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大型案件の決済種別は『一家心中』――死んでも止まらない派遣社員は、322歳の社長を許さない  作者: 葛石
第八章 監視破り編

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タイミング


社長室。


氷室は、河童から得た情報を一つずつ口にした。


白鳥は無言でホワイトボードへ書き込んでいく。


キュ、キュッ。


マーカーが走る。


ただの文字ではない。


白鳥が書いた瞬間、その文字には因果の光が宿る。


だから。


氷室にも、それだけは読める。


「……これで、揃いました。」


白鳥が一歩下がる。


ホワイトボードには、七つの名が並んでいた。




【福止市の駐在怪異 (中立・敵対怪異)】


河童  ( 464)余命:― 倫理:― 幸福:中

件   (????)余命:? 倫理:? 幸福:?

鸚鵡返し(????)余命:? 倫理:? 幸福:?

鴉天狗 (????)余命:? 倫理:? 幸福:?




氷室は腕を組む。


「当然、優先順位は決まっている」


「はい」


白鳥は迷わず答えた。


「我々を監視している、鴉天狗です」


キーボードを叩く音が響く。


追加の資料を開いている。


氷室は静かにサングラスを外した。


「昨日から探している」


視界いっぱいへ、因果の光が広がる。


壁を透かし。


床を透かし。


隣のビルまで見渡す。


それでも。


不自然に見えるのは、福止屋へ宿る二つの光だけ。


座敷童。


貧乏神。


「……通常の知覚範囲。感覚だが、半径百四十メートル程度には、やはり見当たらない」


白鳥は画面を見つめたまま口を開く。


「参考になるかは分かりませんが。鴉の視力は、人間のおよそ五倍と言われています」


「……向こうは、こちらを見ている、か」


白鳥が静かに続ける。


「こちらからは、見えない距離でも。可能性ですが」


社長室に沈黙が落ちた。


氷室は目を閉じる。


「……五倍か」


小さく呟く。


全神経を、眼へ集める。


本気。


ゆっくりと瞼を開いた。


世界から光の揺らぎが消える。


白。


ただ。


果てしなく白い空間に、無数の黒い因果の隙間だけが浮かんでいた。


両目の奥が、焼けるように痛む。


近くの因果が幾重にも重なり合い、その向こう側を塗り潰していく。


数秒。


氷室は静かに目を閉じ、背もたれへ身体を預けた。


「……駄目だ」


目元を軽く押さえる。


「限界より先を見ようとすると、近くの因果が邪魔をする」


しばらく痛みが引くのを待つ。


白鳥がキーボードを叩きながら口を開いた。


「伝承では、鴉天狗は空を飛び、剣術に長け、人や動物へ姿を変えるとされています」


「あくまで伝承だろう?」


氷室は苦笑する。


「橋本なんて、座敷童と言い張っているが、見た目だけなら中年のおっさんだぞ」


「見た目以外は、概ね伝承通りとも言えます」


白鳥は淡々と返す。


「あるいは、個体差でしょう」


「はは」


氷室は笑う。


「座敷親父か。それはそれで面白い」


短い笑いが消える。


白鳥は画面を見つめたまま続けた。


「福止市は約二十平方キロメートル。人口は約三十万人」


「……その中から怪異を偶然見つける可能性は、限りなく低いでしょう」


再び沈黙。


氷室は腕を組む。


「……さあ」


静かな声だった。


「どう捕まえるかね」


白鳥は福止市の地図を画面いっぱいに表示した。


街を荒らす件。


人の心を喰らう鸚鵡返し。


監視する鴉天狗。


怪異だけではない。


街には、正体不明の切り裂き魔までいる。


社長室に、静かな緊張が満ちていく。


怪異を追うための思考が、ゆっくりと動き始めた。


鴉天狗。


奴は監視している。


人にも。


動物にも。


姿を変えられる可能性がある。


なら。


どうすれば捕まえられる。


どうすれば、一番嫌がる。


逆を付け。


思考が一本の線で繋がった。


(……そうか)


口元がわずかに緩む。


(徹底的に、監視させればいい)


氷室は顔を上げた。


白鳥はまだ資料へ目を落としている。


指だけが、一定の速さでキーボードを叩いていた。


「……まだかかるか」


「……もう少々、お待ちください」


氷室は椅子の背へゆったりと身を預ける。


机の上を手探りで探る。


珈琲カップを見つけると、一口だけ含んだ。


静寂。


やがて。


キーボードの音が止まる。


「お待たせしました」


白鳥が顔を上げる。


その声には、確かな手応えがあった。


氷室は小さく笑う。


「試してみるか」


「はい」


「同時に言おう」


「分かりました」


一拍。


二人の呼吸が重なる。


「方法は――」

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