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【閲覧注意】大型案件の決済種別が『一家心中』だった。 ――因果を読む派遣社員は、322歳の社長を許さない  作者: 葛石
第五章 自業自得編

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納期


翌日。


9時40分。


言得洲との約束のデッドライン。


『10時までに殺人事件』


氷室は、その要求を冷酷に黙殺した。


適当に時間を稼げばいい。


あの男は、明日死ぬ。


『本日納品の件、座敷童の調整に時間を要しています。申し訳ございません。明日中に必ず納品します』


乾いた声で、音声入力した。


「社長、清掃が完了しました! 失礼します!」


庶務の遠藤が、そそくさと退室しようと扉に手を伸ばした、その刹那。


白鳥の両手が、生き物のように悶えた。


そのまま、自らの首へ容赦なく喰い付く。


「え!? ……ッ、……ぅぐ、……ぁ」


「白鳥?」


「白鳥さん!?」


氷室がその手を掴み、必死に引き剥がそうとする。


突如、鳴り響く着信音。


理解した。


氷室は素早く通話に出る。


『氷室さん。私は午前中に確実にお願いしたいと言った』


「白鳥さん……ッ、ダメ、外れない――ッ!」


ブチッ。


湿った木の枝をへし折るような、嫌な音が室内に響いた。


首を締め上げる白鳥の親指。


その爪が、肉の限界を迎えて剥がれ落ちる。


滴る鮮血。


「――申し訳ございません、お許し下さい。お願いです、白鳥を殺さないで下さい」


屈辱に顔を顰める白鳥。


己が足枷と化した、無惨な現実。


『氷室さん。何時、できますか?』


「明日の12時までに、必ず」


一瞬の間。


珈琲を啜る、酷く不快な音。


『遅せえんだよッ!! 納期は守れよな氷室。……その女は殺す』


ブツリ、と通話が切れる。


ギチギチと、さらに肉が締め上げられる。


「白鳥、さん……」


ドサッ。


床に崩れ落ちる肉体。


「おい、嘘だろ、白鳥……」


震えるスマートフォン。


機械恩がダイレクトメッセージを読み上げた。


『貴社の誠実な対応を希望しております。今回は許します。次はありません』


「が……っ、はぁ、はぁ……ッ」


白鳥が、血を吐きながら立ち上がろうとしていた。


「申し訳、ござい、……はぁ、ません、はぁ、私が――」


「済まない、私が見誤った。本当はもう、殺しておかなければいけない相手だった……」


氷室の冷徹な言葉。


遠藤は目を見開いて震えあがった。


頼もしくて憧れだった先輩も、厳しくても実は部下思いだった上司も、もう居なかった。


二人の背中が、遠くに見える。


遠藤は静かに立ち上がると、無言で一礼した。


そして、逃げるように、社長室から退室した。




「白鳥、この状況だ。私が一人で行く」


静かな、肯定の頷き。


血が止まった親指を消毒すると、白鳥は黙々と、包帯を巻き始めた。


グッ、グッ。


きつく、きつく締め上げる。


まるで、誰かの首を絞めるかのように。


言得洲との、定時接触デイリーミーティングが迫る。


「二つ、頼みがある」


「はい」


「先方の役員クラスの端末が欲しい。手配できるか」


「……はい」


わずかな躊躇。


「……すまない。それと、会議中はあの座敷童を監視してくれ」


白鳥の鉄の仮面は、微動だにしない。


「はい、お任せください」


だが、網膜の奥。


どす黒い、底なしの殺意が澱んでいる。


許されない。


己が氷室の弱点として利用された、無惨な屈辱。


氷室は、座敷童の性質を白鳥へ伝えた。


白鳥の頭脳が、その性質を深く理解する。


そして、氷室は音もなく、社長室を後にした。




言得洲企画の本社。


会議室。


(……デイリーミーティングという名の、言得洲の監視)


「本日は、白鳥さんは不在ですかな?」


白々しい質問


「……体調不良です」


氷室は短く応じる。


「それは、心配ですね」


(時間を稼げばいい)


暗闇の底で、氷室は思考を研ぎ澄ます。


(……明日、お前を殺す)


コツン、コツン。


規則正しく、机を指先で叩く音が響く。


「……なあ?」


低かった声が、急激に熱を帯びる。


「おめえ、納期守れよコラアッ!!」


突如、激しい風圧。


大気を潰すような咆哮と同時に、世界が反転した。




――めぎりッ!




衝撃は、遅れてやってくる。


左顎を砕くような痛みが走り、氷室の華奢な身体は椅子ごと吹き飛んだ。


壁に激突して、止まった。


ドガッ。


巨躯が立ち上がる音。


足音の震動が、額に直接、伝わる。


もうあと数歩。


ギシッ。


──暗闇の目の前に、大きな質量。


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