白鳥さん
崩れ落ちる身体。
「社長!」
「おい、氷室!」
駆け寄る警察チーム。
氷室は片手を上げ、制した。
だが、誰かに身体を抱き留められる。
(……ああ、いつも、済まない)
温もりだけが伝わる。
「大丈夫だ。倉持、連続――」
『支払いだ。』
ぽつり。
河童の声が響いた。
その瞬間。
何かが。
胸の奥から、溺れるように零れ落ちていく。
(……何だ)
頭の中が白くなる。
誰と話していた。
何をしようとしていた。
思い出せない。
「おい、倉持、切り裂き魔を――」
言葉が止まる。
見知らぬ腕が、絡みついている。
氷室は腕を、振り払った。
一歩。
距離を取る。
目の前には。
見知らぬ女が立っている。
「……何だ?」
インカムへ手を伸ばす。
「橋本、警戒を――」
『ユイの馬鹿野郎! ババアだよ!! 分かんないの!?』
女が足を止めた。
「氷室さん」
井上が、前へ出る。
「白鳥さんです」
「……白鳥さん?」
氷室は女を見つめる。
三十代くらいの女性。
初めて見る顔だった。
重要人物には、見えなかった。
「約束しましたよね。」
困惑する。
「……約束?」
彼女は少しだけ笑った。
でも、その瞳は潤んでいる。
「忘れたんですか」
氷室は申し訳なさそうに俯いた。
「……すまない。何か約束したなら、謝る」
短い沈黙。
彼女は小さく息を吐く。
そして。
「……許しませんから。」
そう言って。
そっと、氷室の手を握った。
初めて触れたはずなのに。
その温もりだけは。
どこか懐かしかった。




