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婚約破棄された公爵令嬢は傭兵団長と二度目の恋に落ちる  作者: その辺の双剣使い
1─1 全てを失った夜

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 お父様が宰相の座を追われたのは、彼が学園を去ってからすぐのことだった。

 ローゼシア王国への遠征に対し、強硬に反対した事がその理由。

 国王代行となったレオナルド殿下を激昂させ、その場で解任を言い渡されてしまったらしい。


 王都にある別邸に顔を出した際、お父様は「私の目の黒いうちは、あの馬鹿王子の好き勝手になどさせん」なんて言って息巻いていたけど。そんな考えが仇となってしまわれたよう。


 父に代わって宰相になったのは、ドルク・ベネトール・ファンブルク子爵。エリーナ嬢の父君。

 子爵の立場で宰相になるのは異例のこと。

 仮の措置という話だったけど、爵位を格上げされ正式就任するのは時間の問題。王都では、そんな話で持ちきりだった。


 一家に降りかかる不幸の数々に、学園での私を嘲笑する声は更に酷いものとなっていく。

 フリックという心の支えを失った今の私に、その状況を耐え抜く気持など湧いてくるはずもなかった。

 結果、完全に心が折れた私は決断する。卒業を待たず、父と共にミザエル領に帰ってしまおうと。



 学園を去って二月ほど。私は、塞ぎ込んだ毎日を送っていた。

 学友たちはもう卒業を迎え、其々の道を歩み始めている頃。

 そんな折、我が家にやってきたのは御者を務めるロビンだった。


 ロビンは、私の事をよく気にかけてくれていた。

 ある日、彼は「少しは体を動かした方が良いです。お嬢様」と言って、屋敷の花壇を眺めながらボーッとしていた私に剣を投げ渡す。

 それ以来、私は彼から剣を教わるようになった。


 一心不乱に体を動かしていると、その時だけは嫌なことを全て忘れられる。

 何処で習ったのか、ロビンの腕前は素人目に見ても一流だった。

 それらの理由もあってか、彼の指導を受け私の剣技はめきめきと上達していった。


 本来ならば反対されるようなこと。でもお父様は、むしろ喜んでくれているようだった。

 それだけ私が、生き生きとしているように見えたのかもしれない。


「あと、お嬢様に必要なのは、実戦経験だけです。こんな短期間でここまで上達するとは、正直思ってもみませんでした」


 一月もすると、ロビンはそう言って私を褒めてくれた。

 実戦経験なんて積む機会があっては困るけれど。体を鍛えたせいか、少なくとも心身はかなり健全さを取り戻していた。


 そんな折、我が家にとって最悪の事態が訪れる。

 国王陛下が崩御なされた、との知らせを受けたのは先日の話。

 葬儀に参列するため、早朝に領地を出発する予定だった。



 急に外の様子が騒がしくなる。

 激しい馬蹄の音が周囲から響いてきた。

 その音からして、何者かが馬車の周りを取り囲んでいるようだった。


「おとなしく止まれ!」


 前方から聞こえてくる男の叫び声。

 それと同時に、ヒュルンと何かを空に打ち上げる音が響く。


「目的地まであと少しです! このまま突っ走りますよ、お嬢様!」


 御者台のロビンは、私に対しそう叫んだ。

 馬車の速度が更に上がったのを感じる。

 激しい揺れに、私は座席のシートを掴み必死で堪えた。


 馬車が大きく跳ね上がる。

 何かを踏んでしまったよう。

 片側が傾いたかと思うと、地面を引きずる音と共に馬車はしばらくして停止した。


「おとなしく投降しろ! お前は、アリーシア嬢の確保に回れ!」


 そう声がした途端、客室の扉が勢いよく開かれる。


「アリーシア・ミザエル・ラヴィーヌ! 国王陛下暗殺の疑いで、お前を拘束する!」


 扉を開けた軍服姿の兵士が、私に向かってそう言い放つ。

 ずっと領地に引きこもっていたのに、どうやって陛下を暗殺できるというのか。

 当然そんな話、全く見に覚えのない事。


 男の手が延び乱暴に腕を取る。

 引きずり出される瞬間、私は咄嗟に剣の柄を掴んだ。


「きゃっ!」


 地面に投げ出され、小さく悲鳴を上げてしまう。

 周囲は、月明かりだけが照らす薄暗い森の中。

 馬車は街道から外れ、片側の車輪がない状態で傾いたまま止まっていた。


「お嬢様!」


 そう叫ぶ声がして、目の前の兵士は後ろを振り返る。


「ぐわぁっ!」


 叫び声と共に、兵士は仰向けの状態で私の足元に倒れ込んだ。


「ひいっ!」


 私は、再び小さく悲鳴を上げた。


 倒れた込んできた兵士は、目を見開いたままビクリとも動かない。

 胸には、袈裟懸けに斬られた跡が。

 見上げると、そこには剣を振り下ろした状態で立つロビンの姿があった。

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