第六十六話「人間のように」
その頃――。
斉田博士は隔離施設の中庭から、オクマーマのことを思って星空を見上げていた。
「おそらく、鉱石が破壊されたであろう時間から考えて……。オクマーマちゃんの体に残った念波エネルギーも、そろそろ尽きてしまった頃かもしれぬのう……。たった一日だけしか会えなかった、ワシのかわいい孫よ。しかし、ワシはっ! 自らを犠牲にしてでも人々を救った、オクマーマちゃんを誇りに思っておるじゃよっ! ウウッ……」
しかしその視界に、見覚えのあるかわいいクマが飛んで来るではないか!
「ワ、ワシもモウロクしたもんじゃ……。死んだオクマーマちゃんの幻影が、まるで本物の実態のように見えてしまうじゃわい。……んっ⁉ あっ、あれはっ!」
「シンパチおじいちゃ~んっ! オクマーマっちゅ~っ!」
「オ、オクマーマちゃんっ! 生きていてくれたのかっ! と、とにかくっ、よ……良かったじゃ……」
思わず、その場で腰を抜かしてしまう斉田博士。その斉田博士の胸の中へ、親機を持ったまま飛び込むオクマーマ。
「シンパチおじいちゃんっ! オクマーマは、おじいちゃんから教えられた大和ミラクルスパークで鉱石を破壊しまちた。でも、それで……所長ちゃん……パパが……。ザラス団の指揮官は、拉致されて悪のサイボーグに改造された、パパ本人だったっちゅ……」
そこまでの経緯を、すぐさま斉田博士に話すオクマーマであった――。
「そ、そうじゃったのか……。大和所長っ! 悪の手先に改造されても必死に抵抗した本来のあなたは、最後まで立派な方でしたじゃ! ウウウッ……。しかしじゃっ。それでも、オクマーマちゃんがこうして助かったことは奇跡じゃ!」
「オクマーマのレーダーでは、この中に別の鉱石の反応がしてまちゅ。調べてみてくだちゃい」
早速、念波兵器の親機を慎重に調査する斉田博士。
「こっ、これはっ! 見た目は小型じゃが……念波と火山のエネルギーをダブルで使って大増幅した念波を、各子機へ配給する念波兵器の親機に違いないじゃ!」
「そうっちゅか! だから鉱石を持ったパパが、この親機の近くに監視も兼ねて出向いてたんでちゅね……」
「この親機だけあっても、殺人念波を放出する子機がなければもう無害じゃが……。安全のため、これも二度と使えないように解体しますじゃ!」
斉田博士によって解体される、念波兵器の親機――。
「おおっ! こっ、これはまさかっ⁉ 所長でも開発困難で研究途中だった、人工念波鉱石が中に入っておりましたじゃっ! どうしてこれが……」
実は、サイボーグテツが開発した実験用の『人工念波鉱石』が、親機の中に予備として仕組まれていたのである。それが偶然にも、オクマーマが死ぬ直前のギリギリなタイミングで突然発動を始めていたのだ!
しかし、サイボーグテツは本来のテツより頭脳が劣化した上に成長も完全に止まっていたはずである。普通に考えれば、テツが作れなかった人工念波鉱石をサイボーグテツに開発出来るはずがない。
ところがサイボーグテツは、改造されて頭がおかしくなったせいで――脳全体としては劣化したものの『人工鉱石開発に関する閃きの部分のみ、ピンポイントで本来のテツよりも極端に活性化してしまっていた』という皮肉なことが発生していたのだ!
そのような事情により、人工鉱石の開発だけは成功してしまっていたのである。
「計測したところじゃな……。この人工鉱石が念波を出し続ける期間は、おそらく八十年前後から百年前後はあるようじゃ」
「じゃあ……オクマーマはこの人工鉱石で、前の鉱石と同じような寿命で人間と同じくらいの年月を生きられそうっちゅかっ⁉」
「ただしじゃ。壊れた天然の念波鉱石の方じゃったら、最後まで一定の大出力を放出し続けたまま最後に突然ブツッと念波が途切れるタイプなのじゃが……。この鉱石は人工物だけに、最初の何十年かを過ぎると最大出力が年々緩やかに低下していくタイプなのじゃ」
「それだったら~。まるでロボットじゃなくて人間みたいで、逆に丁度いいっちゅ」
「やっぱり、オクマーマちゃんは所長の娘さんの魂が宿っていますじゃな。他人が年老いても自分さえ不老なら良いという考えにならないのは、さすがじゃ!」
オクマーマを両手で高々と抱え上げ、笑顔になる斉田博士であった。




