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【閲覧注意】大型案件の決済種別が『一家心中』だった。 ――因果を読む派遣社員は、322歳の社長を許さない  作者: 葛石
第四章 因果応報編

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カチチ


夕方。


閉め切った部屋の隙間。


血のような西日が差し込んでいた。


「ごめん、涼子。最近バタバタしててさ」


受話器の向こう。


親友の声は、今にも消え入りそうなほどだった。


『ううん、大丈夫……』


かすかに、呼吸が切れている。


「結果はどうだった?」


『……心臓病だった。医者は、早期発見で運が良かったって言うけど』


「そう。それなら安心だね」


『……ユイ、私、結婚を止めようか悩んでる』


指先で弄んでいたUSBメモリの金属面。


赤い西日が反射して、潰れかけた網膜を刺す。


スロットに差し込む。


残された指が、本命を掴む。


「どうして?」


『彼にこれ以上、負担をかけたくないの。……私の周り、不幸ばかりで。あ、ごめん……』


スピーカーから漏れ出す、湿った嗚咽。


本当なら、今すぐこの親友に駆けつけて、抱きしめたかった。


だが、氷室の胸は、もう何の感情も呼び起こさない。


壊れた硝子のような瞳。


もう、他人の痛みが分からない。


『彼のね、お姉さんとお兄さん……立て続けに亡くなったの。それで、今度は私。これ以上、彼を悲しませられないよ……』


涼子の語る事実。


氷室の頭脳で急速に並べ替えられていく。


婚約者とその一族を襲う、連続死。


そして、涼子の突然の発病。


繋がる。


世界が、明確な殺意を持っている。


『福止め死』だ。


『ユイ、一つだけ教えて?』


「どうした?」


――くるくる。


指先で弄ぶ冷たい鋼を、しっかりと掴む。


『ユイ、本当に変わってない?』


「ああ、変わらないよ」


短い、張り詰めた沈黙。


『……ユイはさ、私が検査を受ける前に、心臓の病気を言い当てたよね』


受話器の向こうから、冷たい疑惑が滴り落ちる。


『私の婚約者……真壁悠人がさ。すごく、不思議がってるの。なんで分かったんだって』


真壁悠人。


面識のない、あの、営業。


因果の糸が、氷室の身辺へ明確に収束していた。


『悠人くんのお兄さんは、ユイの自宅前で事故。お姉さんの英子さんは、ユイの近くのお弁当屋さん。……おかしいよ。ユイの周りで、不幸が起きすぎてる』


『ねえ、ユイ。本当のことを教えて』


「何だ?」


『いま、誰と話してるのか分からない。……怖いよ』


指先で弄んでいた、それ――カッターナイフを、強く握りしめる。


金属の冷たさが、手のひらに食い込む。


カチ。


カチ、カチ。


暗い部屋に、刃がせり出す金属音だけが響く。


『ユイ……変わっちゃったよ』


「ああ。そうだな」


取り繕うための仮面は、もう摩耗して消えた。


自分の唇から漏れる声すら、どこか遠い他人のもののように聞こえていた。


「涼子。正直に言う。もう、分からないんだ。眼も、自分が誰なのかも」


崩壊を始めた肉体と、世界に喰われた精神。


「怖がらせてごめん。だから、いまは会えない。でも、心配するな」


氷室の瞳に、昏い光が宿る。


「もう少しで、みんな幸せにするから」


指を滑らせ、通話を切る。


泥のような静寂。


左手の中にある、カッターナイフ。


真壁英子を狂わせ、死へ叩き落とした、あの狂気の残滓がここにある。


カチチッ。


押し上げていたスライダーを戻し、刃を収める。


明日。


これで、殺す。


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