機械仕掛け
ショクブツ達を蹴散らすボートを、
アランは息を呑んで見つめていた。
そのとき、一部のショクブツがアランに気づき、音もなく迫ってくる。
ボートに夢中のアランは気づいていない。
「危ない!」
タケルの叫びで、アランは我に返った。
視界の端から、ショクブツのツタが飛び込んでくる。
アランは思わず目を瞑り、身構えた。
直後、発砲音が響く。
恐る恐る目を開けるアラン。
目の前には、
刀を携えたベックと、銃を構えたカートの姿があった。
ベックの刀身は青白く光り、電気を帯びている。
柄を軽く叩き、刀から電池を取り出すベック。
「やるじゃない」
カートがベックに声をかける。
ベックは唾を吐き、ショクブツに睨みを効かせた。
「何が起きてるんだ……」
ボートを操作しながらシモンズが呟く。
「兄様! 岸でショクブツと戦う人影が!」
ハンナが機関銃を操りながら叫ぶ。
シモンズは舵輪を勢いよく回し、アラン達の方へと舵を切った。
カート、アラン、ベックはショクブツ達と交戦を続けていた。
「ボートがこっちに向かってくるよ!」
アルが叫ぶ。
「チャンスだ!」
声を上げるカート。
ボートとアラン達に挟まれ、ショクブツ達は逃げ場を失った。
ベックは刀の出力を上げる。
すると刀身が眩しいほどに青白く輝いた。
助走をつけ、刀を投げ放つベック。
刀がショクブツに突き刺さると、
落雷のような衝撃が走り、
周囲のショクブツ達が一斉に吹き飛んだ。
ショクブツが消えると、
ボートがアラン達に近づいてきた。
カートの目の前で止まるボート。
そのボートから一人の男が飛び降りてきた。
「あなた達は村人ではなさそうですね。なぜ旧時代の武器を持っているのですか?」
男が問いかけると、ベックは眉をひそめた。
「挨拶もなしに、いきなり質問か?」
2人の視線がぶつかり、空気が張りつめる。
「まぁまぁ」とカートが間に入る。
男は一度息を整え、淡々と続けた。
「失礼しました。私はシモンズと言います。後ろにいるのはハンナです。」
シモンズの後ろで軽く会釈をするハンナ。
その場の空気を気にする様子もなく、
「俺はカート! よろしく!」とシモンズの手を両手で握るアラン。
その勢いのまま、おどけた調子でベックの耳元に顔を寄せる。
「ほらベック君!相手もちゃんと名乗ったんだし、自己紹介ぐらいしたら?」
「今、俺は虫のいどころが悪いんだよ」
ベックはカートを払いのけ、車へ戻っていった。
そんな3人の様子をよそに、アランは叫ぶ。
「何呑気なことやっているんだ!早く助けに行かないと!」
鬼気迫る表情で訴えかけるアラン。
湖の中央に浮かぶ島は、まるで巨大な焚き火のように赤く燃え盛っていた。
アランを一瞥し、シモンズは淡々と言う。
「……あそこに生き残りがいる可能性はゼロです」
「そんなの、行ってみないとわからないだろ!」
アランが声を荒げた。
その言葉に、シモンズの表情がわずかに歪む。
抑えていた苛立ちが、顔に浮かんだ。
「頼む。連れてってやってくれ」
カートが一歩前に出た。
いつもの軽さはなく、真剣な声だった。
シモンズはカートの目を見つめる。
「危険すぎる……」
シモンズは小さく呟く。
カートはしゃがみ込み、シモンズの足元に生えた草をむしり取った。
「火は消したいだろ」
そう言って、“植物”をシモンズの目の前に差し出す。
シモンズはその草を見つめ、短く息を吐いた。
「……あなたも来るなら、いいですよ」
シモンズはそう言い残し、ボートの準備へ向かった。
アランとカートがボートに乗ろうとしたそのとき、
「俺も行くぜ!」と
タケルが駆け寄ってきた。
「タケル……お前はセレーネと見張りをしていてくれ」
カートが静止する。
「でも……」
「セレーネはショクブツを見るのが初めてなはずだ。お前が付いていてやれ。」
カートは静かに言った。
タケルは唇を噛み、そして小さく頷く。
「……分かったよ」
「行くなら、早くしてください」
シモンズが声をかける。
「今行く!」
アランとカートはボートに飛び乗った。
「俺も行く」
アランが振り返ると、と仏頂面のベックが、ボートに足をかけていた。
「別に構いませんよ」
シモンズは愛想なく答え、ボートを発進させる。
エンジン音が湖面に響き、ボートは燃え盛る村へ向かって走り出した。
その様子を見つめているタケル。
「助かってる人なんているわけないのに……」
アルが小さく呟いた。
すかさずタケルが反論する。
「そんなこと、行ってみないとわかんねぇだろ!」
その瞬間、タツがタケルの胸ぐらを掴んだ。
「どう見たって、助かっている人間がいるわけないだろ!」
怒鳴り声が響く。
「タツ!」
アルの声で、タツはハッと我に返った。
「……悪いな。つい」
タツは手を離し、視線を落とす。
しばらく沈黙が続いた後、タツが口を開いた。
「俺たちは、襲われた村をいくつも見てきたんだ……」
タケルは言葉を失う。
村に上陸したシモンズとハンナは、すぐさま消火活動に取りかかった。
炎の音と焦げた匂いが、風に混じって流れてくる。
カートがベックに声をかける。
「あんた、あの二人の手伝いをするのは好かないだろ?」
「だったらなんだよ」
ベックはそっけなく返す。
「アランを見ていてくれ!」
「なんでガキの子守をしなきゃならねーんだ……って、あいつどこ行った?」
ベックが辺りを見回す。
気づけばアランは、生存者を探しながら炎の中へ走り込んでいた。
「あいつ、死にたいのか!」
ベックは叫び、アランを追いかける。
アランは村の中心部にたどり着いた。
助けを求める声がないか、必死に周囲を見回す。
しばらくして、ベックが追いついてきた。
「お前なぁ……」
息を切らしながらアランに駆け寄る。
その瞬間、アランは周囲の悲惨な光景に耐えきれず、胃の中のものを吐き出した。
「ったく、しょうがねえな」
ベックは気だるそうに呟いた。
そのとき、ベックは嫌な感触を覚え、身構えた。
直後、どこからか声が響く。
「生き残りか?」
アランとベックは慌てて周囲を見渡す。
炎の揺らめきの向こうから、一人の少年が姿を現した。
ベックはすぐさま睨みを利かせ、刀を構える。
「オメーがこの村を・・・?」
「勘違いするな。俺は後から来た身だ」
ベックは警戒を解かず睨みを効かせる。
「お前も、よその村から来たのか?」
そう問われると、少年は鼻で笑い、腕に装着した金属製のアーマーに電池を装填した。
その動作は慣れたもので、迷いがない。
ベックは舌打ちし、刀に電池を差し込む。
そして、ためらいなく少年へ飛びかかった。
シモンズらと共に消火活動をしていたカート。
突然、ベックの叫び声が響き、
カートはバケツを投げ捨て、駆け出した。
「何があった!」
声を張り上げながら現場へ飛び込むカート。
そこには、腕を押さえたまま地面に倒れ込むベックの姿があった。
痛みに耐えるベック。
その視線は、一人の少年に向けられている。
カートは少年に目を向け、息を呑む。
「そんな最先端の武器、どこで手に入れた?」
そう問いかけるカート。
「さあ、どこだろね?
俺は、あんたが何者かの方が気になるよ」
少年は挑発的に楽しげに話す。
腕のアーマーに電池を装填すると、アーマーの先端にレーザー光で形成された刃が現れた。
カートは腰の銃に手を伸ばす。
だが銃を構えるより早く、少年は目の前に迫っていた。
少年は笑みを浮かべたまま、刃をカートの腹へ突きつける。
「カート!」
アランの叫びが響く。
しかし次の瞬間、カートの姿は少年の斜め後ろに移動していた。
地面に着地すると同時に、カートは少年へ向けて発砲する。
少年は表情を一変させた。
驚きながらもアーマーを操作し照準を合わせる。
すると、カートの放った光弾はアーマーに吸い込まれるように蒸発してしまった。
身構えるカート。
少年のアーマーからは、焦げたような煙が立ち上っていた。
「まさか、こっちの世界に戻っていたとはな!」
少年の声は、どこか嬉しそうだった。
ゆっくりとアランへ銃口を向ける少年。
「天然物は後回しだ・・・」
そう呟きながら、銃口をアランからカートへと滑らせる。
その動きは、まるで“本命”を見つけたかのようだった。
「いや、ここでまとめて・・・」
そう言いかけた瞬間、突風が吹き荒れた。
アランが空を見上げると、3メートルほどの巨大な鎧が宙に浮かんでいた。
「どういうつもりだい、ネモ」
巨大な鎧から声が発せられる。
ネモと呼ばれた少年は、腕のアーマーをいじりながら舌打ちする。
「……時間切れか」
アラン達は呆気に取られ、ただその場に立ち尽くす。
次の瞬間、巨大な鎧が地上へ向けて手をかざしてきた。
「まずい!」
カートは叫び、倒れたベックを抱える。
アランの元へ駆け寄ろうとしたその時、
アランの姿が、一瞬だけ“揺らいだ“。
まるで空気の屈折に飲まれたように、輪郭がぼやける。
カートが目を凝らす間もなく、
鎧の掌から空気を裂くような衝撃波が放たれた。
カートは吹き飛ばされまいと身を屈める。
地面が震え、砂埃が舞い上がる。
やがて衝撃が収まり、カートゆっくりと顔を上げた。
そこには巨大な鎧の姿も、ネモの姿も、もうどこにもなかった。
「アラン!」
カートが叫ぶ。
「……う」
カートの真後ろから声が聞こえる。
振り返ると、アランが頭を押さえながら、フラフラと立ちあがっていた。
「何が起きたんですか!」
シモンズが叫びながら駆け込んできた。
「話は後だ!」
カートは短く言い、ベックの応急処置を始める。
「ひどい傷だ……。ハンナ、包帯と消毒液を持ってきてくれ!」
シモンズが素早く指示を飛ばす。
「こんな傷、舐めときゃ治るっつーの……」
ベックは額に汗を滲ませ、苦しげに笑った。
「そうですか。では――」
シモンズは容赦なく消毒液を傷口にかけた。
ベックは叫び声を上げる。
その様子を見ながら、カートはニコニコと笑って言った。
「じゃ、あとは二人に任せたよ!」
そう言って立ち上がり、その場を離れようとする。
すれ違いざま、カートはアランの肩を軽く叩いた。
「……話がある。ちょっと付き合え」
さっきまでの軽さは消え、真剣な表情だった。
「……いつからだ? あの力を使えるようになったのは」
アランに問いかけるカート。
「え……?」
アランは思わず足を止める。
カートはその反応を一度だけ確かめ、
少し視線をそらした。
「……あの少年を見て、お前はどう感じた?」
アランは言葉に詰まり、返せない。
夜風が乾いた地面を撫で、
二人の間の空気がひどく静かになる。
「お前の無鉄砲さは嫌いじゃないが……もう少し頭を使え」
カートにそう言われ、
アランは深手のベックを見つめる。
自分が何もできなかった瞬間が、胸の奥で鈍く疼いた。




