第六十九話「正義の魂は死なず」
しばらく無言で見つめ合う、大きなクマと小さなクマ。
そして――。
「おっ、お前もクマのような姿をしているが……この俺の姿を見て、怖くないのか? それに、その腕章は……もしかして、記者なのか?」
「そうっちゅ。本心通信の特別記者・オクマーマと言いまちゅ。木彫りのようなクマちゃんが、街中で目撃されたという情報があって……ここに来たっちゅ」
「そうか……。オクマーマ、か。いい名前だ。逃げずに、ちゃんと俺の話を聞いてくれたのはお前だけだ。ありがとう」
「木彫りクマちゃんは、一体どこから来たっちゅか?」
「それが……。俺は、自分が生き物なのかロボットなのか、なんなのかすらわからないんだ。ちょっと前に突然目覚めたらこの姿で、それ以前の記憶もない……。でも、なぜか言葉や社会知識はわかるのだ。一体俺は、何者なのか」
(ああっ⁉ この木彫りクマちゃんは、オクマーマが生まれた時と似てまちゅっ!)
「最初、俺以外は誰もいない謎の廃墟にいて……。外に出てみたが、その寂れた建物の入り口には鍵がかかっていたんだ。そこには、なんとかロボット研究所とか書かれていたようだったが」
「…………! そっ、それでっ、木彫りクマちゃんには名前があるっちゅか⁉」
「俺の名前? いいや、俺には自分の名前もわからない。この鮭も、目覚めた時は最初口にくわえた状態で……俺は一体なんなのか、サッパリわからない状態だ。しかしなぜか、体の中で謎の声が響くんだ。『俺は絶対悪には屈しない、正義を貫くんだ!』と……」
手に持った鮭を見つめながら、オクマーマに語る謎の木彫りグマ。
「俺の体もこの鮭も、見た目は木彫りのようで実際かなり硬いが……関節部分はどういうわけか自在に動いて、口にくわえていたこの鮭も簡単に取り外せたのだ。でもこの鮭も自分の体の一部の気がしてならず、それから普段は腰に引っ掛けて携帯しているんだ」
手に持っていた鮭を、腰の毛が逆立った部分に引っ掛ける木彫りグマ。
「と、とにかくっ! シンパチおじいちゃんに、一度見てもらうっちゅ!」
オクマーマは――この木彫りグマも、自分と同じ念波ロボ……あの研究所にあった『もう一体の大きなノッペラボウ人形に、魂が宿ったのだ』と思い、早速斉田博士のもとへ連れて行くのであった。
そして事情を聞き、木彫りクマを検査した斉田博士は驚愕するのであった。
「ぬおおっ! こっ、これはっ……。やはりっ!」
「やっぱり、オクマーマと同じ念波ロボっちゅかっ⁉」
「そうじゃ、間違いない。あのもう一体残してあった『DNAが一致しないと宿れない素体人形』に、そのDANを持つ、この世にただ一つの魂が宿ったということじゃ!」
「誰の魂が宿っているかは、調べられるっちゅか⁉」
「残念ながら、ワシの技術では誰の魂が宿っているかは調査出来ないのじゃ。しかも魂が宿っている状態だと、もうDNAも調べられない仕様ですじゃ。じゃから個体の特定は出来ないのじゃが、彼が念波ロボなのは間違いないじゃて」
「俺は……。このオクマーマと同じ、誰かの魂が宿った念波ロボなのか!」
「研究所が解散した時、所長はそのDANの持ち主はまだ生きていると言っておったじゃ。じゃからその後にその者が死亡して、その魂が宿ったことには間違いないじゃて……」
「シンパチおじいちゃん! オクマーマは自分がオクマーマだという名前を知っていたのに、どうして木彫りクマちゃんは自分の名前も記憶にないんでちょうか?」
「その魂の者が、生前この木彫りには特に名前を付けていなかったからじゃろうな」
「そうっちゅか。でもオクマーマは、木彫りクマちゃんが他人とは思えないっちゅ。それに、キミナちゃんの家に置いてあった木彫りとそっくりっちゅ。もしかして、木彫りクマちゃんに宿っている魂は……所長ちゃん……パパの魂なんじゃないっちゅか⁉」
「俺の中に宿っている魂が……その大和テツという、オクマーマに宿っているキミナという子の、父親だった人物のものだというのか⁉ たっ、確かに……。俺も、このオクマーマは、なんだか他人とは思えないんだ。まるで、自分の子供のような感覚というか……」
「もちろん、その可能性はかなりあるとワシも思っておりますじゃ。ただしこの木彫りは、お手頃価格で全国各地のみやげ物屋に出回っているものらしいんじゃ。持っている人も、おそらく数えきれないほど存在するじゃて。じゃから、百パーセント所長の魂とは断言出来ないのじゃが……」
「でも、それに加えて正義感の高い魂であることも間違いないっちゅ。だから、オクマーマは……この木彫りクマちゃんの中には、パパの魂が宿っていると思うことにしたいっちゅ!」
「そうじゃの。ワシも、所長の魂が宿っていると個人的には信じたいですじゃ。あの賢い所長のことじゃから、自分が危険人物としてマークされていた可能性も見越して……自分のDNAを入れた素体を作っておき、万が一自分が死んでも念波ロボとなり戦い続けようと備えたのかもしれぬ」
「もし俺が、その大和テツの魂が宿った念波ロボだったとしたら……。もちろん俺は、大和テツがやり残した使命を果たすつもりだ! いや、例え魂が誰のものだとしても……俺は悪には屈さず、正義を貫くぞ!」




