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婚約破棄された公爵令嬢は傭兵団長と二度目の恋に落ちる  作者: その辺の双剣使い
1─1 全てを失った夜

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2



 一人バルコニーに出た私は、その場で泣き崩れた。

 このまま手すりを乗り越え、飛び降りてしまいたい気分。

 でも、そんな勇気もなく泣き続けていると、扉の開く音と共に会場のざわめきが耳に入る。同時に、後ろから私の名を呼ぶ声がした。


「アリーシア嬢……」


 聞いたことのない男性の声。

 扉の閉まる音がしたあと、だんだんと近づいてくる人の気配。


 誰かは知らないけど、そんな事どうだっていい。

 どんな言葉をかけられたって、今の私にはこれっぽっちも慰めになんてならない。


「大丈夫ですか? アリーシア嬢……」


 その声と同時に、何かが肩にかかる感触。

 私は、すぐにそれが男性の上着だと気づいた。


「こんな所にいては、風邪をひかれます。俺が別室までお連れいたしましょう」


 確かに、こんな所に居たら余計に惨め。

 私は、その人物の優しさに甘え、取りあえずここから離れることにした。


 顔を上げると、心配そうに私を見つめる見覚えのある男性。

 確か彼の名は、フリック・ヴァニアン。

 黒髪に青い瞳。商家の出身とは思えない、高貴な顔立ちの男子生徒。


 別に、浮わついた気持ちなんてこれっぽっちも無い。

 彼は、あまりの美丈夫さに、多くの女子生徒から支持を集めている。

 そのせいで自然と私も、彼のことを知るに至っただけの話。


 彼とは一度も話したことすらない。

 それなのに、一体どういうつもりで私に声をかけたのかしら。


 釈然としないものの、さっさとこの空間から逃れたい気持ちなのも確か。

 私は、彼に手を引かれるまま再び広間の方に出た。


 会場中の視線が刺さる。

 エリーナ嬢の勝ち誇ったような顔。

 私は、俯きながら彼に手を引かれ、パーティー会場を後にした。



 休憩室として用意された、ゲストルームにて。

 ソファーに座らされたところで、隣に腰かけた彼の手が私の肩に優しく触れる。


「アリーシア嬢……俺は、ずっと君の事だけを見ていた」


 突然そんなことを言われ、私は混乱する。


「俺は、君の事が好きだ……こんな時に告白するなんて、卑怯だということは分かっている。でも、貴女の様子を見て、どうしても気持ちを伝えずには居られなくなってしまったんだ……」


 いきなりそんな事を言われ、少し怖い気もしたけど。傷ついた今の私にとってその言葉は、大きな救いでもあった。


 驚きのあまり、涙も拭かずじっと彼を見つめてしまう。

 そんな私に、彼も優しい目をむけながら言葉を続ける。


「美しいピンクベージュの髪」


 彼の指が、私の髪に触れる。


「それに、緑色に澄んだ綺麗な瞳」


 そう言って真っ直ぐに私を見つめる彼。


「普段は毅然としているのに、時おり見せる可愛らしい表情。そのどれもが俺の心をざわつかせる……」


 涙は止まり、顔がどんどん熱くなっていくのを感じる。


「君に涙なんて似合わない。君が悲しんでいるのを見ると、俺まで苦しくなってしまう……」


 歯の浮くような甘い言葉を並べられ、私の心は次第に絆されていく。


「身分違いなのは分かっているつもり……だから、付き合って欲しいとまでは言わない。でも、こんな俺だって、君の支えになる事くらいはできるはず……」


 最後にそう言葉をかけられ、今まで我慢してきた感情が一気に爆発する。

 何も考えられなくなってしまった私は、そのまま彼の胸に顔を埋めた。



 身分の差も気にせず、すぐに他の男に乗り換える尻軽女。

 彼と親しくするようになってから、影で私に対して囁かれるようになった言葉。

 それを広めているのが、レオナルド殿下だという事も知っている。


 身分の低い貴族や商家の娘から、絶大な人気を誇る彼と付き合い始めた。それだけで、周囲の悪感情を集めるには十分すぎる材料だった。

 だけどその時の私は、どんな悪評を広められようとまるで気にしていなかった。


 身分の差なんて、そんなのどうでもいいこと。

 例え周囲から反対されようとも構わない。全てを投げうってでも、これから一生彼と共に歩んでいく。

 そんな風に思うくらい、いつの間にか私は彼の虜になってしまっていた。

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