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大型案件の決済種別は『一家心中』――死んでも止まらない派遣社員は、322歳の社長を許さない  作者: 葛石
第七章 怪異騒乱編

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社員


翌日。


朝日が一切届かない、福止屋の電算室。


静かな空調音だけが響いている。


グリ、グリ。


新品のマウスホイールが回る。


ボリ、ボリ。


橋本は菓子をかじりながら、営業日報を眺めていた。


画面には、一件の商談報告。


『新郎様が結婚式自体に消極的だったが、趣味の「演出」の提案で意欲が向上。案件化確度80%。次回商談で醸成予定』


「……真壁は、真面目だなぁ」


女性社員を覗き見ると怒られる。


だから、それはやめた。


でも。


「書き込み」は解禁された。


それだけで十分楽しい。


カタカタカタカタッ。


指が弾ける。


『ありがとうございます。即決案件まで持ち込める可能性があります』


送信。


「ん~、こうなんだな」


すぐに続きを打つ。


『商談冒頭でドリンクサンプルを新婦へ試供してください。試飲中の五分間、新郎様と予算感を先に固められます』


「戻る前に握るんだな」


口元が緩む。


さらに打ち込む。


『新婦様が席を外したタイミングで、ご予算の上限だけ先に合意されてはいかがでしょう。後から演出をご提案しやすくなります』


送信。


満足げに画面を眺める。


「うん」


頷く。


「こっちのほうが、決まる」


ニチャァ……。


口元だけが嬉しそうに歪んだ。


ボリ、ボリ。


貧乏神は、書き込んだ文章を静かに読んでいる。


橋本は遠藤葵のSNSを開いた。


――カチチッ。


小さな音。


「ひぇっ!」


反射的に振り向く。


壁際。


いつものように、貧乏神が立っている。


手には、あのカッターナイフ。


相変わらず無表情。


「……なんでユイたちの味方ばっかりするんだ~」


座敷童が頬を膨らませる。


「憑りついてもいないのにさ~!」


返事はない。


枯れ木のように立ち尽くしている。


橋本はSNSを閉じた。


ガタン。


地下室の扉が開く。


「お疲れ様です。差し入れです」


聞き慣れた声。


白鳥だった。


段ボール箱を抱え、地下へ降りてくる。


「ババア~~!」


「はいはい。ババアは禁止です」


座敷童が段ボールへ飛び付く。


ポテトチップス。


チョコレート。


ジュース。


夢中になって漁り始めた。


その横で。


白鳥は小さな袋を取り出す。


べっこう飴。


貧乏神の前へ差し出した。


「どうぞ」


貧乏神は一瞬だけ固まる。


そして。


深く頭を下げた。


白鳥は少しだけ笑う。


「いいの。あなたたちも、福止屋の大切な社員ですから」


貧乏神は飴を受け取る。


静かに包装を開く。


ころり。


口へ入れた。


白鳥は空き箱を畳み始める。


「……あり、がと」


かすれた、小さな声。


白鳥の手が止まる。


「……白鳥、さん」


橋本も息を呑んだ。


貧乏神が、喋った。


ゆっくり振り返る。


そこには、いつもと変わらない貧乏神。


壁にもたれ。


何事もなかったように立っている。


「……ババア~」


座敷童が袋を抱えたまま振り返る。


「ぼくもなんだ~」


「はいはい」


白鳥は荷台を押し、地下室を後にした。


なんとなく、分かった気がした。


社長が怪異にここまで向き合う理由。


人より、不器用。


だから。


善意も。


悪意も。


隠せない。


人間のように、笑って嘘は、つけない。




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