表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【閲覧注意】弊社の『大型案件受注』の決済種別が『一家心中』と『交通事故』だった。――余命と因果を改竄する派遣社員の私は、322歳の社長を許さない。  作者: 葛石
第一章 派遣社員編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

8/45

まな板の上のスワン


13時14分。


ワインを喉へ流し込む。


なりふり構っていられない。


アルコールという麻薬で、眼前の現実を塗り潰したかった。


「ユイ、最近どうなの?」


「……ぼちぼち、かな」


言えない。


親友にすら、その頭上にある破滅を告げることはできない。


「何か抱えてない? 聞くよ」


涼子の、純粋なまでの心配の眼差し。


(……あれ? 私、諦めてるのか?)


「どしたの?」


(逃げるな、私――ッ)


壊れた眼鏡を乱暴に剥ぎ取る。




三木 涼子(24)余命 2カ月




(……ふざけるな、前はもっと、見えた)


意識を、一点に尖らせる。


耳の奥で、歪んだ心音が跳ね跳んだ。


頭部へ一気に血流が逆流する。


視界の四隅から、じわじわと闇が侵食してくる。


肺はとっくに酸素を拒絶し、悲鳴を上げていた。


そんなもの、知るか。


(──視せろッ!!)


網膜が、その先の深淵を、無理やりこじ開けた。




三木 涼子(24)余命:57日 2時間39分21秒


死因:急性心筋梗塞

倫理:高

幸福:高

運命:改竄されている




改竄。


あの化け物の仕業だ。


直後。


頭蓋を内側からノコギリで引き裂かれるような、凶悪な激痛が走る。


「ッ……! 痛……、っ、グ……ッ」


視界が、白と黒に激しく明滅する。


「え、ユイ? ……大丈夫?」


(変えてやる、こんな理不尽。本当にいい奴なんだぞ、絶対に認めない)


痛みが引いていく。


心配そうに覗き込む親友の顔。


「……涼子、お願い。今から変なことを言う。でも、信じて」


「え? ……信じるよ。どうしたの?」


氷室の瞳に宿る、異常なまでの執念。


「今から私と病院に行って。理由は説明する」


「はい? 病院って、なんで──」


涼子の困惑を置き去りにし、スマートフォンで当日検査が可能な病院を叩き出す。


迷わず、発信ボタンを押した。


店員を呼ぶと紙幣を叩き付ける。


そして、すぐさまタクシーを捕まえた。




消毒液の、鼻を突く匂い。


白々しい蛍光灯が、無機質な待合室を照らす。


『三木さん。三木涼子さん、お入りください』


「何もなかったら、飲み直しね。ユイ持ちで」


涼子が、緊張を隠すように笑う。


氷室は、静かに頷いた。


密閉される防音扉。


(視ようと思えば、視える)


運命も、案外その程度かもしれない。


因果を先回りすれば、対処できるかもしれない。


(遠藤の事故。時刻と死因が分かっていたら? 高層ビルにでも連れて行ったら? 車に乗った真壁達はどうやって接触する? ……不可能だ)


氷室の導き出した仮説。


『事故が失敗する』


破滅が始まってから一人を救う。


それでは、遅すぎる。


スマートフォンを起動する。


指先に触れる、凍ったガラスの感触。


57日後。


画面上の案件は、空白。


(会社は関係ない? いや、白鳥の余命も案件とは関係なかった)


氷室の瞳から、温度が消える。


冷徹な検証式が、脳内に立ち上がる。


(……白鳥を見殺しにする)


白鳥が死亡する時に表示される品目。


それが真実。


カチャリ、とドアノブが跳ねる。


扉が開く。


戻ってきた涼子の顔は、硬い。


納得のいかない、拒絶の様子。


「簡易検査は、異常なし」


吐き出された声。


「なのに、精密検査をしろって言われた。念のため、って」


氷室の肺から、熱い息が漏れる。


「そう。よかった。……いつ?」


「三日後。……なんか、急に怖くなってきた」


氷室は、軋むパイプ椅子から立ち上がった。


「結果が出たら、すぐに教えて」


「……わかった」


無理に声を絞り出す。


「飲み直すか」


「よーし、飲む! ポジティブにいこう!」


涼子が、いつもの調子を取り戻そうと、拳を小さく握ってみせた。


「親友に命を救われて、私は幸せ者。そういうことでしょ?」


(違う。私は、まだ何も──)


叫び出しそうな胸の痛みを、強引にねじ伏せる。


氷室の口元が、わずかに歪んだ。


それは、笑みと呼ぶにはあまりにも痛々しい。


ただの、強がりだった。



第一章をお読みいただき、ありがとうございます。


『氷室は一切、止まることをしません』


本作は結末までノンストップで駆け抜けます。


ぜひ画面下の【ポイント】や【いいね】を押して、最後まで見届けていただけると嬉しいです。


皆様の熱量(応援)次第で、氷室が結末の更に先、いくつものストーリーを駆け抜けていく未来が決まります。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ