選ばれし者たち
静かな洞窟。
光る粒が壁をかすめ、足元の影を薄く切る。
「これで三日は持つかな」
少年がキノコを折り取り、袋へ押し込んだ。
袋を抱えて車へ戻る小柄な少年。
「兄貴! 食料は確保したよ!」
少年が元気よく叫ぶ。
「アル、悪いが静かにしてくれ……」
車の中から、人相の悪い青年が顔を出す。
「ベックの兄貴、まだ寝てたんだ。もう出発するんじゃないの?」
アルが尋ねる。
「タツに聞いてくれ」
ベックは気だるそうに呟き、再び目を閉じた。
車の下では、タツと呼ばれた男が仰向けで整備をしていた。
「ねえねえ、いつ出発するの?」
アルが覗き込む。
「もう少しメンテさせてくれ」
タツは工具を握ったまま答える。
「妙に気合い入ってんじゃねーか」
ベックが寝転んだまま言う。
「地図だと、この先に変なマークがあるんすよ」
タツは車の下から出てきて、地図を広げた。
「この、洞窟同士が交差してる箇所に印があるんです」
「気にすることないんじゃない? 今までだって入り組んだ場所はあったけど、なんともなかったし」
そうアルが言うと、ベックが地図を覗き込む。
「まあ、用心に越したことねえ。メンテはすぐ終わるんだろ?」
ベックは水を飲みながら立ち上がる。
「アル、飯作るぞ!」
ベックは笑いながら火起こしを始める。
夕食を終え、車に乗り込む3人。
ベックが電池を差し込みエンジン音を唸らせる。
「飛ばしてくぜ!」
そう言って勢いよくボタンを押すカート。
激しいドラムとエレキギターの音が車から響き渡る。
アクセルを踏み込み、洞窟を駆けていく。
走り始めしばらく経つと、不意にベックが眉をひそめる。
「兄貴?どうしたんですか?」
タツが尋ねる。
「ノイズがいつもより酷いな……例の箇所って、この辺りか?」
ベックが尋ね返す。
「そうっす。もう少しで交差地点です」
タツが答える。
すると突然、ベックの表情が固くなった。
「2人とも周囲に注意しろ!」
声を張るベック。
その瞬間、車の横に巨大な影が現れる。
「何! あの鉄の塊!」
アルが叫ぶ。
「人が乗ってるように見えるが……まさか」
タツが呟くと、ベックは笑い声を上げた。
「面白ぇ。俺たちのスピードについてきやがる」
笑いながらも眼光は鋭い。
アクセルを踏み込み、さらに加速する。
「どうした!そんなもんか!」
ベックは汽車に向かって叫んだ。
汽車の中で呆然とするアラン。
「なんだよ。あれ……」
タケルは空いた口が塞がらず、漏らすように呟いた。
幻想的な洞窟に突如現れた男達。
未知の乗り物。
聞いたことのない激しい音楽。
カートだけがニヤついている。
「のってやろうじゃないか!」
カートは楽しそうに呟き、指示を飛ばす。
「アランは操作に回れ! タケルは電池を火室に投げ入れろ!」
二人は慌てて動き出す。
「風が強いから、お嬢ちゃんは離れてて」
ハンナに声をかけ、窓辺に移動するカート。
勢いよく窓を開け、タイミングを見計らっている。
「おいおい、まさか」
タケルが叫ぶのも束の間、
汽車から飛び出すカート。
セレーナが慌てて窓に駆け寄ると、
カートは相手の車にしがみついていた。
突然男が飛び乗ってきて、驚くベック達。
「何?何?なんの音?」
「イカれてやがる……」
ベックは苦笑しながら呟く。
仕方なく減速し、車は止まった。
✳︎
「……あんた何者だ?」
ベックはカートに問いかける。
「えっと……俺はカート……汽車で旅してて……」
カートはふらふらしながら答えた。
「なんだ、このふざけたおっさんは」
ベックは、引き攣った顔でカートを見つめる。
アルがカートに声をかける。
「ねぇねぇ、お前が乗ってた汽車、止まる気配ないけどいいの?」
「へ?」
カートは気の抜けた声を出した。
ふと汽車の方へ視線を向けると、
汽車は、加速を続けていた。
「まずい!」
カートは慌てて手を振り、跳ね、必死に合図を送った。
急停車した汽車の中では、
カートとタケルがぐったりしていた。
「大丈夫か?」
カートは慌てて汽車に乗り込み、
二人に水を差し出す。
「大丈夫なもんかよ」
アランは水を飲み干すと、そのまま倒れ込んで眠ってしまった。
数時間後
アランは客室で目を覚ました。
✳︎情景描写
「おい、タケル!起きろ」
「なんだよ、もう少し寝させてくれ」
外から聞こえる賑やかな声に耳を澄ませるアラン。
恐る恐る外へ出る。
すると、目の前には、焚き火を囲み、
楽しそうなカートとベック達の姿があった。
談笑しながら食事をしているカート。
「何がどうなっている……?」
カートが二人に気づき、手を振る。
「おーい!やっと起きたな!」
陽気なカート。
「あいつらがアランとタケルか。どっちがどっちだ?」
ベックが笑う。
「カートから全部聞いてるぞ。根性あるじゃねえか」
「ベック達は洞窟を、この車で旅してるんだって!」
カートが説明する。
焚き火の明かりが洞窟の壁を揺らし、影がゆっくり混ざっていった。
「軍用の四駆なんてイカすねー!!」
カートがそう言うと、ベックは爆笑した。
「アンタ、ほんと何者だよ。なんでそんなこと知ってんだ」
そんな2人のやり取りを見て、苦笑いをするタケル。
「完全に意気投合してるじゃねーか……」
「あんたらも遠慮せず食べなよ」
アルがタケルにキノコのステーキを差し出す。
食事をしながら旅の話をし、打ち解けていく一同。
アランとタケルが会話をしている。
「へぇ、あんたらも、洞窟で遺物を見つけて……じゃぁ目指すはやっぱり塔か?」
「あぁ、この地図に沿ってな」
「どれどれ?見せてくれよ!」
そう言ってタケルが割り込んできた。
「お!途中まで俺たちと同じルートじゃねーか」
タケルがそう言うとベックは肩をすくめた。
「じゃあ決まりだ。しばらく同伴ってことで」
そう言って笑い、火に枝をくべた。
数時間後
汽車と車は並走しながら洞窟を駆け抜けていく。
しばらく走ると、進行方向からわずかに光が差し込んできた。
「そろそろ出口だ!」
ベックが声を上げる。
「それにしては暗いな、夜か?」
アルが呟く。
「いや、月明かりにしては不自然だ」
そう言ってアランは目を細め、前方を見据えた。
洞窟を抜けた瞬間、
星空の下で赤い炎が燃え盛っていた。
広大な野原と湖。
湖の中央にある島から火の手が上がり、悲鳴が響く。
ベックが舌打ちした。
「ショクブツに村が襲われてやがる」
タケルとセレーネは驚き、
タツとアルは悔しそうに顔を歪めた。
湖の風が焦げた匂いを運び、炎の赤が水面をゆっくり染めていた。
すると突然アランが叫び、指をさす。
「おい、あれ!」
アランが指さす先には、
湖の端から、村へ向かって走るボートの姿があった。
搭載された機関銃が火花を散らし、ショクブツ達を次々と蹴散らしていた。




