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大型案件の決済種別は『一家心中』――死んでも止まらない派遣社員は、322歳の社長を許さない  作者: 葛石
第九章 地元刑事編

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さくら公園


コンビニ。


紙煙草を二箱。


缶コーヒーを四本。


あとは適当に食料を籠へ放り込む。


レジへ置いた。


「温めなくていい。」


会計を済ませる。


時刻は18時21分。


覆面パトカーへ戻る。


後部座席へ袋を放り投げた。


「動きは」


「ありません」


短い返事。


煙草に火をつける。


ただ前を見続ける。


18時56分。


缶コーヒーへ手を伸ばす。


足元の空き缶が、一つ増えた。


19時25分。


陣内が静かに袋を漁る。


また沈黙。


ただ、時間だけが流れる。


21時44分。


『――綾瀬です、消灯しました』


誰も何も言わない。


倉持は新しい煙草へ火を移した。


真っ暗な車内。


赤い火だけが、小さく揺れる。


23時37分。


『――綾瀬です、伊藤が外出しました』


倉持は飲みかけの缶コーヒーを一気に空ける。


陣内は無言でエンジンをかけた。


静かだった車が、ゆっくりと動き出す。




『――自宅から右へ向かっています、徒歩で追跡します。福止市外の方向です』


「よし」


倉持が短く頷く。


「先回りする」


覆面パトカーが深夜の街を滑るように駆け抜ける。


一本隣の道路へ入り。


一気に追い越す。


10分ほど先行して待ち伏せる。


人気はない。


静寂だけが辺りを包む。


報告を待つ。


時間が経過する。


『――コンビニ前を通過』


「……丁度、この隣だな」


陣内は再び車を走らせる。


距離だけを広げていく。


時刻は0時6分。


『――福止さくら公園へ入りました、ベンチに座っています』


倉持は新しい煙草を口に咥えた。


『――公園の入口を見ています』


カシン。


ライターの火が灯る。


煙を一つ吐いた。


公園の先は、市境。


人通りも少ない。


五件の事件現場とは、まるで逆方向だった。


『――井上です、公園の後方から、二十代くらいの女性が歩いてきます。』


倉持は煙を窓の外へ吐き出す。


そのまま煙草を揉み消した。


『――綾瀬です。女性が公園の前を通過――』


一瞬、間が空く。


『……伊藤が、動きました』


同時にドアを開ける。


この先、数百メートル。


雑木林が続く。


倉持と陣内は先行し過ぎないよう距離を取り、曲がり角へ回り込んだ。


『――(伊藤が足を速めています)』


無線が走る。


この角で挟める。


「陣内」


「はい」


二人は息を合わせる。


曲がり角を、一気に曲がった。


この先で捕まえる。


これ以上、引っ張るわけにはいかない。


その瞬間だった。


『――予言は、成立するものとする』


「……ッ!?」


足が止まる。


陣内が反射的に口を押さえた。


二人は同時に周囲を見渡す。


誰もいない。


倉持は陣内を見る。


陣内も、倉持を見ていた。


同じだ。


聞こえた。


耳元だった。


いや。


倉持と陣内、そのちょうど間。


まるで、そこに立っていた「何か」が。


二人の横をすれ違いざまに、ぽつり、と囁いていったような距離だった。


『――(女性が、曲がり角を曲がりますッ)』


二人は反射的に振り向く。


井上と綾瀬が張っている方向。


雑木林の向こう。


『――(伊藤が、もうすぐ曲がります!)』


倉持は見上げた。


陣内も同じように辺りを見回している。


誰もいない。


遠くに。


井上と綾瀬の姿だけが見えた。


こちらへ向かってくる。


その背後。


一人の男が、ゆっくりと曲がり角を現れた。


「……おい、どういう――」


男の右手が。


コートの胸元へ入る。


「後ろだッ!!」


倉持が怒鳴る。


無線が悲鳴を上げた。


『――倉持さん! 後ろ! 伊藤が居ますよ――ッ!!』


咄嗟に背後を振り向く。


誰もいない。


もう陣内は走り出していた。


倉持が正面へ視線を戻す。


男はナイフを抜き放っていた。


一閃。


綾瀬の右腕が切り払われる。


「綾瀬!! 後ろだ! 何を――」


グシャッ。


「ぐあッ!?」


突然。


無線を持つ右腕から力が抜けた。


冷たい。


鉄が肉を裂く感触だけが、遅れて伝わる。


血飛沫。


倉持は右腕を押さえた。


(……そうかよ)


未知の「何か」に、斬られた。


その先では。


井上が崩れ落ちる綾瀬を抱き止めている。


倉持の叫びで、陣内が足を止めた。


前後を何度も見回し、立ち尽くしている。


誰も見えない。


ただ、血だけが流れていた。


「……クソが」



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