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一人バルコニーに出た私は、その場で泣き崩れた。
このまま手すりを乗り越え、飛び降りてしまいたい気分。
でも、そんな勇気もなく泣き続けていると、扉の開く音と共に会場のざわめきが耳に入る。同時に、後ろから私の名を呼ぶ声がした。
「アリーシア嬢……」
聞いたことのない男性の声。
扉の閉まる音がしたあと、だんだんと近づいてくる人の気配。
誰かは知らないけど、そんな事どうだっていい。
どんな言葉をかけられたって、今の私にはこれっぽっちも慰めになんてならない。
「大丈夫ですか? アリーシア嬢……」
その声と同時に、何かが肩にかかる感触。
私は、すぐにそれが男性の上着だと気づいた。
「こんな所にいては、風邪をひかれます。俺が別室までお連れいたしましょう」
確かに、こんな所に居たら余計に惨め。
私は、その人物の優しさに甘え、取りあえずここから離れることにした。
顔を上げると、心配そうに私を見つめる見覚えのある男性。
確か彼の名は、フリック・ヴァニアン。
黒髪に青い瞳。商家の出身とは思えない、高貴な顔立ちの男子生徒。
別に、浮わついた気持ちなんてこれっぽっちも無い。
彼は、あまりの美丈夫さに、多くの女子生徒から支持を集めている。
そのせいで自然と私も、彼のことを知るに至っただけの話。
彼とは一度も話したことすらない。
それなのに、一体どういうつもりで私に声をかけたのかしら。
釈然としないものの、さっさとこの空間から逃れたい気持ちなのも確か。
私は、彼に手を引かれるまま再び広間の方に出た。
会場中の視線が刺さる。
エリーナ嬢の勝ち誇ったような顔。
私は、俯きながら彼に手を引かれ、パーティー会場を後にした。
休憩室として用意された、ゲストルームにて。
ソファーに座らされたところで、隣に腰かけた彼の手が私の肩に優しく触れる。
「アリーシア嬢……俺は、ずっと君の事だけを見ていた」
突然そんなことを言われ、私は混乱する。
「俺は、君の事が好きだ……こんな時に告白するなんて、卑怯だということは分かっている。でも、貴女の様子を見て、どうしても気持ちを伝えずには居られなくなってしまったんだ……」
いきなりそんな事を言われ、少し怖い気もしたけど。傷ついた今の私にとってその言葉は、大きな救いでもあった。
驚きのあまり、涙も拭かずじっと彼を見つめてしまう。
そんな私に、彼も優しい目をむけながら言葉を続ける。
「美しいピンクベージュの髪」
彼の指が、私の髪に触れる。
「それに、緑色に澄んだ綺麗な瞳」
そう言って真っ直ぐに私を見つめる彼。
「普段は毅然としているのに、時おり見せる可愛らしい表情。そのどれもが俺の心をざわつかせる……」
涙は止まり、顔がどんどん熱くなっていくのを感じる。
「君に涙なんて似合わない。君が悲しんでいるのを見ると、俺まで苦しくなってしまう……」
歯の浮くような甘い言葉を並べられ、私の心は次第に絆されていく。
「身分違いなのは分かっているつもり……だから、付き合って欲しいとまでは言わない。でも、こんな俺だって、君の支えになる事くらいはできるはず……」
最後にそう言葉をかけられ、今まで我慢してきた感情が一気に爆発する。
何も考えられなくなってしまった私は、そのまま彼の胸に顔を埋めた。
身分の差も気にせず、すぐに他の男に乗り換える尻軽女。
彼と親しくするようになってから、影で私に対して囁かれるようになった言葉。
それを広めているのが、レオナルド殿下だという事も知っている。
身分の低い貴族や商家の娘から、絶大な人気を誇る彼と付き合い始めた。それだけで、周囲の悪感情を集めるには十分すぎる材料だった。
だけどその時の私は、どんな悪評を広められようとまるで気にしていなかった。
身分の差なんて、そんなのどうでもいいこと。
例え周囲から反対されようとも構わない。全てを投げうってでも、これから一生彼と共に歩んでいく。
そんな風に思うくらい、いつの間にか私は彼の虜になってしまっていた。




