4行
「ふざけるなッ……、ふざけるなッ!!」
刑事達は、泥を啜り、必死に抗っていた。
不条理な世界に爪を立て、最後まで生きようともがいていた。
「誰も死なせるかッ! 運命なんか知るか! 全員、私が書き換えてやる……ッ!!」
左手を突き出す。
この爪で、引き裂いてやる。
白いブラウスの胸元が、眼から噴き出す鮮血で、瞬く間に赤黒く染まっていく。
魂が、強引に肉体から引き剥がされる。
「あ、アアアアアアアアッ――!!」
頭骨が圧し潰されるような激痛。
どうでもいい。
――ギチギチ、ガリッ、ガッ!
痛みの向こう側へ突っ切る。
灼熱が眼玉を、視界を、すべてを焼き切る。
「知るかッ! 皆がんばったんだぞ……! 死ぬわけないだろ……! 私のものだ、返せッ!! 返せよッ!! 皆が笑ってた時間まで、巻き戻せ――ッ!!」
喉を裂く絶叫が、世界を拒絶するように響き渡る。
その瞬間、世界が軋んだ。
メキメキと音を立てて時空が歪み、破滅の光景が、猛烈な勢いで逆再生されていく。
【運命の改竄】
――生存:倉持 剛 (48)
生存:陣内 勝 (42)
生存:井上 陽向(32)
生存:綾瀬 玲奈(26)
「アハハハハッ!」
激痛の果てに、笑いが込み上げていた。
両眼は光を失い、文字の形すら判別できない。
だが、それでよかった。
漆黒に染まりゆく視界の真ん中。
確かに『4つの行』が残されていた。
それだけが、残された網膜に映されていた。
直後。
濁った世界のすべてが、逆再生されていく。
その光景は、もう氷室には見えなかった。
『――番組の途中ですが、緊急ニュースをお伝えします。本日午前11時ごろ、福止市の交差点で警察車両2台が正面衝突する事故があり――』
デスクの向こうで、遠藤の短い悲鳴が上がった。
白鳥の、何かに怯えるような叫び声。
(……書き換わった、のか? あいつらは、助かった……?)
指一本動かせない。
思考の自由が、急速に奪われていく。
「氷室さんッ?! ちょっと、何それ、血が――」
顎の骨が砕けるかと思うほどの衝撃。
床に倒れ伏したのだと、遅れて理解した。
視界は真っ黒なままだった。
『――乗っていた警察官4人が意識不明の重体、市内の病院に緊急搬送されました――』
口角が吊り上がる。
喉の奥から、生暖かい塊が際限なく溢れ出てくる。
むせるような、不快な鉄の匂い。
「遠藤さん! 救急車! 早くッ!!」
「繋がらない、嘘、なんで……ッ!」
爪で画面を引っ掻くような、焦った操作音が聞こえる。
「や、やだ……、呼吸してない……。氷室さん、ダメよッ! お願い、起きてッ!」
鼓膜を震わせていた白鳥の声。
みるみる遠ざかり、歪んでいく。
(静子、ほら、また私の勝ちだ。……アハ、アハハハハッ、待ってろよ。次は、お前を、殺、……)
氷室の意識は、冷たい闇へと落ちていった。
第三章をお読みいただき、ありがとうございます。
『氷室は世界のルールさえ、ひっくり返してしまいます』
本作は結末までノンストップで駆け抜けます。
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皆様の熱量(応援)次第で、氷室が結末の更に先、いくつものストーリーを駆け抜けていく未来が決まります。




