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あの約束
某日。
気が遠くなるほどの長い月日が流れた。
厚いガラス越しに、男は受話器を耳へ当てる。
向こう側で、大人びた手が同じように受話器を持ち上げた。
「お父さん」
男は静かに目を細める。
「進学、どうするか。……決めた」
短く頷く。
学校のこと。
友達のこと。
家のこと。
他愛もない話を、男はひとつも聞き漏らさないように耳を傾けた。
「ねえ、お父さん」
男は少しだけ身を乗り出す。
「あと一年だよね。約束、……覚えてる?」
一瞬だけ、男は困ったように笑った。
「覚えてるよ、凛」
受話器を持ち直す。
「お父さんのオムライス、約束したよね」
鈴のような声が、聞こえる。
約束は、もう破らない。
「ママを頼むね」
ガラスに映る自分の姿が、まだ遠くに感じる。
『面会時間です』
無機質な声が室内へ響く。
男は受話器を置いた。




