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大型案件の決済種別は『一家心中』――死んでも止まらない派遣社員は、322歳の社長を許さない  作者: 葛石
第九章 地元刑事編

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午後一時過ぎ。


福止市。


馴染みの定食屋。


「決まりましたか?」


襖が開き、女将が顔を覗かせる。


高齢のはずなのに、その声には張りがあった。


倉持は軽く会釈する。


「さば塩定食、ご飯は少なめで」


「はいよ、さば塩ね」


女将は笑って頷く。


向かいでは、陣内が真剣な顔でメニューを見つめていた。


「……決まったか」


「はい」


勢いよく顔を上げる。


「カツ丼をお願いします」


「はい、カツ丼ね」


そこで終わらない。


「あ、それとラーメン。あと、唐揚げ定食」


「はいはい」


「ご飯、大盛りで」


女将は声を上げて笑った。


「今日も元気で、よろしいねぇ」


注文を書き留めると、そのまま厨房へ消えていく。


給料日。


いつもの席。


わざわざ一つしかない座敷を空けてくれるのも、もう何年もの付き合いだからだ。


福止市の日常。


何十年も変わらない景色だった。


倉持は湯飲みを口元から離す。


「……昼だぞ」


陣内が気まずそうに頭を下げる。


「すみません」


倉持は鼻で笑った。


店内をゆっくり見回す。


それは癖だった。


呼吸をするように、人を観察する。


そして。


陣内へ視線を戻す。


「一番下の熱は、下がったのか」


「あ、はい」


陣内は照れ臭そうに頷く。


「ご迷惑をお掛けしました」


湯飲みを一口啜る。


やはり分かりやすい。


感情が、そのまま顔へ出る。


まるで文字でも浮かんでいるようだ。


倉持は続ける。


「……それで、一番上の結果は」


聞かなくても分かっていた。


陣内は頭を掻きながら笑う。


「はい。都道府県予選、優勝しました」


「そうか。」


短い一言。


それだけだった。


当然の結果だ。


警察柔道大会上位者から、何年も直接指導を受けている。


ふと。


十年以上前。


初めて陣内に投げ飛ばされた日のことを思い出す。


紙巻き煙草を一本くわえた。


カシン。


ライターの蓋を開く。


火を点ける。


吸える場所も、もう少なくなった。




「……お利口さんだ。尻尾を、まるで出さねえ」


倉持は煙を吐いた。


五件目。


人気のない遊歩道。


犯人は繰り返しても、証拠を残さなかった。


「タイミングも最悪です」


陣内が苦い顔をする。


「ああ」


倉持は窓に向かって、紫煙を吐き出した。


ここ最近。


通報が絶えない。


連続昏睡事件。


救急も警察も、その対応に追われている。


世間は、連続切り裂き魔と連続昏睡事件。


二つの事件に振り回されていた。


「なあ、陣内」


倉持が煙草を指で挟んだまま言う。


「最初の現場へ戻ろう。このヤマ、ずっと変なんだ」


視線を落とす。


「……あの現場に、何か置き忘れたまま、捜査してる気がする」


陣内が身を乗り出した。


「……やりましょう」


即答だった。


「倉持さん。最初から、全部」


その返事だけで十分だった。


単純だ。


裏表がない。


だからこそ、信じられる。


「――失礼します」


襖が開く。


若い女性店員が、お盆を抱えていた。


どこか、女将の面影がある。


「さば塩定食です」


倉持の前へ静かに置く。


続いて。


「カツ丼と……ラーメンですね。」


一度、手を止める。


「……あれ?」


スマートフォンを見直した。


「唐揚げ定食、大盛り……?」


困ったように首を傾げる。


「あ。」


陣内が手を挙げた。


「それも僕です」


「……ぁ、はい!」


店員は吹き出しそうになるのを堪えながら笑顔で頷き、厨房へ戻っていく。


陣内の大きな手が割り箸を取る。


パチン。


勢いよく割った。


「いただきます!」


倉持は鼻で笑う。


箸を手に取り。


いつものように、鯖の骨を外し始めた。


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