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大型案件の決済種別は『一家心中』――死んでも止まらない派遣社員は、322歳の社長を許さない  作者: 葛石
第十章 怪異集結編

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伊藤


福止屋。


「……鴉天狗の横やりが終わったと思えば、今度はこれか」


氷室は一枚の書類を机へ置いた。


商品企画部。


中堅社員からの退職届。


人事制度に、頭を抱える。


目詰まりしている。


中堅まで育った社員同士で、自然と出世競争が始まる。


勝ち残る者。


去る者。


その構造自体が、人を辞めさせていた。


「白鳥、人事も見てもらえるか」


「はい」


白鳥は退職届を受け取る。


氷室は次の報告書の音声を再生した。


「社長、世間の動きですが」


「ん?」


白鳥がリモコンのボタンを押す。


『――連続昏睡事件の続報です。被害者は二十三人に増えました。被害者たちが残した最後の言葉を紹介しながら、霊能探検家の佐伯先生に――』


「変えてくれ」


すぐにチャンネルが切り替わる。


『――福止市で警察官二人が負傷する事件がありました。昨夜未明、不審者への対応中だった警察官が男に襲われ、二十代と四十代の警察官二人が重傷――』


ニュースが流れ続ける。


地元局は、連日その二つの事件を報じていた。


連続昏睡事件。


そして、連続切り裂き事件。


「……警察にも被害が出たか」


氷室は静かに呟く。


「あの倉持たちが、件に苦戦しているようだな」


「そのようです」


白鳥は短く答えた。


氷室は小さく首を傾げる。


件。


あの怪異が。


警察相手に、ここまで手強いとは思っていなかった。


「鸚鵡返しから調べる」


氷室は静かに告げた。


「件は、警察に任せる」


氷室は端末を閉じた。


「同じ怪異である座敷童や貧乏神にも、話を聞いてみませんか」


「ああ」


氷室は頷く。


「それでも分からなければ、他の怪異にも当たる」


一瞬、静寂が落ちる。


白鳥は立ち上がると、勢いよく社長室の扉を開いた。


その瞬間。


ドサッ。


誰かが足をもつらせるように転がり込んだ。


氷室は光を見た。


この並び方は、伊藤だ。


「……なんだ、伊藤か」


「あ、す、すいません、社長」


慌てて立ち上がる。


「何か用か」


「い、いえ」


「通りかかっただけです」


明らかに動揺している。


逃げるように背を向けた。


「伊藤」


足が止まる。


「困っているなら、相談しろ。助けてやる。」


沈黙。


(……どうした。何か、考えているのか)


ゆっくりと振り返る。


深く頭を下げた。


「……ありがとうございます」


それだけ言い残し、足早に立ち去っていく。


サングラスを静かに外す。


氷室の視線は、その後ろ姿を追っていた。




伊藤 博志(27) 余命:19年 倫理:壊 幸福:無




エレベーターへ乗り込む気配がした。


扉が閉まる。


「……社長」


白鳥が口を開く。


「伊藤の様子ですが」


「ああ、深刻そうか」


「……なんでしょう。社長が話しかけるまでは、何かを隠しているようでした」


白鳥が少し、考えている。


「ですが、社長の言葉を聞いて、何か覚悟を決めたように見えます」


氷室は小さく息を吐いた。


「……白鳥、座敷童たちは後回しでいい」


無意識にサングラスを握り絞めていた。


「私は、私の社員である伊藤のほうが、心配だ」


「はい」


二人はエレベーターへ向かう。


その時だった。


足元から、新たな因果の光が昇ってくる。


無機質な駆動音。


扉が開く。


遠藤だった。


「社長……ッ! 式場で――」


息を切らしている。


「オウム返しが出ました!!」



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