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【閲覧注意】弊社の『大型案件受注』の決済種別が『一家心中』と『交通事故』だった。――余命と因果を改竄する派遣社員の私は、322歳の社長を許さない。  作者: 葛石
第三章 共同戦線編

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捕まえられねえ

翌日。


取調室。


室内は、大の大人がすし詰め状態になっていた。


氷室、沢渡、赤城。


そして、じっと気配を殺す刑事たち。


室内に、緊張が充満する。


パイプ椅子に座る沢渡と赤城。


その頭上に浮かぶ余命は正常を示していた。


全員の視線が、机の一点に突き刺さっている。


沢渡のスマートフォン。


黒い液晶画面は、死んだように沈黙している。


「このまま待て。因果が動く」


氷室の言葉に、誰も異論は挟まない。


確信が、部屋の空気を完全に支配していた。


――来る。


確実に、何かが起きる。


根拠のない確信が、部屋の酸素をじわじわと奪っていくようだった。


沢渡の顎の先から、一滴の汗が離れた。


それが床へ滴り落ちた、その刹那。


――ヴ、ツ。


青白く発光した。


ヴ、ヴ、ヴ、ヴ、と。


低く、重苦しい震動が机に響く。


表示された発信源。




福止屋本社。




倉持の目配せ。


沢渡が、震える手で端末を耳に押し当てた。


「はい、沢渡です」


――ブツッ。


冷たく音が絶える。


切れた。


氷室と倉持の視線が交錯する。


「アポ電だな、コイツが犯人だ」


時刻、9時7分。


確定。


「赤城さん、沢渡さん、お疲れ様だ。陣内、釈放手続きと顛末書を頼む。井上、綾瀬ちゃん、二人の護送を頼む」


三人が頷き、赤城たちを連れて取調室を出て行く。


倉持は再び視線を氷室に戻した。


氷室が静かに頷く。




倉持は福止屋本社へ電話をかけた。


「福止署の刑事ですがね。ちょっとお宅の通話履歴で確認したいことがありましてね。……あ、お姉さんじゃ話が通じないね。担当者を出して貰える?」


受話器の向こうから、優雅なクラシックのメロディが流れ出した。


交差する氷室と倉持の視線。


突然、音が止まった。


倉持の目が、一瞬で刑事のそれに変わる。


――本気。


「――刑事課の倉持です。お宅の通話履歴を確認したくてですね、少し操作にご協力を頂けますか」


『通信記録の開示ですね~、裁判所の令状はありますか~』


へらへらとした、粘着質な男の声。


倉持の口角が、ニィと、醜く吊り上がる。


獲物を見つけた猛獣の顔。


「のんびりマニュアル対応してる暇はねえんだよ。今日の9時から9時15分の間の発信記録だ。今すぐ出せ」


『お急ぎでしたら~、法務部を通して頂ければご協力しますけど~?』


「……お前さん、名前なんていうの?」


『橋本です~』


「おい、橋本。法務部? ナメたこと言ってんじゃねえぞ。お宅の回線が犯罪に使われてんだ」


倉持は声をワントーン落とし、冷酷に告げた。


「一時間後に、制服警官の全部隊でお宅の本社ビルを包囲するからな」


『どうぞ~、ご自由に~。お茶出しましょうか~?』


バリ、ボリ、ボリ。


受話器の向こうから、ポテトチップスを咀嚼する音が響く。


「橋本。そのお茶、冷まさないように待っとけよ」


叩きつけるように、通話を切断した。


間髪入れず、陣内へダイヤルを繋ぐ。


「陣内、状況が変わった。護送したらすぐ福止屋に全員集めろ。派手に、大事おおごとにしてやる」


『了解』


スマートフォンをポケットに捻じ込む。


「氷室、そういうわけだ、用事が出来た――ああ、そうだった」


倉持が思い出したように、氷室に伝える。


「あのビルだがな、深夜に清掃業者でも入れろ。資材を監視カメラの前に詰め。入館証は業者用を用意しろ、紛失した事にしてな。非常階段から入れ」


ニヤリと、刑事の顔が歪む。


「手袋を忘れるなよ。……これでもう、警察おれたちは誰も捕まえられねえ」


「そうか、ありがとう」


氷室の短い、だがすべてを理解した声が取調室に溶ける。


二人の影が、部屋から静かに消えていった。



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