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第二章 辺境の村と謎のおばあちゃん

三日間の馬車旅は、予想以上に長かった。


ガリウスはほとんど喋らなかった。アリアが話しかけるたびに「はい」「いいえ」「どうでもいいです」の三択で返してきた。


「ねえ、護衛って、もう少し愛想よくするものじゃないですか?」


「護衛の仕事は守ることです。愛想は含まれていません」


「でも旅の間、会話ゼロはきつくないですか」


「私はきつくありません」


「私はきついんですよ!」


ガリウスは窓の外を見た。そういう人だった。


ベルタ村に着いたのは、夕暮れどきだった。


小さな村だった。家が二十軒ほど。畑と森と、あとは何もない。王都の賑わいが遠い夢のようだった。


「ここで暮らせと……」


「そうです」


「一人で?」


「私は任務が終わり次第、王都に戻ります」


「え、帰るんですか?」


「当然です」


アリアは村の入り口に立ち尽くした。知り合いもいない。仕事もない。お金も少ししかない。


途方に暮れていると、背後から声がした。


「あんた、聖女候補だった子かい?」


振り返ると、腰の曲がった小柄なおばあさんがいた。白髪をきれいに束ね、薬草の匂いをまとわせた、不思議な雰囲気の老婆だった。


「え、なんで知ってるんですか?」


「噂はすぐ届くんだよ、田舎ってのは」おばあさんはアリアをじろじろ眺めた。「ルナというんだ。この村で薬草をやってる。あんたの荷物、薬草道具が入ってるね」


「あ、はい。昔から好きで……」


「どれだけ知ってる?」


「えっと、この辺で生える草なら大体……ヒールワート、ブルーセージ、モスフェン、あと——」


「モスフェンを知ってるのかい」ルナのおばあさんの目が光った。「王都の薬師でも知らない子が多いのに」


「山奥のじめじめした場所に生えてる、小さい青い草ですよね。煎じると咳に効く」


「正解だ」ルナはしばらくアリアをじっと見た。値踏みするような目だった。「……まあ、飯だけ食わせてやる。ただし、私の棚には勝手に触るんじゃないよ」


「わかりました」


「信用するとは言ってないからね」


「はい」


「いい返事だ」ルナはふんと鼻を鳴らした。「うちに来な」


ガリウスが小声でアリアに言った。「見知らぬ老婆について行くのは——」


「いいじゃないですか、ご飯って言ってるんですよ」


「護衛として——」


「ついてきていいですよ、もちろん」


ガリウスは何か言いかけて、やめた。


ルナのおばあさんの家は、村の外れにある小屋だった。中は薬草と瓶でいっぱいで、むせかえるような草の香りがした。アリアは思わず深呼吸した。


「好きな匂いですか、いい顔してる」とルナが笑った。それまでの値踏みするような目が、少しだけ和らいだ。


「大好きです」


「ふん」ルナはアリアの手を取って、指先を眺めた。「……薬草採りの手だね。爪の間に土が入ってる。最近も採ったのかい」


「旅の途中でも採ってました。つい」


ルナはしばらく黙った。それから言った。


「ならここで働きな」


「え?」


「私も歳でね、調合が追いつかなくて困ってたんだ。泊まる場所もないだろ。ここに住み込みで、薬草を手伝いな。ただし、最初の一週間は見習いだよ。使い物になるかどうか、見せてもらう」


アリアはルナを見た。ルナはアリアを見た。


「……本当にいいんですか?」


「いいから言ってるんだよ。歳寄りを疑うんじゃないよ」


こうして、アリアのベルタ村生活が始まった。


ガリウスはルナの家を出るなり言った。「送り届けました。任務完了です。明朝、王都に戻ります」


「そうですか。三日間ありがとうございました」


「……はい」


翌朝、ガリウスは本当に出発しようとしていた。馬に荷を括りつけ、手綱を持って——


「あ、ガリウスさん。今朝、向こうの峠が崩れたって聞きましたよ。迂回したら三日余分にかかるらしいです」


ガリウスは無言で荷を下ろした。


「……一日、様子を見ます」


それだけだった。本当にそれだけの理由だと、このときのアリアは思っていた。


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