第六十八話「一筋の光」
こうして――サイボーグテツを指揮官とした、ザラス団による大規模テロ計画は辛うじて防がれたのである。
しかしそんな中、ザラス団もオクマーマも知らない出来事が一つだけ起こっていた。
それは――サイボーグテツが、マグマの中へ溶け去ったあの日。
たまたまその付近を天体観測をしていた人々が、火口からまるで流星のような『一筋の光』が宙へ飛び出したのを目撃したという。その光が向かった先は、相変わらず放置されたままであった『念波ロボット研究所の方角』であったのだ――。
それから一息ついた、ある日。
財産を売り払って、がらんどうになったノリオの編集室。そこには、再びオクマーマの姿があった。
「ノリオちゃん、ごめんなちゃい……。オクマーマが無理を言って、本心通信の財産がほとんどなくなっちゃいまちた……」
「なにを言ってるんだい、オクマちゃん! 僕は、オクマちゃんが無事に戻ってきてくれただけでも嬉しいんだよ! な~に。命さえあれば、これからまた財産は積み上げていけばいいのさっ。オクマちゃんは気にせず、今まで通りに元気にいてくれよ~っ!」
多少引きつった笑顔ではあるが、オクマーマの背中をポンポンと叩くノリオであった。
「ノリオちゃん……。ありがとうっちゅ」
「斉田博士も、これでやっと政府の過剰な隔離保護からは解放されたようだし。よかったよかった! あ、そうそう。それよりオクマちゃん! 早速だけど……」
「なんっちゅか~?」
「最近この近辺に、大きなクマが出没したという噂があるんだ。動物園から逃げ出したという情報もないし、この近辺にはそもそもクマが住むような自然環境もないのに……。その噂が本当なのか、真相を確かめたいと思っているんだ」
「街中に、野生のクマちゃんっちゅか~っ⁉」
「一応、情報ではそうらしいんだが……。オクマちゃんみたいなかわいいクマちゃんじゃなくて、本物のヒグマのような大きいクマが。ただ、妙な噂でね。自然のヒグマともちょっと違うというか、まるで木彫りのヒグマがそのまま大きくなったような姿だというんだ」
「木彫りのようなクマちゃん……っちゅか?」
「まあ、噂だからね。こんな街中で、いきなり大きなクマなんか目撃した人はビックリするだろうから……。単に動転して、そう見えちゃっただけかもしれないし。それで、今ネットのリアルタイム情報によると……この辺りにいるらしい、って情報が出ていて」
ノリオからこの話を聞き――思うことがあったオクマーマは、考えるより先に体がすぐに反応してしまうのであった。
「オクマーマが、確認に行ってきまちゅ~っ!」
「あっ! オ、オクマちゃんっ! ……あ~あ、もう行っちゃった。フフフッ、オクマちゃんは相変わらずだな~。僕は、いつものオクマちゃんが戻ってきてくれて……嬉しいよ」
そして、オクマーマが『謎の大きなクマ』がいるという一帯に到着すると――なにやら、人が逃げまどっているところに遭遇。
「ヒグマだ~っ! 大きなヒグマが出たぞ~っ! さっき、その辺の細道に逃げたっぽいぞっ、気をつけろ~っ!」
「あっ! 多分、この辺っちゅ!」
逃げ惑う人々を掻き分けて、オクマーマが細道の中に入っていくと……そこには確かに、言葉を発する『木彫りのような見た目の大きいクマ』がいたのである!
「ちっ、違うんだっ! 俺はこんな木彫りのクマのような見た目をしているが、狂暴な野生のクマではない! みんなっ、信じてくれっ!」
その木彫りのようなクマは『自分は人に危害を加える存在ではない』と必死にアピールしているが――見た目の荒々しさから、誰にも聞いてもらえず人々に逃げられてしまっていたようである。
(ああっ、あれはっ⁉ 本当に、大きな木彫りクマちゃんみたいちゅっ! 手にも、木彫りのような鮭をこん棒みたいに持ってまちゅ。そ、それに……。なんだか、キミナちゃんの家に置いてあった木彫りのクマと、かなり見た目が似てるっちゅ!)
早速、その木彫りのような大きいクマの目の前に進み出るオクマーマ。
「まっ、待ってくだちゃい~っ!」
目の前に突然飛び出してきたオクマーマの姿を見て、動きが止まる木彫りのような大グマ。
「あっ⁉ おっ、お前は……」
その木彫りクマは――自分でもわからないが、なぜかオクマーマの姿を初めて見たとは思えないような、デジャヴの感覚に襲われるのであった――。
(な、なんだか……。このぬいぐるみのような……青いリボンの付いたクマの姿は……ど、どこかで……)
一方、オクマーマの方も――その木彫りクマが、単にキミナの家にあった木彫りと似ているというだけでなく――なぜかはわからないが、見た目に反する温かい感覚を受けていたのである。
(この、木彫りのような大きいクマちゃんは……。今、初めて会ったはずなのに……。なんだか、他人のような感じがしないっちゅ……)
お互い、自分ではわからなくとも――なぜか他人のようには思えず、しばらく無言のまま見つめ合ってしまうのであった。
「…………」
「…………」




