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大型案件の決済種別は『一家心中』――死んでも止まらない派遣社員は、322歳の社長を許さない  作者: 葛石
第十章 怪異集結編

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座敷童と貧乏神


因果の光が。


鸚鵡返しの輪郭を、はっきりと映し出す。


バキ、バキッ。


肩が裂ける。


背中が大きく割れ。


そこから、もう一つの口がゆっくりと開いた。


「……居るんですね、そこに」


白鳥が息を呑む。


「ああ、居る」


氷室は頷いた。


『――ああ、居る。』


――チョッ。


チョッ。


湿った足音が近づく。


「鸚鵡返し」


氷室は一歩、踏み出した。


「なぜ、会話をしようとする」


『――なぜ、会話をしようとする』


今度は、氷室の声が、そのままで返ってきた。


「私は、お前たちに興味がある、知りたい」


『――私は、お前たちに興味がある、知りたい』


ただ繰り返しているだけではない。


そこには、意味があるように思えた。


「なぜ、人間を襲う」


一拍。


鸚鵡返しが口を開く。


『テメェ』


低い男の声。


(……否定、されたのか)


白鳥が小さく息を呑む。


「社長。現れました。……私にも、姿が見えます」


「ああ」


氷室は視線を逸らさない。


「鸚鵡返し。」


「私は、お前と会話を――」


ガチャリ。


背後の扉が開く。


「お客様、当館は――ッ!?」


その瞬間。


鸚鵡返しの両腕が、一瞬で職員の口を塞いだ。


白鳥の目の前で。


ビキビキッ。


関節が軋む音が披露宴会場へ響く。


鸚鵡返しはゆっくりと振り返る。


職員へ向かって。


牙を剥いた。


(……邪魔が入った。だが、こいつにも、何か伝えたい意思がある)


「ぁ……あ……、いやぁぁぁぁぁッ!!」


職員はその場へへたり込んだ。


氷室は小さく息を吐く。


「――橋本、福止め死」


『は~い』


その瞬間。


鸚鵡返しが、はっとしたように振り向く。


一歩。


テーブルクロスを踏み抜いた。


カトラリーが宙へ舞う。


カランッ。


跳ね上がったフォークとグラスが、キャンドルスタンドの先端に引っ掛かる。


その上へ。


スプーンが落ちる。


ナイフが乗る。


さらにフォークが重なる。


あり得ないほど絶妙な均衡。


一本の刃のように、真上を向いた。


その先端だけが。


偶然にも。


シャンデリアを支える一本の吊り金具を断ち切った。


ギシッ。


金具が軋む。


そして。


運悪く。


巨大なシャンデリアが外れた。


たまたま、逃げ道を塞ぐ角度で。


一直線に、鸚鵡返しへ落下した。


『――橋本、福止め死』


鸚鵡返しが、氷室の言葉で返す。


『ヒェッ! ユイ、何こいつ!?』


座敷童の息を呑む声が、インカム越しに響く。


直後。


落下していたシャンデリアが、不自然に軌道を変えた。


鸚鵡返しの目前へ落ちる。


轟音。


砕け散った無数のガラス片が、一斉に跳ね上がった。


その全てが。


運悪く、氷室の喉元めがけて精確に襲い掛かる。


「……これは」


氷室は眉一つ動かさない。


「橋本。もう一度、頼む」


『……ユイ。人使い荒い。あと、もうダメ。これ以上は止めて』


降り注ぐ破片。


だが。


一本たりとも氷室には触れない。


運良く、耳元を掠め。


偶然、肩を避け。


背後へ流れるように落ちていく。


ガシャガシャ、と。


割れたガラスだけが床を転がった。


氷室は静かに鸚鵡返しを見据える。


「……お前。そこまで、返してくるのか」


『――逃がさねえぞ』


氷室は小さく目を見開いた。


「……その声、倉持だな」


『ああ』


鸚鵡返しが、一歩近づく。


「――貧乏神、言えず死」


『……はい』


返事は、小さかった。


その瞬間。


鸚鵡返しは自分の身体を抱き締める。


両腕で、背中の口を、必死に押さえ込む。


ギチギチと、長い首が痙攣するように震えた。


そのまま膝をつく。


崩れ落ちる。


ぐるり。


首だけが、不自然に回転した。


「……社長、これは」


白鳥が息を呑む。


「ああ」


鸚鵡返しを見下ろす。


「返せない」


やがて。


――ヂョッ。


ヂョッ。


震えながら。


最後に。


『――ンッ!!』


その姿が、掻き消えた。


「……。」


静寂。


氷室は怪異が立っていた床を見つめる。


「……逃げたな」


小さく、そう呟いた。


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