表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

18/22

運命

氷室は指定のタクシープールで倉持を待っていた。


リストの事件は巧妙にちりばめられていた。


社内の人間が3回連続で標的になることなど、あり得なかった。


(……不発に終わらせたからか? まあいい)


やがて、一台の車が現れた。


何の変哲もない、地味なグレーのセダン。


氷室の真横で速度を落とし、止まる。


助手席のドアが内側から開いた。


「待たせた」


車内から溢れ出たのは、染みついた煙草の匂い。


氷室は何も言わず、その助手席へ滑り込む。


固定された、無機質な無線機。


足元でカラリと音を立てる、珈琲の空き缶。


運転席の倉持は、何も言わない。


ただ、その鋭い眼光が、じっと氷室の横顔を値踏みしていた。


氷室はスマートフォンを取り出す。


「今日、この男女が殺人事件で死にます」


そのまま倉持へ差し出した。


画面に映る、撮影された写真。




新郎:赤城晴馬

新婦:沢渡澪




倉持が口を開くより、先だった。


「沢渡は30分後に出社します。赤城は確認中です」


カサリ、とA4用紙の束を倉持に突きつける。


「これまでの会社と事件の照合リストです」


倉持は氷室を睨み付けるように、リストを手にした。


その眼光には「素人の妄想だろう」という侮蔑が混じっている。


紙を捲る指。


一枚目、二枚目でぴたりと止まった。


カサ、カサ、と紙が擦れる音だけが車内に響く。


自殺、不審死、奇妙な事故。


この街の暗がりに埋もれる、倉持がずっと違和感を覚えていた未解決の事件。


因果関係をもってそこに列挙されていた。


「……おい、これは」


倉持の顔から、一気に血の気が引いていく。


もう侮りは無い。


倉持の手が、無線機を乱暴にひったくる。


「陣内、井上と綾瀬ちゃん呼んで。福止屋の尻尾を掴んだ」


『了解』


直後、氷室のスマートフォンが鳴り響いた。


画面の表示は――遠藤。


スピーカーに切り替える。


遠藤の元気な声が狭い車内に弾けた。


『先輩! 赤城さんの居場所が分かりました。新東邦物産の本社で仕事中です! 沢渡さんから確認が取れました!』


倉持がアクセルを踏み込む。


タイヤが悲鳴を上げた。


無線を掴み、吠える。


「陣内ッ! お前は福止屋へ向かえ。『沢渡 澪』を確保しろ。ターゲットだ!」


「沢渡は庶務課が抑えている」


氷室が冷徹に割り込む。


「到着次第、庶務課に内線を。会社の上層部を通さずに引き渡す」


「ハッハッハ! 聞いたか陣内!? 庶務課だそうだッ!」


『了解。失礼、本庁の応援の方ですか?』


無線の向こうで困惑が滲む。


「……フン、一般人だ。構わず動け、陣内」


氷室が手元の端末に声を落とす。


「聞こえた、遠藤? 内線が来たら引き渡して」


『……は、はい!!』


倉持がさらに無線へ指示を飛ばす。


「陣内、沢渡と赤城は夫婦だ。沢渡から赤城を説得させろ。俺が新東邦物産の本社で赤城を回収し、そのまま署に向かう」


『了解』


「気を付けて」


氷室の警告が重なる。


「確定しているのは『殺人事件が起きる』という事実だけ。あの二人を犯人に仕立て上げてでも成立させる。二人を絶対に会わせないで」


メーターの針は、法定速度をとうに振り切っていた。


「……どういうことなのか。説明は後で聞く」


倉持は、ハンドルを握る手に血の気を失わせるほど力を込めた。


『井上です。倉持さん、私は新東邦物産で合流したほうが早いです。15分で行けます』


倉持の脳内には、この街の全容が網羅されている。


「裏の搬入口だ。大型トラックが停まる道路沿いにいろ。そこなら死角に紛れ込める」


『了解』


『綾瀬です。福止屋の方が近いです。……ただ、20分はかかりそうで』


『陣内です。綾瀬さんは私が拾います』


『了解です!』


氷室は、ガラスに映る歪んだ街並みを睨みつける。


(どうする運命? 警察に護衛された人間に、殺人事件が起こせるのか? ……私が、絶対にさせない)


グレーのセダンが、咆哮を上げて首都高を切り裂いていった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ