくも…………」

 魔人は、口から血を吐き出す。

「防御したつもりだったのに……、多分、肋骨が折れてやがる……」

 彼は、明らかに、想定外といった顔をしていた。

「二対一だ。観念しな」

 ゴードロックは、今度は、ショットガンを取り出す。

 魔人は一瞬のうちに判断する。

 彼は背を向けて、二人から逃走し、部屋の奥へと向かっていく。

 花鬱とゴードロックの二人は、それぞれ、刃と銃弾によって、追撃を入れていく。





「デス・ウィング、いるかっ!?」


 ベレトは、必死の形相になりながら、自室を見渡す。

「途中、いくつか罠を仕掛けて、扉を厳重に閉めた。だから、時間は稼げる。なあ、もっと、この俺にアドバイスをくれっ! 俺はどうすれば、もっと力を使える? どうすれば、もっと自らの力を引き出せる?」

 彼はワインの瓶とゴブレットを掴むと、壁に叩き付けた。

「畜生……。何処に行きやがった?」

 脚を大きく負傷した。胸や肩、両腕も酷く痛い。

「まさか、この俺が追い詰められているのか? 奴らに?」

 彼は口元を押さえる。口の中が、ごろごろとしていた。

 それは、歯だった。

 歯が折れている。

 前歯の隣だ。

 姿鏡があった。自らの美しい姿は酷く憔悴していた。ドレスもボロボロだ。

 彼は歯を口の中へと押し戻し、固定する。

 そして、怒りの余り、姿鏡を殴り付けて叩き割る。

「この俺は、この世界を支配する魔術師になるんだ。こんな処で…………」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ