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【閲覧注意】大型案件の決済種別が『一家心中』だった。 ――因果を読む派遣社員は、322歳の社長を許さない  作者: 葛石
第五章 自業自得編

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無機質な表情


「言得洲を始末したら、やっと終わりだな」


助手席に座る氷室の、乾いた呟き。


「はい」


張り詰めていた糸が、わずかに解れる。


白鳥のハンドルを握る手の力が、少しだけ緩まった。


「終わったら、お前はどうする」


「あなたに、付いて行きます」


即答。


迷いはない。


「そうか。私は、どうするかな」


流れる外界。


暗闇の隙間に、福止屋の冷たい看板が刺さる。


「……案外、社長も悪くない」


滑り込む、地下の駐車スペース。


ギアが噛み合う、硬質な金属音。


「真面目に働く彼らが報われる。そんな景色を、私は見守りたいのかもしれない」


「はい、氷室さんならそう言ったと思います」


氷室の唇が、微かに歪む。


開かれる、ドア。


新たな、因果の執行へ。




警備室の鉄扉を抜ける。


暗い階段の最奥。


そこは、光の届かない密室。


「居るんだろ、座敷童」


「ヒッ……」


もぞもぞと、闇の底が蠢く。


這い出てくる影。


橋本。


「私が次の『死ず子』だ。協力しろ」


「新しい死ず子ねえ。……ユイさあ、ユイはぼくに謝ることが、あるんじゃないかな」


肉厚の菓子袋が、容赦なくその顔面に叩き付けられた。


「痛ッ……わ、わかったよ、……協力するよ。ユイはプライドが高いなあ~」


白鳥の視線が凍りつく。


「……コイツ、生きていたのですか」


「ああ。死ず子を引き継いだ時から、皮膚で感じていた。私はコイツの幸運に守られている」


パンッ。


乾いた破裂音。


橋本は煎餅の袋を引き裂き、下卑た音を立てて齧りついた。


「座敷童。言得洲悠玄を『福止め死』で始末しろ」


弾かれた名刺が、暗闇を舞う。


油でギト付いた指が、それを掴み取った。


「……は~い。でもユイさ、ぼくはポテトチップスが好きなんだ、これじゃないんだよな~」


橋本の両掌が、淡い黄金の光を放つ。


因果の強制執行。


――だが。


光は一瞬で消えた。


「あ、ユイ、ごめん。この人は無理だ」


「どうした」


「この人、別の怪異に守られてる」


(――あの、貧乏神か)


「そうか。そいつは貧乏神という。貧乏神を、『福止め死』で始末できるか」


「無理。怪異は死なない」


氷室は座敷童を冷酷に睨み付けた。


(暗殺も不可能だろうな。貧乏神の『不幸』が因果をねじ曲げ、失敗を強制執行してくる)


左手を一瞥する。


因果を書き換える力は、寿命と共に消滅した。


もうただの、無力な掌。


バリッ、バリッ。


静寂を汚す、執拗な咀嚼音。


生理的な嫌悪。


「白鳥、戻るぞ」


「予定変更だ。正攻法で、叩き潰す」


「わかりました」


菓子袋を空にし、醜く喚き散らす橋本。


一瞥もくれず、二人はその場を立ち去った。




コール音。


氷室は社長室の椅子に深く沈み、反応を待つ。


『ああ、氷室か。どうした?』


倉持の声。


死線を越え、かつての剛力を取り戻した響き。


「経過はどうだ」


『良好どころか、暇で死にそうだ。で、本題は?』


「言得洲企画。あの会社が、福止屋に殺人事件を発注していた」


沈黙。


電話越しでも分かる。


倉持の纏う空気が、一瞬で変質する。


『……その先は。洗ったのか』


「この街の惨劇は、すべて言得洲と福止が回していた。他にはない」


『へえ……。氷室、それで、どうして欲しい?』


「言得洲企画を、ガサ入れできるか」


『ガサ入れ? 証拠があればできる、何かあるか? 教えろ、何でもいい』


「福止のパソコンにある物は全部出せる、何が使える? 受発注の記録はあるが、傷害事件や殺人事件が、和菓子や飾皿になっている」


氷室は、あの汚悪な価格表とその記録を伝えた。


『ハハッ! なるほどな。和菓子に飾皿か』


受話器の奥で、乾いた笑いが弾けた。


『300年の伝統が聞いて呆れる。醜悪なペテンだ』


カシン、カシン。


受話器越しに響く、硬質な金属音。


氷室は確信していた。


『安心しろ。そんな子供騙しの隠語、国家権力の前じゃあ、何の役にもたたねえよ。極上の餌だ。それだけでガサ入れには十分だ』


「よかった。どれくらいで動ける」


受話器から、鼓膜を震わせる怒号。


倉持が井上に指示をと飛ばす声だ。


『その画像を今すぐに送れるか? 令状の請求と審査は、俺のツテですぐ回せる。二日だ。明後日の昼前には、奴らの喉元に噛み抜く』


握る端末が、じわりと熱を帯びる。


指に血が通う。


「助かる」


カシャ、カシャ。


冷徹なシャッター音。


証拠の即時送信。


実力行使で因果を動かす。


『上等だ。おい、陣内――!』


決戦の歯車が、音を立てて噛み合い始める。


(相変わらず、騒がしいな。だが、本当に頼りになる)


ふと、氷室は隣の白鳥に振り向いた。


そこにあったのは、慈愛に満ちた柔らかな表情。


だが、氷室の視線に気付いた瞬間、彼女はいつもの感情を殺した無機質な表情へと戻った。


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