表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【閲覧注意】大型案件の決済種別が『一家心中』だった。 ――因果を読む派遣社員は、322歳の社長を許さない  作者: 葛石
第五章 自業自得編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

35/52

言得洲(いえず)企画 株式会社

挿絵(By みてみん)


氷室は手早く、朝の支度を済ませる。


思考を殺した、ただのルーティン。


全身を伝うのは、因果の光る糸。


それは流れるように、廊下の闇へと延伸していく。


もうそれ以外には、何もない。


光の導線に、身を委ねる。


手の甲が、ドアに衝突した。


鈍い痛み。


だが、足は止まらない。


指を這わせてドアノブを見つけると、扉を開く。


「おはようございます、社長」


「おはよう、白鳥」


強く光る白鳥の因果。


表情までくっきりと視認できた。


氷室は白鳥の背を追い、社用車に乗り込んだ。




あれから、一週間。


会社はすでに、二人の絶対的な支配下にあった。


白鳥が『福止静子』という偽りの殻を被り、株主名簿を改竄した。


間髪入れず、氷室への全権委任を社内に通達した。


社員たちの間に走る、不信。


だが、氷室の眼にそんな物は映らない。


次なる布石は、取引先。


そして今日、ついに主要取引先への挨拶が始まる。


重苦しい社長室。


白鳥が、冷徹に読み上げる。




言得洲いえず企画 株式会社


設立日  :1727年3月15日

代表取締役:言得洲 悠玄

事業内容 :ブランド、マーケティング戦略に関するコンサルティング業務




「先方は静子が死亡していることは想定済みだろうな。何をしてくる?」


「見定め、です。この一週間の沈黙。現段階で牙は剥いていません」


妨害はない。


不気味なほどの、無。


「まあそうだろうな、こちらも見定めだ」


「時間です。向かいましょう」


「ああ」


重い吸音ドアが閉まる。


二人の靴音が、冷え切った廊下を刻み始めた。




言得洲企画のロビー。


受付を済ませ、エレベーターに滑り込む。


地上23階、閉ざされた会議室。


氷室と白鳥は静かに、その時を待っていた。


「お待たせしました」


重い扉が音もなく開き、二人の人物が入ってくる。


氷室の瞳が、その二人を冷徹に視る。


視界に浮かび上がる、歪な因果の数字。




言得洲 悠玄 (37)余命 40年

貧乏神   (1802)余命:―




(……いきなりか、隠す気も無いの)


「言得洲企画の、言得洲です。この度は、福止屋さんの新社長就任、心よりお祝い申し上げます」


友好的な声。


だが、その奥に潜む底知れない質量。


言得洲はその巨躯に似合わず、淀みのなく何かを差し出してきた。


(ああ、名刺か……)


名刺交換の瞬間。


氷室は指先の感覚だけで、違和感なく名刺を交換する。


「お初にお目にかかります。福止屋の氷室結衣と申します」


視界の隅、ドアの前に佇む枯れ木のような光の束。


長髪の女。


異常な高身長。


――貧乏神。


一切の生命活動を感じさせない、不気味な無音。


「――どうぞ、お掛けください」


言得洲が促す。


秘書が静かに珈琲カップを置くと、逃げるように退室した。


「300年続く福止屋の暖簾を、まさかこれほどお若い方が引き継がれるとは。静子社長からの、突然のご指名だったのですか?」


「はい、前社長には目をかけていただいておりまして。微力ながら、伝統を守る所存です」


「そうですか、氷室さん」


言得洲が珈琲を啜る。


「――お前、殺っただろ?」


笑顔の裏から、剝き出しの悪意が突き刺さる。


「だとしたら、どうするつもりですか?」


氷室の瞳が、真っ直ぐに敵を射抜いた。


「氷室。お前、伝統を守りたい、そう言ったよな」


言得洲が一枚の紙を取り出した。


机上に晒された、異様な価格表。


白鳥が驚きを完全に押し殺し、淡々と読み上げる。




価格表


品名:傷害事件(慶事用 高級和菓子)

表定単価:¥ 3,500,000

職人支払:¥ 150,000


品名:殺人事件(特製飾皿)

表定単価:¥12,000,000

職人支払:¥ 150,000




(……コイツは後で始末するとして、まだ他にも居るのか?)


目の前の男は、値踏みするようにこちらの反応を待っている。


「はい、存じております。可能です」


視界は閉ざされていても、光る糸で形状は分かる。


男がどれほど汚悪な表情を浮かべているか。


「言得洲社長、教えて下さい。購入された品物は、どのようになされているのですか?」


言得洲が満足そうに頷く。


そして、あの枯れ木を指さした。


だらしなく垂れ下がった長い髪。


その隙間から、濁った白い瞳がじっとこちらを凝視している。


「当家は代々、あれに憑りつかれていてね。放っておけば不幸になる。だから定期的に御社から『幸福』を――この街に住む人間の幸福を買い取っている」


(……虫唾が走るな)



「貧乏神も人を自殺させる。便利だが、家まで不幸に引き摺り込もうとする。……お宅の座敷童が羨ましいよ」


男の視線が、忌々しげに背後を刺す。


枯れ木は一切の反応を示さない。


「弊社以外の怪異は、ご存知ですか?」


言得洲の顔から、人間らしい歪みが消える。


冷酷な捕食者の相。


視線が、氷室の急所を抉るように値踏みしている。


「……現代で怪異を飼い慣らす狂人は、そういないらしい。私は知らない。だが、そこらに蠢いているだろうな」


(確定。この街の惨劇は、コイツと静子の二人だ)


「さて、氷室さん。本題だ。静子の死で、納品が遅延している。次の『殺人事件』、明日の10時までに確実に執行してくれ」


「かしこまりました。引き継ぎの不手際です。社に戻ったら至急手配をします」


「今後とも是非、ビジネスパートナーとして緊密な関係を維持していこう」


「はい、ありがとうございます」


(帰社したら、お前を殺す)


氷室と白鳥は、深く頭を下げた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ