3 鬼ごっことブローチ
そして、14歳の3月
今年、ホルツシュタブ学園に入学する。
貴族は14歳までは家庭教師や親に勉強を教わって、15歳になる年からホルツシュタブ学園に行く。
ホルツシュタブ学園では3年間、これまで学んだことの復習やそのことについて深く学ぶ。
ホルツシュタブ学園は身分は関係なく、楽しく学ぼうって感じの場所だ。あと、そこでたくさん知り合いを作っておくといいらしい。
ホルツシュタブ学園で三年間学んだあとはバウムブレター学校に3年間通う。そこでは学生版の社交界みたいな感じで身分の差、ルールやマナーが本当の社交界通りに適応される。
それを破ってしまっても反省してください、で終わるので練習するために通う人が多い。バウムブレター学校では経済や経営、常識、他国の作法を中心に学ぶ。バウムブレター学校では文学や数術などの勉強はしないのでホルツシュタブ学園で学んだことを忘れないようにしなければならない。
私はそれに追加で王子妃教育もあるのだが、16歳かららしい。基礎を学んで、学園に慣れた頃にやった方がいいという考えだそうだ。
私とリアム様はこの数年で順調に仲良くなっている気がする。いいことなのか悪いことなのか…
相変わらずからかわれてはいるけれど。
今朝、学校の制服が届いた。
「わあ、かわいいわ!!」
「ええ、きっとお嬢様に似合いますよ」
マリーも相変わらず元気だ。
制服の紺のスカートと上着はところどころ銀の刺繡が入っていてかわいいけど上品だ。
そして、入学祝としてリアム様から魔法石のブローチをもらった。
淡い金色のふちと留め具、真ん中には緑のエメラルドがはめ込まれていた。
どこかリアム様を思い出すのは気のせいだと思いたい。
あ、婚約者には自分の色のものを贈る決まりがあったりするんだろうか。あとで確認しておこう。
すごく高そうで、怖くて付ける気になれなかったので箱にしまっておいた。
裏庭でラベンダーに水をあげていると、リアム様がやってきた。彼はあるときから先ぶれを出さずにふらっとやってくることも多かった。だからあまり驚かない。
「あ、リアム様。こんにちは」
リアム様は片手をあげてにっこりと笑った。
「やあ、リリー。元気だった?」
「ええ、とっても。走り回りたいくらい元気です」
「鬼ごっこでもする?」
「あら、私はいいわよ。マリー、これ持ってて。」
「かしこまりました」
私はマリーにじょうろを預けると、丘のほうへ走り出した。
「私が逃げますね」
すぐに、リアム様も追ってくる。
「楽しそうだね、リリー」
「ええ、鬼ごっこなんて数年ぶりですからね」
私たちはまぶしい若草色の丘を下って草原へと出た。
「あ、リリー。リンゴの木まで捕まらずに行
けたらひとつお願いを聞いてあげるよ。そのかわり、捕まったら、僕のお願いを聞いてくれるかな?」
私はちらっと前を見る。リンゴの木まであまり遠くない。リアム様もそれなりに近いが追いつく気がしない。
「のりました!」
「ふふ、ありがとう。あ、リリー」
「なんですか?」
するとリアム様はとんでもない爆弾を投げてきた。
「贈ったブローチはどうだった?」
私は動揺して躓いて転んでしまった。慌てて立ち上がろうとするが、その時にはリアム様に腕をつかまれていた。そして、後ろから抱きしめるように捕まえられる。
「近いです、リアム様」
彼はそんな私の言葉を無視した。
「僕の勝ちだね、リリー」
「ブローチの話を出すなんて卑怯です」
彼はふっと笑った。目の奥に楽しそうな感情が浮かんでいる。
「うん?日常会話でしょう?」
「そう…かもしれません…けど!タイミング
がおかしいです!」
「でも、勝ちは勝ちだよ?」
腹黒王子…もう!
「………それで、お願いとはなんですか」
「二人きりの時でいいから敬語を外してよ。さっき一回だけため口で、すごくうれしかったんだ」
「た、ため口……わ、わかったわ。仕方ないもんね、罰ゲームだもんね」
「ふふ、ありがとう、リリー」
私の錯覚かもしれないけど、このときの彼の笑顔は心からのものだったと思う。
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