ブランディングCM
液晶の光。
それ以外は暗闇。
橋本は申請書を読まずに、完了ボタンを押した。
【購買申請:詳細】
申請者
福止静子
品目
創業300周年 ブランディングCMの成功
承認者
システム管理者
内訳
倉持 剛 (48) 死因:交通事故 納期:本日
陣内 勝 (42) 死因:交通事故 納期:本日
井上 陽向(32) 死因:交通事故 納期:本日
綾瀬 玲奈(26) 死因:交通事故 納期:本日
申請画面のタブが、無機質に閉じられる。
次に表示される、福止静子が添付した画像の画面。
電子データ化された名刺。
「あ、みんな警察だったんだね~」
倉持の名刺。
「偶然だね~、ぼくも警察に追われてるんだよね」
タブが消える。
「あれ? でもそういえば、来ないな」
立ち上がる、黒いコンソール画面。
カチ、カチ。
電話の発信ログを、抹消する。
ボリ、ボリ。
スナックを噛み砕く、咀嚼音。
「……あ、そういうことか! クソババア、さっきの申請でアイツらを消しちゃったんだな……」
ボリ、ボリ。
橋本は、遠藤葵のSNSにログインした。
◇ ◇ ◇
液晶の光。
画面に映し出された、死者たちの顔写真。
ついさっきまで生きていた、4人の刑事。
写真の中の倉持は今より少し若く、まだ生気に満ちていた。
氷室は、静かに左手を翳す。
頭を焼き切るような、遠ざかる痛み。
網膜が焼き千切れたように、視界が暗転した。
(認めない、こんな下らない結末)
「――なあ、本当に長かったな、陣内」
倉持の口元が緩む。
「はい。長かったです」
福止署に引き継がれてきた、未解決の呪い。
――通称、福止め死。
「俺たちの代で、この案件を終わらせるぞ」
陣内が缶珈琲をすする。
その眼光は、鋭く街の歪みを監視し続けていた。
赤信号。
その瞬間、世界が牙を剥く。
踏み込んだ足が、そのまま床を付いた。
なぜか抵抗がない。
ブレーキの拒絶。
因果の強制執行。
「おい、まさか――」
急ハンドル。
対向車のサイドミラーが、吹き飛んだ。
サイドレバーを引き絞る。
手応えはない。
運悪く切断したワイヤーが、虚無を返した。
悪意を持ったエンジンが、獣のような咆哮をあげる。
異常な加速。
「車を、捨て――」
シートベルトを毟り取り、ドアレバーへ指を突っ込む。
だが、フロントガラスの真ん前。
磁石のように吸い寄せられてきた。
見覚えのある覆面パトカー。
井上。
綾瀬。
逃げ場のない因果のレール。
2台を真正面から嚙み砕く。
激突。
鼓膜を破壊する、金属の絶叫。
ガラスの豪雨が肉を切り刻む。
ひしゃげた車体が、容赦なく刑事を圧壊していく。
(……ああ、最後まで、生きようとしていたんだ)
電柱が圧し折れ、ガードレールが引き裂かれ、ようやく鉄の塊が停止する。
ポタッ、ポタッ。
氷室の頬を、雫が伝う。
それが涙なのか血なのか、どうでもよかった。
【運命の改竄】
――どの運命を救う?
品目
創業300周年 ブランディングCMの成功
決済種別
交通事故(福止警察署 刑事課)
内訳
倉持 剛 (48) 余命:48年 倫理:極 幸福:中
陣内 勝 (42) 余命:48年 倫理:極 幸福:中
井上 陽向(32) 余命:44年 倫理:高 幸福:中
綾瀬 玲奈(26) 余命:55年 倫理:高 幸福:中




