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大型案件の決済種別は『一家心中』――死んでも止まらない派遣社員は、322歳の社長を許さない  作者: 葛石
第十章 怪異集結編

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切り裂き魔


「氷室さん」


先に白鳥が口を開いた。


「私は、これ以上、氷室さんが何かを失う姿を、見ることができません」


小さく息を吸う。


「……そして、忘れられることが、とても怖い」


彼女の手は震えていた。


忘れられる恐怖。


その震えは指先から腕へ。


やがて全身へ広がっていく。


それを押さえ込むように、強く腕を組んでいた。


「白鳥」


静寂が流れる。


氷室はそっと、白鳥の手を握った。


「私はたとえ記憶を失っても、お前を忘れない」


白鳥が顔を上げる。


「すぐに戻る、約束する」


それ以上、言葉はなかった。


白鳥は俯いたまま、唇を噛む。


河童へ向き直る。


「支払う用意はある」


ボコォ……。


青白い男の口から、大きな泡が漏れた。


『この水族館へ連れてこい。ここなら、俺の力で拘束できる。支払いは、拘束が解けた時でいい』


「ああ」


氷室は頷く。


「鸚鵡返しを、ここへ連れてくる」


河童は静かに背を向けた。


ふと、氷室は思い出したように。


サングラスを外して、その背中を視る。




河童(464)余命:― 倫理:高 幸福:高

起源:水難████████████████████

食性:思い出

嫌悪:外道

目的:██████子供██████████████

縄張:スカイ・アクアリウム・フクドメ




「……白鳥」


「行きましょう、社長」


白鳥は涙を見せることなく歩き出す。


氷室も、その後に続いた。




三十分後。


社長室。


「あと一歩です」


白鳥が資料から目を上げる。


「鸚鵡返しは、追い詰めています」


「ああ」


氷室は頷いた。


「後は、どうやって水族館まで引っ張るかだ」


「被害者の傾向を、もう一度洗いますか」


氷室は少し考える。


「それなら、倉持たちに協力を仰ぐか。警察なら、既に相当な情報を集めているはずだ」


一拍置く。


「……もっとも、今日の福止グランドウエディングは、読めていなかったようだが。」


二人は黙り込む。


思考だけが巡る。


トン、トン、トン。


静かなノック。


白鳥が扉へ視線を向けた。


「どうぞ」


社長室の扉が開く。


一人の男が入ってくる。


伊藤だった。


「……伊藤」


氷室が顔を上げる。


「どうした」


伊藤は静かに扉を閉めた。


ゆっくりと二人を見る。


「社長」


短い沈黙。


小さく息を吸う。


「……社長の代になってから、会社全体が、明るくなった気がします」


伊藤の指先が、小さく震えていた。


「社員の皆さんも、本当に、優しくなりました。」


氷室は黙って聞いている。


「……伊藤」


覚悟を決めた視線を感じた。


「私、退職しようと思います。今まで、本当に、お世話になりました」


深く頭を下げる。


そして。


もう一度、顔を上げた。


「……理由を聞いてもいいか」


「……社長」


伊藤が一呼吸を置いた。


「私が、――連続切り裂き魔です」


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