↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大型案件の決済種別は『一家心中』――死んでも止まらない派遣社員は、322歳の社長を許さない  作者: 葛石
第十章 怪異集結編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

77/83

件


伊藤は静かに、ジャケットの胸ポケットへ手を差し入れた。


ゆっくりと引き抜く。


乾いた血がこびり付いた一本のナイフ。


(伊藤……、お前だったのか)


その瞬間。


コツ。


コツ。


硬い蹄(ひづめ)の音が社長室へ響いた。


『素晴らしい。お前は、昼は良き父親であるという約束を、娘との約束を無残に破ったのだ』


伊藤の背後。


何もない空間から、怪異が姿を現す。


逞しい牛の身体。


だが、その顔だけは。


深い憂いを湛えた、一人の青年だった。


怪異はゆっくりと鼻先を伊藤の胸元へ寄せる。


深く。


大きく。


息を吸い込んだ。


「う……うぅ……、凛ちゃん……、パパ、ごめんな……」


伊藤は力なく膝をつく。


その身体が、黒い光に包まれていく。


怪異は静かに目を閉じた。


「……ごちそうさま」


迂闊だった。


私の社員が、怪異に喰われていた。


氷室が一歩踏み出す。


「お前えッ!! 私の社員を――!! 伊藤、今、助けてやる」


氷室が踏み出した。


その瞬間だった。


怪異が、静かに口を開く。


『――鸚鵡返しは、夕暮れ。水族館に現れるものとする』


予言。


社長室の空気が一変した。


混乱。


氷室は目の前の怪異へ、日無牢の眼を向けた。




件(17日)余命:3日 倫理:― 幸福:高

起源:█████牛の████████████████████

食性:破られた約束

嫌悪:外道

目的:███予言█████████████

縄張:野良




「視つけた」


氷室は静かに呟いた。


「お前が、件か」


怪異が氷室を見つめる。


『――その眼』


「何だ」


『だいぶ前に、見た』


どうでもいい。


その姿が、ゆっくりと薄れていく。


「――貧乏神、言えず死、逃がすな」


「社長」


伊藤が声を上げた。


「行ってください」


氷室の言葉を遮る。


伊藤は震える腕で床を這う。


「お願いします、外で会話を、聞いてました。もう俺には……、これしか、できない」


涙を流しながら。


氷室へ近づいてくる。


「伊藤……」


握り締めた拳に、爪が食い込む。


「社長。あの鸚鵡返しを、お願いします……、鸚鵡返しを――」


もう少しで。


その手が届く。


その瞬間。


『――予言は成立するものとする』


伊藤の身体が、びくりと止まった。


そして。


何事もなかったように立ち上がる。


表情が消えていた。


「……社長、頼みました」


背を向けた。


「……伊藤。……お前、どうする気だ」


足は止まらない。


「自分で始末を付けます。でも、まだ、やり残したことが、ありますので」


それだけ言い残し。


伊藤は社長室を後にした。


静寂。


白鳥が小さく口を開く。


「……何を言っても、止まらなかったと思います。覚悟を決めた表情でした」


「ああ」


氷室は小さく頷く。


拳を。


机へ叩き付けた。


「白鳥」


「はい」


「どうして私は伊藤に、相談してもらえなかった」


静寂。


氷室の拳が、緩むことは無い。


「……いや」


小さく首を振る。


「最後には、お前は、私を頼ってくれた」


唇を噛む。


「……でも、もっと早く……。頼ってくれても、よかったんだ」


氷室は、椅子に崩れ落ちた。


頭を抱える。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。