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【閲覧注意】大型案件の決済種別が『一家心中』だった。 ――因果を読む派遣社員は、322歳の社長を許さない  作者: 葛石
第四章 因果応報編

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暗黒


【運命の改竄】


――生存:███ 結█(24)




因果が、猛烈な速度で逆流する。


世界にむしり取られていた氷室の一部が、強制的に収束していく。


凍りついていた肉体が、芯から熱く沸き立った。


静かに、立ち上がる。


巻き戻った左眼が、再び、世界の光景を映し出した。


足元に絡みつこうとしていた数百もの光る糸は、いまや全て切断され、塵となって消えていく。


その先。


暗闇の奥。


怪異は、恐怖に怯え、ガタガタと震えていた。


――くるくる。


指先で弄んでいた、冷たい鋼の感触。


「はい」


運命を改竄する冷たい声とともに、カッターナイフを怪異の方へ投げ付けた。


カラン、カラン、カツッ。


「ヒッ、」


橋本が両手で顔を覆うとする、その指の隙間。


丁寧に滑り込む。


橋本は右手でしっかりと、カッターナイフを握り締めてしまった。


「ヒッ、あッ、あッ、ユイッ、やめてね、お願い、やめて。ぼく、本当に遊びたかっただけ、だから、ね? ね? だから――ッ」


カチッ。


叫んだ拍子に、脂汗の浮いた橋本の親指が力強く、スライダーを押し上げた。


「あッ」


焦り、左手でそれを止めようと、逆に真っすぐにスライダーを上へと押し上げてしまう。


カチ、カチ、カチッ。


「あッ、あッ、ダメッ、止まらな、いッ」


氷室の左眼も、白鳥の両眼も。


ただ無言で、その破滅を冷酷に見下ろしていた。


部屋を包むのは、精密機械の駆動音だけ。


無駄。


「お願いッ、ごめんねッ! ごめんなさいッ、許してよおおおッ! ユイ、お願いだ、いやだあ、いやだあああああ――」


――ドスッ。


鉄が、肉を裂き、骨にぶつかる鈍い音。


「痛だぁあああッ!?、痛ッ!、やだああ、これ痛だあ――」


――ドスッ、ドスッ、ドスッ。


「カ、……ッ、ガハッ、ぁ、あ、……ッ、ガ、……!」


――ドスッ、ドスッ。


「……っ、……、……。」


やがて、肉を刻む音だけが暗闇に響き、声は消えた。


氷室の瞳が、暗黒の視界の奥で、因果の真実を捉える。




【運命の改竄】


――死亡:座敷童(1679) 死因:自殺




「……自殺が確定した因果から、そのカッターナイフを届けに来た。お前の幸運程度で、人間の執念が曲げられると思うな」


氷室の声が、死に絶えた部屋に響き渡る。


空間に漂うのは、無数の光る糸。


1679年もの間、この街から不当に搾取され続けた、奇跡の残滓。


それらがパチパチと音を立てて千切れ、闇の中へ溶けていく。


氷室は、静かに踵を返した。


「次は静子だ。社長室に連れて行ってくれ。――もう、何も見えなくなった」


「はい、お供します」


冷たくなった白鳥の手が、氷室の手を優しく、だが確実に握った。


視界は完全な暗黒。


二人の足取りに躊躇はない。


静かに、血の匂いが充満する部屋を後にした。


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