夜明け前
タケルは目を覚まし、ベッドから起き上がる。
あくびをしながら、皆がいるテントへ向かった。
テントに入ると、テーブルに朝食が用意されていた。
「よ!」とコーヒーを片手にカートが笑っている。
カートの後ろでは、
マコがベックをしつこく追い回しながら
「私を子分にしてくれよ!」と駄々をこねていた。
「だから、定員オーバーだって言ってんだろ!」
「ッチ。オメーら、こいつを静かにさせろ!」
ベックがアルとタツに助けを求める。
「賑やかだねー」
カートがタケルに話しかける。
「いい加減、慣れた」
タケルは苦笑しながら答えた。
「ベックの怪我、もう大丈夫か?」
「シモンンズが言うには、あと2週間は安静だってよ」
カートはそう答え、洗濯物を抱えて立ち上がる。
タケルはその背中を見つめ、
ふと真剣な声で問いかけた。
「なぁ、村で襲われた時……アランに何かあったのか?
あいつ、最近よく出掛けてるけど……どこ行ってるんだ?」
カートは少しだけ表情を曇らせた。
「村で起きたことで、あいつなりに思うところがあったんだろう。
しばらくは、好きにやらせてやれよ」
真剣な面持ちで話すカート。
「意外だな。お前なら、明るくアランを励ますと思ってた」
タケルが言うと、
カートは肩をすくめるように笑った。
「アドバイスはしたさ」
「へー、どんな」
タケルが少し揶揄うように問いかける。
「俺の昔話をしてやった」
カートは軽く笑いながら言った。
「あんたの昔話か。俺も聞きたいな」
タケルが返すと、
カートはふっと目を伏せ、
どこか悲しそうに笑った。
「悪いな。今は話せないんだ」
タケルは冗談めかして、
「何だよ、アランだけ特別かよ」と
少し、いじけたように呟く。
「あぁ、あいつは特別なのさ。」
カートはまたしても、どこか悲しげに笑う。
タケルは怪訝そうに眉を寄せる。
「どういうことだよ……」
短い沈黙が落ちたあと、
カートは急に明るい声で言った。
「俺の直感!」
「アンタなぁ……」
「まぁ、俺も……あいつは何か俺らと違うって感じてたんだよ」
そう言いながら、タケルは空を見上げた。
「何か、でかいことをやらかすんじゃないかって期待してんだ」
楽しそうに語るタケルを見て、
カートは穏やかに微笑む。
「アランが羨ましいよ」
カートがそう言うと
「また、あいつを持ち上げて、、」とタケルは不満を表した。
「悪い悪い」
カートは明るく謝った。
「昔話はしてやれないが、代わりに何かしてやるよ!」
おどけた口調で言うカート。
タケルはすぐに真剣な表情になり
「それじゃあさ……俺にショクブツとの戦い方を教えてくれよ」
タケルはまっすぐカートを見つめた。
タケルの頼みに、
カートは少し驚いたように目を瞬かせ、
それから柔らかく微笑む。
「いいぜ。教えてやるよ」
「まずは体力作りからだな」
そう言ってタケルの背中を軽く叩き、
カートはテントから出ていった。
タケルは嬉しそうに表情を緩める。
「男に二言はないからな!」
そう呼びかけるタケルに、
カートは手をひらひらと振って応えた。
数日後
湖の浅瀬で、立ち尽くすアラン。
アランはそっと目を閉じる。
次の瞬間、迷いのない動きで水の中へ手を突っ込んだ。
指先が何かを掴む。
アランはそのまま、魚を素手で引き上げた。
ただ静かに呼吸を整えている。
「……また、できた」
すると突然、後ろから石が飛んできた。
アランは振り返りもせず、淡々と身をずらして避ける。
「さすがだな」
片手に石を持ったカートが、のんびり歩いてくる。
「ギリギリだったよ」
アランはそう言って、カートに微笑む。
「もう昼めしか?今日は早いな」
アランが尋ねると、カートは首を振る。
「いや、タケルの稽古のついでに寄っただけだ」
腰の木刀を軽く抜いて見せるカート。
「まぁ、体力作りに付き合ってる感じだがな」
カートはそう言い、木刀を戻した。
カートはそのままポケットに手を入れ、小さなペンダントを取り出した。
深く沈んだ色の石が、細い紐にぶら下がっている。
「アラン!」
短く呼ぶカート。
アランが振り向くと、カートはそれを無造作に差し出した。
「これ、持っとけ」
アランの掌の上で、石が静かに揺れた。
「いいのか。大事にしてたように見えたが」
アランは眉をひそめる。
「あぁ、だが……
お前が持っていた方が似合うと思ってな」
アランは言葉を返せず、ペンダントを見つめた。
そのとき、カートがふいに動きを止め、
遠くの雲へ視線を向ける。
巨大な竜巻が雷をまとい、こちらへ近づいていた。
「やばいな……汽車に戻るぞ」
カートが低く言う。
タケルは「あぁ」と返しながら、竜巻の大きさに驚いていた。
竜巻を見つめていると、ふと、雷雨を切り裂くように一本の線が走った。
何かが、一直線に飛んでいる。
灰色と銀色を基調とした金属の塊。
左右には細長く広がる板があり、前方は鋭く尖っている。
両端では小さなプロペラが回っていた。
まるで悪天候から逃げるように、機体は一直線にこちらへ向かってくる。
あっという間に迫り、アラン達の目の前を横切る機体。
その一瞬で、アランは操縦席の人物を捉えた。
耳当てのついた帽子をかぶり、ゴーグルを装着している。
駆け抜ける機体を見て、アランはあっけに取られていた。
「アラン!」
カートの鋭い声が飛ぶ。
咄嗟に振り返ると、そこにはショクブツが――。
「いつの間に!」
アランは素早く銃を構え、ショクブツを撃ち抜く。
「まだまだだな」
そう言うと、カートは靴紐を強く結び直す。
「急げ、汽車に戻るぞ」
嵐に巻き込まれ、宙を舞うショクブツ。
雷雨に押されるように、次々と迫り来る。
その頃、テントでは、
旅立つ準備をするベック達。
「アラン達、遅いな」
セレーネがぽつりと呟く。
外にいたマコが血相を変えて、ものすごい速さで戻ってきた。
「あいつら、ショクブツ連れてきやがった!」
涙目で走り込んでくる。
その様子を見て、アルが呆れたように口を開く。
「ショクブツにいちいち驚いてたら兄貴に――」
言いかけたところで、外を見て絶叫した。
「何、アレ?! デカいし、多い?!」
シモンズは望遠鏡を覗き込みながら、落ち着いた声で言う。
「ショクブツが嵐に飛ばされてるな。厄介だ」
「悠長に話している場合ですか?! どうするんですか?!」
ハンナが詰め寄る。
「大丈夫そうですよ」
シモンズは望遠鏡を覗いたまま言った。
「見てみます?」
望遠鏡の先では、タケルが刀を振るい、ショクブツたちと戦っていた。
「水の上に立っている?」
セレーネが不思議そうに呟く。
「そんなバカな!」
ハンナが望遠鏡を奪うように覗き込む。
「……湖が凍ってる?」
タケルの三メートル後方にはアランが立っていた。
武器は持っていないが、何かを叫び、腕を振っている。
その動きから、タケルに指示を出しているように見えた。
「あの二人、すごい……」
セレーネが息を呑む。
タケルは攻撃をかわしながら、次々とショクブツを倒していく。
そのすぐそばを動き回るアランは、かすり傷ひとつ負っていない。
「ちょっと待て! あいつ、なんで兄貴の刀持ってるんだよ!」
アルが叫ぶ。
ベッドで不貞腐れていたベックが顔を上げる。
「そういや、壊れた方の刀、カートに貸したな……」
「てっきり修理してくれるのかと思ってた……」
タツも呟く。
アラン達から少し離れた位置で、シモンズはボートの上から機関銃を撃ち、ショクブツを蹴散らしていく。
すると突然、三メートルほどの人型のショクブツが突っ込んでくる。
シモンズは巨人型に銃弾を浴びせる。
怯んだものの、止まらず突進してくる。
「やはり、弱点がわからないとキツいか……」
シモンズが呟いた瞬間、タケルが巨体に飛びかかった。
左胸を刺すと、ショクブツは悶え、そのまま倒れ込む。
「よく弱点が分かりましたね」
シモンズは“アラン”に声をかける。
「右四十五度!」
アランが叫ぶ。
タケルは即座に斜め右へ刀を向けた。
刀先に植物の触手が伸びてくる。
タケルは触手を切り裂き、そのまま本体へ駆け寄り、切り倒した。
「これで終わりか?」
タケルが息を整えながら尋ねる。
「あぁ。お疲れ」
アランが応える。
二人がボートに飛び乗った瞬間、湖の氷がゆっくりと溶け始めた。




