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【閲覧注意】大型案件の決済種別が『一家心中』だった。 ――因果を読む派遣社員は、322歳の社長を許さない  作者: 葛石
第五章 自業自得編

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会社持ち


白鳥は、一つずつリストを潰していく。


言得洲企画、役員一覧。


「裏垢を暴きなさい。誰でもいい。喉元を抉る情報を」


「ババア~。ぼくは本当は死ず子の命令しか――あ、やります、やらせてくださいぃ」


ポケットへ沈みかけた白鳥の指先。


橋本の脂ぎった指が、マウスに這った。


グリッ、グリッ。


デジタルタトゥー。


汚職、愛人。


莫大な裏金ルート。


素人が垂れ流す情報、それを根こそぎ引き摺り出し、容赦なく暴き立てる。


白鳥は一瞥すると、その役員へダイレクトメッセージを送りつけた。


『トップとは別に、横のパイプも持っておきませんか』


すぐさま届く、飢えたような回答。


『是非、興味があります』


実務レイヤーにおける、当然の合意。


苛烈極まる言得洲に、頭を抱えない役員はいないはずだ。


白鳥の瞳は、その亀裂を切り崩そうとしていた。


「毎週水曜日。自宅マンション。密会してま~す」


「仕事は出来るのね。今日ね、わかりました」


カチカチッ。


せり出す、カッターナイフの刃。


ゴクリ。


橋本が息を呑み、目を見開く。


白鳥は、容赦なくそれを突き立てた。


引き裂かれる、乾いた音。


開かれたのは、段ボール。


中身は、大量のポテトチップス。


塩分の低いタイプ。


「ババア~~! わかってるぅ~~!」


橋本が両手を掲げた。


「明日、また来ます。従順であれば、毎日一箱ずつ貰えます。理解しましたか?」


怪異は首をぶんぶんと、縦に振った。


すぐさま菓子袋を一つ、掴み取る。


パンッ。


ボリッ、ボリッ。


SNSの裏垢。


グリッ、グリッ。


画像解析。


白鳥は集中し始めた橋本を見届けると、静かに、その部屋を後にした。




◇ ◇ ◇




とある女性の自宅マンション前。


夜の路上。


白鳥は社用車の中で、じっと息を殺していた。


助手席の氷室を、横目で一瞥する。


病院で手当てを受けたばかりの、痛々しい包帯の跡。


「気にするな。明日になれば、すべて終わる」


氷室の低い声。


その瞳の奥の殺意は1ミリも衰えていない。


「はい」


短く答え、白鳥はスマートフォンを強く握りしめた。


液晶の光が、二人の巻いた包帯を白く照らし出す。


フロントガラスの向こう。


街灯の届かない暗闇の奥から現れる、二つの人影。


――獲物が、来た。


男が女の腰を抱き寄せ、エントランスの自動ドアへと消えていく。


その一連の様子を、白鳥はスマートフォンのレンズ越しに、全て動画に収めた。


もう、この場所に用はない。


「自宅まで送ります」


「ああ、いつも済まないな。助かるよ」


「いえ、お気になさらないで下さい」


エンジンをかける。


夜の路上に、低く唸る駆動音。


「なあ、白鳥」


「はい」


「もし、明日、私が言得洲に敗れた時は、座敷童を――」


――キィィィィッ!!!


突如、激しいタイヤの悲鳴。


前のめりになる肉体。


強烈な急ブレーキが、車内を揺らした。


「絶対に、私が貴女を勝たせます」


包帯の巻かれた手でハンドルを強く握り締める。


白鳥は氷室の眼を、真っ直ぐに見つめた。


「……ああ、すまない。余計な事を言った」


氷室は気圧されたように、小さく息を吐く。


後ろの車から、静寂を切り裂くクラクション。


白鳥は感情を消した顔に戻る。


再び、静かにアクセルを踏み込んだ。




◇ ◇ ◇




翌朝。


重苦しい社長室。


氷室、白鳥、橋本、倉持の4人がテーブルを囲んでいる。


「みんな、間に合わせてくれて助かった。あの男は、これ以上、引っ張れない」


氷室の左頬を覆う、生々しい医療用包帯。


大男に踏みにじられた傷は、まだ癒えていない。


「白鳥。10時30分からの会議で、まず役員の端末を押収する。30分以内だ」


「はい」


「座敷童。11時から定例会議が始まる。役員の端末を社外から操作して、機密情報を根こそぎ抜き取れ」


ボリ、ボリ。


低塩分のポテトチップスを口に放り込む。


「はあ~い」


橋本はいつも通り、気の抜けた声で答えた。


「倉持。11時10分頃にガサ入れを頼む。それまで言得洲は私が張り付けにする。警察で回収してくれ」


「ああ、任せときな」


倉持は吊るされた左腕のギプスに、手錠をコツンと当てて、おどけて見せた。


だが、その瞳の奥には、やり返しに来た本物の刑事の鋭さが宿っている。


「以上が作戦の基本だ。だが、間違いなく言得洲側の妨害が入る。あとは状況に応じて、各自判断してくれ」


全員が深く頷いた。


肌を刺すような沈黙の中、全員が理解している。


貧乏神という、未知なる歪な変数を。


氷室は無線式のイヤホンを装着した。


「常時繋いでいる、返事は、なんとか文字でする」


そう伝えると、つい癖で時計へ目をやろうとする。


「社長、9時43分です」


白鳥がすかさず告げる。


「始めよう。……ああ、そうだ。終わったら、今夜はみんなで豪華にやろう。倉持達の退院祝いもある、会社持ちでな」


白鳥が驚いた表情を見せた。


命を削る計算しかしてこなかった氷室。


だが、初めて「その先の生存」を口にしていた。




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