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大型案件の決済種別は『一家心中』――死んでも止まらない派遣社員は、322歳の社長を許さない  作者: 葛石
第十章 怪異集結編

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日無牢の瞳


綾瀬へ喰らい付こうとした、その瞬間。


「――貧乏神、言えず死」


鸚鵡返しが、両手で自らの首を締め上げる。


最悪の相性だった。


「鸚鵡返し。もう、返せないんだろ」


言えない。


返せない。


喋れない。


その呪縛が、怪異を縛り付ける。


ギチギチと身体が軋む。


「ひっ……、えっ……」


綾瀬が小さく悲鳴を漏らした。


もう、姿を隠す余裕すらない。


『――ンッ!!!』


悲鳴にならない叫び。


だが。


『――俺の縄張りで、騒ぐな』


深海魚水槽が低く唸る。


次の瞬間。


巨大な水圧が腕となり。


何本も鸚鵡返しへ絡み付いた。


身体を締め上げる。


押し潰す。


それでも。


鸚鵡返しは、水の腕を引き千切りながら前へ進む。


出口へ。


ただ歩き続ける。


『これは……』


河童が目を見開く。


『赤子と思ったが、これほどか』


河童の口から、ボコボコと泡が漏れる。


「井上」


「はい」


倉持と井上が同時に飛び出した。


全身で、ぶつかる。


しかし。


二人まとめて吹き飛ばされた。


宙を舞う。


床へ叩き付けられる。


「ガハッ……!」


傷口が軋む。


「痛ぇんだよ……、クソが」


それでも。


倉持はすぐに立ち上がった。


再び、全身で体当たりを叩き込む。


右腕の傷が開く。


血が滲む。


それでも離さない。


「逃がさねえって、言ったの、覚えてるか?」


鸚鵡返しの身体が震える。


『――逃が……、さねえ……ぞ』


無理やり。


喉を震わせる。


倉持は犬のように、ニィと口角を吊り上げた。


「そうだ、それでいい」


鸚鵡返し。


言葉を失い。


水に締め上げられ。


刑事二人が全身でしがみ付く。


それでも。


止まらない。


だが。


巨躯。


陣内が、立ちはだかった。


「テメェ――警察を舐めるなよ」


『――テ、……メェ』


肉と肉が真正面からぶつかる、鈍い音。


押される。


だが。


押し返す。


ググ、グ。


陣内が歯を食いしばったまま、怪異を力強く押し戻す。


「社長」


「ああ」


氷室は静かに頷く。


「頼もしい」


一つ、大きく息を吸う。


日無牢の瞳で、鸚鵡返しを視抜く。




起源:███言葉████失わ███████

目的:███████人間█伝え███たい




「鸚鵡返し。お前は――寂しい、そうだろ」


鸚鵡返しが、はっと振り向く。


(考えろ――、コイツの行動はずっと、変わらない)


一歩、近寄る。


「お前は――、人間同士の会話が減ったから、生まれた、違うか?」


陣内が全身で押し込み、その身体を壁へ叩き付ける。


「だから、その『言葉』を、誰かに伝えたかった。」


『――ンッ! ンッ!』


水流の呪いが。


鸚鵡返しを逃がさない。


「人間の会話が好きだった。拒絶されると、許せなかった。……違うか」


『……。』


初めて。


否定が返ってこない。


「……貧乏神、言えず死を解いてやれ」


『はい』


鸚鵡返しの両手が、力なくぶら下がった。


――チョッ。


チョッ。


氷室は静かに続けた。


「本当は、人間の会話が、好きだ」


沈黙。


『――本当は、人間の会話が、好きだ』


翼が激しく羽ばたく。


バサッ。


バサバサッ。


断末魔のように。


そして。


安堵したように。


鸚鵡返しの身体から、閉じ込められていた感情が静かに溢れ出していく。


氷室は目を細めた。




鸚鵡返し(22日)余命:― 倫理:― 幸福:低

起源:人間の会話が急速に失われ始めた無念

食性:感情

嫌悪:無視

目的:会話を記録して人間に伝えてあげたい

縄張:野良




(ああ……、全部、視えた)


鸚鵡返しの目に視線を戻す。


「鸚鵡返し、感謝する。おかげで、私も、自分の能力が分かった」


『――私も、自分の能力が分かった』


鸚鵡返しが。


光を失った瞳へ吸い込まれていく。


静かに。


音もなく。


怪異の因果が、流れ込む。


『――またね』


『うん、また明日ね』


氷室はゆっくりと目を閉じる。


「……これが、日無牢の瞳か」


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